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ステップ戦略の2種類。Feet-Forward or Splits

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者における規則的な歩行特性に基づく歩行スリップによる転倒タイプの評価

📕Wang, Shuaijie, Yi-Chung Clive Pai, and Tanvi Bhatt. "Gait Slip-Induced Fall-Type Assessment Based on Regular Gait Characteristics in Older Adults." Journal of Applied Biomechanics 38.3 (2022): 148-154. https://doi.org/10.1123/jab.2021-0337
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
✅ 前提知識:支持足の前方滑りの際のステップ足の2つの戦略
(1). 足前転倒者(Feet-Forward Faller):滑った支持足よりステップ足が前に接地するタイプの転倒
(2). 折れ転倒者(Split Faller):滑った支持足よりステップ足が後方に接地するタイプの転倒
📕 Yang, et al. Journal of biomechanics 45.7 (2012): 1259-1264. >>> PMC.

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[背景・目的] 高齢者は、異なる神経筋の脆弱性により、予期せぬ歩行の滑りの後にスプリット転倒またはフィートフォワード転倒を経験し、それぞれの転倒タイプに対して異なる介入戦略が必要になると思われる。そこで本研究では、規則的な歩行パターンに基づく転倒タイプに影響を与える主要因を調査することを目的とした。

[方法] 実験室で滑落転倒を経験した健常高齢者105名を対象とした。新規滑落試験の直前の自然歩行試験を分析した。転倒タイプに関連する因子を特定するため、単変量ロジスティック回帰を用いて歩行特性および人口統計学的因子を決定し、次に、これらの因子に基づく滑落誘発転倒タイプを評価するためにステップワイズロジスティック回帰を実施した。

[結果] 最も優れた転倒タイプ予測モデルは、歩行速度と回復足角速度であり、足前転倒の70.5%、スプリット転倒の86.9%を予測することが可能であった。ボディマス指数も転倒型予測として重要であり、全体の予測精度は70.5%であった。歩行パラメータと合わせて、前足部転倒の84.1%、スプリット転倒の78.7%を予測することができた。

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✅ 図. 2つの転倒予測モデルの受信機動作特性曲線。モデル1には歩行特性のみが含まれ、モデル2には歩行特性と人口統計学的尺度の両方が含まれた。

[結論] 本研究で得られた知見は、転倒タイプに関連する決定要因を明らかにし、滑りによる転倒に関連するメカニズムに関する知識を深め、滑りによる転倒予防のためのオーダーメイドの介入方法の開発に役立つと思われる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

この研究を抄読する際に、まず注意が必要なのは転倒の種類のなかでもかなり限定された転倒を対象としている点だ。
支持足が前方へスリップした場合の転倒。
この種類の転倒は、病院でのリハビリ中には少ない。
なぜなら、地面に滑りやすいもの(布など)が置いてあることは少ない環境だから。
入院中のリハビリで多いのは、以下の3タイプのように思われる。
(1)つまづきによる転倒
(2)支持中のバランス不良による転倒
(3)支持中の膝折れによる転倒
地域在住高齢者を考える上で、意義の大きい研究と思われる。

さらに、この研究の対象範囲が限定されるのは、支持足前方スリップが起こったときの『ステップ戦略』にのみ注目している点だ。
バランス反応は、足関節戦略・股関節戦略といった支持足でのバランス戦略と、踏み出し足のバランス戦略であるステップ戦略に大別されるが、後者のみに着眼した研究である。

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その中で、歩行速度が大きいと足前転倒、小さいと折れ転倒が生じやすいことが明らかとなった。
これを転倒を防ぐための介助にいかすとしたらどうなるだろう。
足前転倒では後方への転倒が予測されるので、患者の後ろで前上方への介助ができるようなイメージ・準備が必要。
折れ転倒では下方・前方への転倒が予測されるので、患者の腋窩に手を入れておくことや肩前に手を位置しておくなどの準備が必要。

転倒は、一瞬のみ。
転ぶことへの心理的準備、身体的準備の双方が揃って、はじめて救える。
「この人だったら、どう転ぶだろうか?」
そのイメージ如何によって、介助者が患者に対してどこに位置し、どのような準備をしておくかが規定される。
今回の研究の生かし方の1つは、その部分かなと思った。

転倒にも種類がある、決して一様ではない。
その具体例の1つを知ることができた、また少し理解が深まった。

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