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GIRD(Glenohumeral internal rotation deficit)と投球動作。肩甲骨後傾が減少することが明らかに❗️

📖 文献情報 と 抄録和訳

投球時のバイオメカニクスと筋活動に及ぼす肩関節内旋欠損の影響

Weng, Yi-Hsuan, et al. "Glenohumeral internal rotation deficit on pitching biomechanics and muscle activity." International Journal of Sports Medicine (2021). https://doi.org/10.1055/a-1667-6080

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 症状のあるGIRD投手(SG)の肩甲骨投球バイオメカニクスを、無症候性GIRD(ASG)および健常投手と比較して特徴付けること。

[方法] 高校生の投手33名を対象に、投球時の肩甲骨のキネマティクスと関連する筋活動を記録した。

[結果] 健常者と比較して、GIRD投手は各投球イベントにおいて肩甲骨後傾が小さく(平均差、AD=14.4°、p<0.01)、ASGはボールリリース時の肩甲骨上方回転が小さく(AD=12.8°、p<0.01)、コッキング初期段階において上腕三頭筋の筋肉活動が大きく(AD=9.9%、p=0.015)、コッキング後期段階では前鋸筋に筋肉活動が大きかった(AD=30.8%、p<0.01)。さらに、SGはASGと比較して、加速期の上腕三頭筋とコッキング期の前鋸筋の筋活動が少なかった(それぞれAD=37.8%、p=0.016; AD=15.5%, p<0.01)。

[結論] GIRD投手は投球時の肩甲骨後傾が少なく、インピンジメントを引き起こす可能性がある。肩前部の硬さは、腕の挙上時の後傾が不十分となる一般的な原因であるため、肩前部のストレッチ運動が推奨される。GIRDの投手では投球時のリクルートメントが不十分であることから、インピンジの可能性があり、それに伴い症状が発現する可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

✅ 肩関節内旋欠損(Glenohumeral internal rotation deficit: GIRD)とは?
・野球選手に代表されるオーバーヘッドアスリートに認める
・「肩関節外旋拡大+肩関節内旋制限」→アーク(弧)位置がより後方に偏位すること
・上腕骨の後捻と肩関節後方タイトネスが要因とされる
・GIRDのない投手と比較して、GIRDのある投手は、怪我や肩の手術のリスクが高い
📕Wilk, Kevin E., et al. The American Journal of Sports Medicine 39.2 (2011): 329-335. >>> doi.

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🌍 参考サイト >>> site.

今回は、考察を進めやすくするためにGIRD ≒ 上腕骨の後捻という構図で考える。
実際、GIRDと上腕骨の後捻の関連は蜜月関係で、GIRDから上腕骨の後捻の予測モデルを構築できるほどである。

今回の論文は、そのGIRDが投球動作バイオメカニクスにどのような影響を与えているのかを調査した。
その結果、「肩甲骨の後傾が少ない」ことが明らかとなった❗️
そもそも、これまで投球動作の三次元動作解析において肩甲骨動態を追うことは「夢」だったが、最近になって、それを現実にする方法がいくつか報告されている。
この研究のフルテキストを入手できていないので詳細はわからないが、その技術を使ってフロンティアを開拓した研究といえるだろう。

さて、「肩甲骨の後傾が少ない」、So what?(だから何?)である。
しかし、結論にもある通り、この肩甲骨後傾がインピンジメントを引き起こす元凶になりうる。
その仕組みを紐解いてみる。

▶︎GIRDは同じ上腕骨位置を楽に実現できる適応的変化である
・GIRD、上腕骨の後捻をすると、地面に対して同じ上腕骨位置を楽に実現できる
・楽に実現できるとは、肩外旋や肩甲骨後傾などの関節肢位の変化が少ないという意味
・今回の研究によって、「肩甲骨の後傾」において楽をしていることが明らかになった

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▶︎肩甲骨の後傾減少は肩峰下インピンジメントを引き起こしやすい
・肩峰下インピンジメントとは、肩峰下腔において上腕骨と天井間で起こるインピンジメント
・肩峰下腔の減少によって、インピンジメントが生じやすくなる
・天井は中間から後方にかけて低くなる
・肩甲骨の後傾が減少する→相対的に天井が後方になる
・そのため、肩峰下インピンジメントを引き起こしやすくなる

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▶︎肩甲骨の後傾減少はインターナルインピンジメントを引き起こしやすい
・インターナルインピンジメントは、腕を外転・外旋させた状態で大結節が関節後上方に突き当たる生理的現象
・野球の投手、ラケットスポーツの選手、競泳選手、槍投げ選手など、オーバーヘッドで腕を動かすスポーツ選手では、棘上筋腱の後線維、棘下筋腱の前線、後上腕唇の巻き込みを伴った上腕骨頭の後上腕骨への反復的・過度の圧迫が起こり、病的になる(📕Wilk, 2011 >>> doi.)
・臼蓋の後上方でのインピンジメント、肩甲骨の後傾が減少することで臼蓋の後上方が投球動作の反作用が加わる位置になる
・そのため、インターナルインピンジメントを引き起こしやすくなる

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📕 Mulyadi, E., et al. Clinical radiology 64.3 (2009): 307-318. >>> doi.

身体に適応的変化(上腕骨後捻)が生じると、必要な肢位を取ることが楽になる。
だけれども、投球が求める需要を満たせたからといって、気を抜いてはいけない。
その楽は、危険を生んでいるかも知れない。
適応的変化が、猫背リスクを大きくしているともいえるのだ。
楽に潜む、その落とし穴を見逃さない。そんなセラピストになりたい。

あらゆる偉大な人は、ただ創案することだけでなく、
捨て去り、篩い分け、造り替え、整えることにかけても倦む事を知らぬ、
偉大な労作者であった

ニーチェ

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