見出し画像

ベンチマーク戦略:脳卒中者の在院日数を21日短縮します。

📖 文献情報 と 抄録和訳

機能的転帰に悪影響を及ぼすことなく、入院患者の脳卒中リハビリテーションの在院期間をベンチマーク化する

Durand, Anne, et al. "Benchmarking length of stay for inpatient stroke rehabilitation without adversely affecting functional outcomes." Journal of Rehabilitation Medicine 52.10 (2020): jrm00113-jrm00113.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:ベンチマーク戦略の概要
- 1. 脳卒中者の重症度を定義する:Weenら(📕Ween, 1996 >>> doi.)の脳卒中重症度分類(1:FIMTMスコア≧100、2:FIMTMスコア80~99、3:FIMTMスコア60~79、4:FIMTMスコア<60)に基づいて、入院時のFIMTMスコアの合計を4つの重症度サブグループに分けた。
- 2. 各重症度の当該施設の在院日数の常識を明らかにする:各サブグループの患者のLoRSの中央値は以下の通りであった。それぞれ30日、46日、77日、94日であった。
- 3. チームカンファで検討する:促進因子・阻害因子を検討して、退院予測の4つのタイプ(図参照)に区分する
- 4. 目標設定と介入を実施する:※ 介入内容の詳細は本文参照

スライド2

[背景・目的] 入院中の脳卒中リハビリテーション病棟入院患者の退院日を目標とする実践を導入したことがプロセスと患者の転帰に及ぼす効果を評価する。デザイン:レトロスペクティブ(対照群n = 69)とプロスペクティブ(実験群n = 60)の患者の比較。

[方法] リハビリテーションの専門家は、標準化された評価ツールキットを用いて、入院時と退院時に両群の評価を行った。対照群の重症度別LoRSの中央値に基づいて、リハビリテーション滞在期間(LoRS)のベンチマークを導入した。集学的チームは、患者のベンチマーク達成の予測に影響を与える促進因子と障害を文書化した。カテゴリー変数は厳密確率を用いたχ2検定を用いて比較した。順序変数と連続変数はランクベースのノンパラメトリック分散分析を用いて分析した。効果量は相対治療効果統計量を用いて推定した。

[結果] 実験群の急性期ケアとリハビリテーション病床での平均在院日数(82日)は、対照群(103日)よりも短かった(p = 0.0084)。この21日間の入院期間の短縮には、脳卒中発症から脳卒中リハビリテーション病棟入院までの平均時間の10日間の短縮が含まれていた(p = 0.000014)。リハビリテーションによる6つの機能的転帰と感覚運動の転帰の改善は両群で同程度の大きさであり、機能的自立度評価(FIMTM)の効率は改善した(p = 0.022)。チームは、どの患者がLoRSベンチマークで退院するかを予測することに87%の成功を収めた。

[結論] リハビリテーションにおける滞在期間をベンチマークすることで、機能的および感覚運動的な患者の転帰に悪影響を及ぼすことなく、ベッド占有率とシステムコストを削減することができた。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

“0”から“1”を創るのは、難しい
“1”から“2”を創るのは、易しい

Columbus

まことに、脳卒中者の目標における「時期」の設定は難しい。
コロンブスの所業を必要とする仕事だ。
なんといっても、未来のことは分からない。
振り返って、「どうしてこうなった?」と思う症例は山のようにいて、想定とのGapの解釈に追われる日々。
そもそも、最初のランドマーク日数(参照点)をどうやって決めているのか?
これに明確に答えられる人が、どれだけいるだろう。
その集団内の常識によって、おおよその参照点が決まっていて、そこから促進・阻害因子に影響され、最終的に目標時期が決まる、というのが、おおよそ僕たちの頭の中で起こっていることだろう。
「それを、科学的にやった」というのが、今回のベンチマーク戦略だ。

その集団内の常識を過去のデータから明らかにして、それに促進因子・阻害因子の説明責任を負わせ、最終的にカンファでゴール時期を定める、という。
ベンチマーク戦略の特徴は、「比較的規模の小さい集団(その病院など)内における常識的な在院日数」を参照点にしていることだ。
国などの、もっと大きな集団でやればいいではないか。と思ったりもする。
そこには、以下の理由があるのではないだろうか。

ゴール時期の設定には、どうしたって主観が絡む。
・ドクターが保守的である
・患者が挑戦的である
・家族が保守的である
・リハは保守的である
・ソーシャルワーカーは保守的である
など、疾患や身体機能・動作能力といった客観的な部分以外の、主観的要因が複雑に絡んで、1つの時期が決まっている。
すなわち、その病院内での常識は、他の集団には適応されにくい可能性が高い
主観に正解はないし、人それぞれで、多様だからだ。当たり前のことだ。
そして大事なことは、常識を大きな常識に統一し切ることではなく、
その小さな常識を知り、それらが実際に、良い方向に動くことだ。
繰り返すが、常識はどうしたって、その集団ごとに形成される。
そして、主観は、外部からは捻じ曲げて成功するものではない。

保守的な人間に対して「攻撃的になりなさい!」、ということは、
真っ直ぐ伸びる杉に、松になれ、ということに等しい。
主観は尊重されるべきで、その集団なりの常識から出発して、その常識を動かしていけばいい。

いいんだよ、あなたがたなりで。
ただ、いまいるところより、前へ!
全員が、全員なりのあゆみで、前へ!

その参照点を、その集団の常識から決める。
ベンチマーク戦略。
僕は、素晴らしいと思った。

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集

最近の学び