高齢脊髄損傷者のリハビリ推奨事項
📖 文献情報 と 抄録和訳
脊髄損傷高齢者のリハビリテーションと管理に関するエビデンスに基づく推奨:臨床診療ガイドラインの系統的レビュー
[背景・目的] 加齢と脊髄損傷(spinal cord injury, SCI)の交差は世界的な関心事である。つのシナリオが説明されている: 1)「加齢に伴うSCI」、すなわちSCI発症の平均年齢の上昇、 および2)「SCIに伴う加齢」、すなわち損傷後の平均余命の延長である。これらのシナリオは、併存疾患の蓄積、加齢関連およびSCI誘発の生理学的変化、SCI後の二次的健康状態により、複雑なヘルスケアおよびリハビリテーションの必要性を伴う。我々は、SCI CPGsが「SCIを伴う加齢」または「加齢に伴うSCI」 を獲得した人々のリハビリテーションと管理に対する 推奨をどの程度含んでいるかを明らかにする目的で、 臨床実践ガイドライン(CPGs)を系統的に検討した。我々は、これらを「加齢に関連した推奨」と呼んだ。また、それらを記述し、ギャップを特定することも目的とした。
[方法] エビデンスの収集PubMed(NCBI)、CINAHL Complete(EBSCOhost)、Embase(Elsevier)で、2022年12月28日から2023年1月5日の間に関連するCPGを検索した。含まれるCPGはエビデンスに基づくもので、SCIのリハビリテーションと管理に関する加齢関連の推奨が少なくとも1つあるものであった。ギャップを特定するために、国際機能分類(ICF)の2つのコアセットを使用した。
[結果] エビデンスの統合特定された52のCPGのうち、加齢関連の推奨を含むものは16(30%)のみであった。そのほとんどは最近の米国または欧州の出版物であり、高齢化に関する特定の章はなかった。これらのCPGには40の高齢化関連の推奨が含まれており、そのほとんどが「強い」ものであったが、エビデンスの質は「低い」~「非常に低い」ものであった。開発プロセスの質は全体的に低く、利害関係者や患者の価値観や嗜好を考慮していなかった。
共通のトピックは、心血管、骨、代謝、腸、膀胱、皮膚の健康であった。
1. 評価 (Assess)
・転倒リスクや心血管リスク要因、栄養状態を評価し、褥瘡のリスクや骨の健康(骨密度が低い場合)を特定することが重要である。
・特に、ビタミンD不足や重要な血液検査(例: 血中カルシウム、ホスフェートなど)の確認が求められる。
2. 予防 (Prevent)
・DVT(深部静脈血栓症)予防のため、最低8週間の血栓予防療法が推奨される。
・また、帯状疱疹の予防接種は50歳以上の高リスク患者に勧められる。
3. 提供 (Offer)
・運動療法や高血圧の治療、カルシウムとビタミンDの補給が推奨される。タンパク質摂取やマルチビタミンの使用、必要に応じて高繊維食を提供することが重要である。
4. サービス提供の組織化 (Organize service delivery)
・長期フォローアップにはリハビリテーション医学の専門医が責任を持つべきであり、必要に応じて高齢者専門医や内分泌専門医を紹介することが推奨される。
・圧力管理と座位表面の再評価は2年ごと、またはそれ以上の頻度で行うべきである。
5. モニタリング (Monitor)
・45歳以上のDVT症状や心疾患リスク、排尿管理、座位表面の再評価が必要である。
・また、50歳以上では冠動脈疾患のリスクが高く、定期的な心電図検査が求められる。
6. 情報提供 (Inform about)
・閉経後の影響や膀胱がんリスク、座面および支持面の定期的な点検について患者に情報提供することが重要である。
勧告は30のICFカテゴリーにリンクさせることができたが、これは2つのICFコアセットの包括的バージョンに含まれるICFカテゴリーの18%に過ぎなかった。主なギャップは、運動機能、対人相互作用、人間関係、神経筋骨格系と運動関連、精神機能、感覚機能、疼痛機能に見られた。
[結論] SCIの管理およびリハビリテーションに関する質の高い加齢関連の推奨事項が著しく不足している。今後の研究では、年齢に応じたCPGを開発するために、質の高いエビデンスの作成を優先すべきである。将来のSCI CPGは、患者と利害関係者の好みを考慮しながら、加齢とSCIの接点にある複雑な課題に取り組む必要がある。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
脊髄損傷者のリハビリテーションは、あらゆる疾患の中でも、特異性の高いものだと感じる。
それは、ある脊髄レベルから下の運動や感覚が鈍麻する、という疾患自体が少なく、また生活やリハビリテーション上の注意点が独特であるからだと思っている。
その中で、リハビリテーションの中でどういう点に注意して進めたら良いか。
その疑問を、臨床ガイドラインの系統的レビューという信頼性の高い方法で明らかにしてくれたのが、今回の抄読研究である。
図中の赤字で示した部分が、特にリハビリテーションセラピストが強く関与する部分になる。
大きくは、転倒リスク、褥瘡リスクに関する領域への貢献が求められている。
特に、褥瘡リスクに関しては、脊髄損傷者へのリハビリテーションに独特のものだと思う。
本文の臨床ガイドラインを孫引けば、さらに詳細な方法を知ることができるだろう。
何にせよ、高齢の脊髄損傷者へのリハビリテーションに関わる際には、まず初めに確認しておきたい論文である。
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