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聴きたい音楽が痛みを軽減させる

📖 文献情報 と 抄録和訳

痛みを調整する;主体性と能動的関与が音楽鑑賞後の痛みの強さの減少を予測する

📕Howlin, Claire, Alison Stapleton, and Brendan Rooney. "Tune out pain: Agency and active engagement predict decreases in pain intensity after music listening." Plos one 17.8 (2022): e0271329. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0271329
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🔑 Key points
- 痛みの軽減の仕方が音楽の聴き方によって変わることが明らかにされた
- 聴きたい音楽を「自ら選ぶこと」と痛みを軽減させることの間に関連性を認めた

[背景・目的] 音楽は、疼痛管理のための補助的な治療法として、ますます認識されるようになってきている。音楽は、慢性的な痛みと実験的な痛みの両方を軽減するのに役立つことがある。認知機能は、音楽がもたらす鎮痛効果を媒介する特定のメカニズムとして同定されているが、この特定のメカニズムが急性痛につながるかどうかは不明である。音楽による鎮痛効果を支える認知メカニズムを理解するためのこれまでの試みは、主に実験室ベースで行われており、観察された効果が参加者の日常生活にどの程度適用されるかは限定的であった。そこで本研究では、認知的主体性(音楽の選択性)、音楽の特徴(複雑さ)、音楽の洗練度(個人レベル)が痛みの認知にどの程度関連しているかを自然主義的な環境下で検討した。

[方法] オンライングローバル実験では、選択肢を2段階(選択肢なし、選択肢と認識)、音楽を2段階(複雑性の高い、低い)とした無作為化群間実験デザインを用いて、急性痛を経験した成人286人のサンプルが、音楽聴取の前後に痛みの強さと痛みの不快感を報告した。

✅ 実験手順の詳細
- 研究チームはこの調査をより実生活での経験に近い形で行うことを可能にするため、オーストラリア出身のミュージシャンに作曲を依頼。
- 参加者の誰も、それまでに聴いたことがない曲を使用した。そして、曲を聴いた前後に、それぞれが感じている痛みについて評価してもらった。
- チームは参加者たちを2つのグループに分け、一方にはシンプルな曲、もう一方には複雑な曲を聴いてもらった。さらに、それぞれのグループの半数の参加者たちには、どちらの音楽を聴くか「自ら選択した」と錯覚させるように設定し、残る半数には指定した曲を聴いてもらう形にした。
- 選択肢を与えられたと思っているグループには、用意したシンプルな曲と複雑な曲それぞれの異なる部分4カ所をサンプルとして提供。「痛みがあるときに聴くのに最適だと思う曲を選んでください」と伝え、自分で選んだ曲を聴いたと誤解するようにした
🌍 参考サイト >>> site.

[結果] 全体として、音楽に対する知覚的コントロールの向上が鎮痛効果と関連し、知覚的選択(「自ら選択した」)が音楽の複雑さよりも重要であることが示された。リスナーとの関わりの重要性が強調され、より高いレベルの積極的な関わりを報告した人々は、より低いレベルの積極的な関わりを報告した人々よりも、知覚的選択条件において、より大きな痛みの強さの減少を経験した

[結論] これらの知見は、研究と実践の両方に示唆を与え、音楽聴取の介入を通じて、選択の自由と音楽への持続的な関与を促進することの重要性を強調するものである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

先日、音の鎮痛効果は「闘争-逃走本能(fight-or-flight response)」という生物的本能に根ざすことを明らかにした文献の抄読をした。

それによれば、音の鎮痛効果は以下のように音の種類によって異なる。
■ 50db程度の音圧 → 鎮痛。
■ 60dbという強い音圧→効果が全くなくなる。
■ 環境ノイズとホワイトノイズの音圧の違いが5dbでは痛みが和らぐが、それ以上だと全く効果がない。

大事なことは、この研究は「マウスを対象とした研究」であったという点だ。脳の中の根深いところには、以上のような音の種類が重要になってくるのだろう。

うって変わって、今回は「人間を対象とした研究」である。
その結果は、音楽の種類自体というより『選択』が大切であることを明らかにした。各個人が、自分で選んだ音楽であるということが大事になってくるらしい。

これは、日常的には非常に納得のできる結果だと思う。
「ああ、あのミスチルの “終わりなき旅” 聴きたいな」という衝動のままに、それを再生、その音が身体に入ってきたときに「うわぁ、超いい曲」、感情の扉が開く。たとえば、その瞬間に “千の風になって” が再生されたとしても、感情の扉は開かない。
大事な点は、これは絶対的な好き嫌いではない、という点だ。
“千の風になって” を聴きたいときもあるのだ。
そのときには、逆にミスチルの曲では感情の扉は開かない。
すなわち、感情の扉の鍵穴は、時々刻々、形を変えているのだ。
そのときどきに応じて、自らが選択する自由があること。
その『自己選択感』が、感情の扉にマッチした鍵を作るらしい。

いま、イヤホンの進化も著しく、イヤホンつけたまま、日常会話もできるようになってきている(らしい)。近未来のリハビリの開始時には、以下のような会話がなされているかもしれない。

「〇〇さん。今日の曲は何にします?今日は筋トレきついので、アップテンポがいいかもしれませんよ」
「ほう。そうだね、矢沢でいくわ」

そして、その日のリハビリが始まり、各患者間では、全く違った音楽を聴いている・・・。その環境下では、それぞれの感じる疼痛は、おおむね減衰されている。
さらに、そのイヤホンに充実した補聴器機能や、高次脳機能を補正する機能が付いたとしたら、どうだろう。イヤホンの未来に、なんだかとても大きな可能性を感じてしまった今日この頃である。

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