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静的漸進的ストレッチ(SCS)が関節拘縮を防ぐ。30分間で関節包線維化/炎症を抑制

📖 文献情報 と 抄録和訳

異なる静的漸進的ストレッチ時間が外傷後膝関節拘縮ラットモデルの可動域、筋線維芽細胞、コラーゲンに及ぼす影響

Wang, Lu, et al. "Effects of Different Static Progressive Stretching Durations on Range of Motion, Myofibroblasts, and Collagen in a Posttraumatic Knee Contracture Rat Model." Physical therapy 102.5 (2022): pzab300. https://doi.org/10.1093/ptj/pzab300

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:静的漸進的ストレッチとは?
- CPM(continuous passive motion:持続的関節他動訓練器)は膝を稼動させ続けるのに対して、SCS(static progressive stretch: 静的漸進的ストレッチ)は膝をストレッチさせ続ける
- 先行研究において推奨されるプロトコル:SPS療法は、SPSは屈曲と伸展の両方向のROM療法が可能で、5分間の短いストレッチを1日1~3回、最大30分かけて8週間行う。
- SPS装具を用いて行われる:SPS装具は、手技療法の補助として関節のこわばりを治療するための合意様式であるとされる。可動域 (ROM) を改善し、こわばりや痛みを軽減する治療の補助として、この方法の有効性と安全性が50以上の研究によって証明されている。

スライド2

📕Bhave, Anil, et al. Annals of Translational Medicine 7.Suppl 7 (2019). >>> doi.

[背景・目的] 本研究の目的は、ラットの外傷後膝関節拘縮に対する静的プログレッシブストレッチ(SPS)の効果のうち、可動域(ROM)、歩行分析、筋線維芽細胞増殖、コラーゲン調節などの効果を異なる期間で検討することであった。

[方法] 外傷後膝関節拘縮モデルを確立し、Wistar系雄性ラットを20分SPS投与群、30分SPS投与群(S30)、40分SPS投与群、無処置群、固定群、対照群に無作為に分けた。治療介入1、2、4週目に、関節ROMと歩行を測定し、比較した。ヘマトキシリン・エオジンおよびマッソントリクロームで染色した膝関節試料を用いて、病的構造の変化を観察した。関節包後部のコラーゲン密度と細胞数を用いて、関節包の線維化と炎症を評価した。免疫組織化学的手法により、I型コラーゲンおよびα-平滑筋アクチンの発現を検出した。

[結果] S30群は最も改善した。ROM、スタンス、平均強度、プリント面積、stride lengthはそれぞれ115(SD = 5)度、0.423(SD = 0.074)秒、156.020(SD = 7.952)、 2.116(SD = 0.078)cm2 および 11.758(SD = 0.548) cmであった。S30群では筋線維芽細胞、線維芽細胞、炎症細胞の数が減少し、コラーゲンの増殖が他の群に比べ有意に抑制された

[結論] S30はラットの外傷後膝関節拘縮を有意に改善し、I型コラーゲンおよびα-平滑筋アクチンの発現を低下させ、筋線維芽細胞および炎症細胞の数を減らし、関節包の線維化および炎症性変化を抑制し、関節可動性を増加させることが確認された。本研究は、ラットにおける外傷後膝関節拘縮に対する最適な標準治療法の基礎的証拠を提供するものであり、ヒトに対する意義も期待できる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

最初、アブストを見たときにこう思った。

30分間ストレッチング!?
はい、絶対現場で使えません❗️

だが、よく見てみると『静的漸進的ストレッチ(SCS: static progressive stretch)』と書いてある。
ここで、チャリティの原則を思い出した。

✅ チャリティの原則とは?
好意的解釈を念頭に置こうというもので、
・相手が正しい事を言っているものとして話を聞く
・相手が不条理な事を述べていたら、まずは自分の解釈の方を変える
といった考え方のこと
🌍 参考サイト >>> site.
📘 セラピストが知るべきチャリティの原則について;過去note参照
要は、「何か知らないこと・分からないこと・不合理と思ったことを、相手のせいにして終わるのではなく、自分自身に疑いの目を向けたり、自分自身を変えたりしようよ」、という考え方と転用解釈している。
僕たちは、自分が知らないもの → 面白くないものと即断しやすい。
だが、そもそもの前提に立ち返りたい。
勉強とは、知らないものを知り、自分を拡大していく営みではないか?
だとすれば、自分が知らないものこそ、面白そうなものとして、ダイブして、勉強して、血肉にしていくべきではないか。
少なくも、最新の論文を抄読するうえで、『チャリティの原則』は必須だ。
なぜなら、最新の論文とは、これまでの未開に一歩、二歩と踏み込んでいるもので、知らなくて当然のものばかりだから。
すでに知っているもの探す、というスタンスでは何も引っかからない。
未知に拒否反応が出るのは、それがコストだからだ、面倒だからだ。
もちろん、労苦から逃げていては生長はおぼつかない。

だから、調べてみた。
すると、面白いことが分かった。
よく知られているCPMとは違った、臨床外で取り入れられる機械を用いた介入としてSCSがあるということ。
そして、それが膝関節の拘縮予防に効果的であるということ。
今回抄読した論文は、その介入時間として30分間が適切であろうということ。
その仕組みとしては、「クリープ現象」がある。

✅ クリープ現象とは?
- 筋骨格系の大部分の組織は、粘弾性を有する。
- 粘弾性素材の1つの現象はクリープである。
- 図に示す木の枝のように、クリープは、一定の荷重家で素材の歪みが時間とともに進行する現象である。
- SCSの技術は、連続的な負荷をかける時間依存の材料特性であるクリープに依存している(📕Bonutti, 1994 >>> pubmed.)
📗 Panjabi, Manohar M., and Augustus A. White. Biomechanics in the musculoskeletal system. Churchill Livingstone, 2001. >>> amazon.

クリープ

SCSを知っていることで、例えば整形外科Dr.と話したときに、「CPMではなくてSCSという外傷後の膝拘縮予防の方法があるというのを最近知りました。これが論文です(3秒でリンク送信)📧✨」というコミュニケーションが可能となる。
その些細なコミュニケーションが機器購入につながり、介入の選択肢が増えるかもしれない。
何が実るかは分からないのだ。
だから、とにかく球を投げ続けてみること、その準備を怠らないこと。
それだけが、自分にできることの全部で、あとは何かに任せるしかない。

人間は何のために生きているかは、何かに任せておけばいいので、自分の馬鹿知恵で考える必要はないのだ
人間は自分が馬鹿だということを最初に知る必要がある
君のそもそもの間違いは、自分を賢いと思っている点だ
自分で役に立つか、立たないかがわかると思っているのは僕から言わすと利口には見えませんね
役に立つように見えて立たないところが、反って害のあることがいくらでもある
役に立たないと見えて、存外役に立つこともあるものです
役に立つたたないは人間より自然の方が知っているのです
だから本気になって、一生懸命になって出来ることは、その人が出来ることで一番この世に役に立つことになるのです
役に立つと思ってやってみても、すればするほど、気が滅入ってくることは、役に立たないことなのです
だから書をかく時、本気になれる程度で、その仕事が有意味か、無意味かがわかるのです
理屈で考えて役に立つとか、立たないとか決めるのは、僕から言わすと、愚の骨頂ですよ

武者小路実篤 空想先生

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