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温泉女将の「おもてなし」。ネガティブな表情を瞬時に察知

📖 文献情報 と 抄録和訳

日本のおもてなし "OMOTENASHI "の専門知識による顔感情知覚に関連するERPと心理物理学的変化

📕Miki, K., Takeshima, Y., Kida, T. et al. The ERP and psychophysical changes related to facial emotion perception by expertise in Japanese hospitality, “OMOTENASHI”. Sci Rep 12, 9089 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-11905-2

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:画像処理の脳波、N170とP100
- N170:顔の情報は通常視覚によって得ていますが、その情報処理に関する脳活動を反映した脳波成分の代表例として、顔を見てから約170ミリ秒後に左右側頭部でみられるN170成分というものがある。この成分は、顔を見た際に大きくなることから顔特有の成分とされているのに加え、表情の種類によってもその成分が変化することが知られている。
- P100:一方で、どんな画像を見ても、画像提示から約100ミリ秒後に左右後頭部でみられるP100成分というものがあり、このP100成分も、N170成分ほどではないが、表情の種類によっても変化することが知られている。
🌍 参考サイト >>> site.

[背景・目的] おもてなしとは、接客業における日本独自のこころがけのこと。このおもてなしに関する脳活動の解明は未だ行われていなかったが、今回、おもてなしに長けた温泉女将の方々をはじめとする接客業者は、接客の際のお客さんの表情を読み取る能力が高いのではないかという仮説を立てて、心理学実験と脳波計測を行った。

[方法] 40名の被験者を、おもてなしの精神とされる旅館に勤務するOMOTENASHIグループと、おもてなしの経験のないCONTROLグループに分けた。中立顔,幸せ顔,怒り顔を呈示し,これらによるP100とN170,および感情知覚の評価として好意度評価テストによる心理物理的変化を検討した。

[結果] 好意度評価テストでは、CONTROLに比べOMOTENASHIで有意にスコアが小さく(好感度が低い)なった。事象関連電位成分については、P100の最大振幅は、対照群に比べ、OMOTENASHIでは右後頭部電極で中立顔に対して有意に大きく、OMOTENASHIでは両後頭部電極で怒り顔に対して有意に大きくなっていた。しかし、N170のピーク潜時および最大振幅は、各感情条件において、両側頭電極でOMOTENASHIと対照者の間に有意な差はなかった。

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✅ 図. OMOTENASHIとCONTROLの左右後頭部のO1、O2におけるP100の大平均波形(上)と、ニュートラル、ハッピー、アングリーのP100のトポグラフィーマップ(下)。

[結論] 好意度評価テストとP100の表層での差は、旅館従業員が接客訓練によって客の表情感情に素早く気づき、より敏感になること、あるいは接客の専門知識がトップダウンおよびボトムアップの処理によって感情への注意を高める可能性が示唆された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

パソコンの画面を見ながら話していて、
ちっともこちら(患者)の方を見てくれない

嫌な診察・診療あるあるであろう。
相手を見る、見ないということは、とても大事なことのように思える。
今回、抄読した研究の結果、おもてなしのプロは、相手の感情の微細な変化を、表情から瞬時に察知する力に優れることが明らかになった。
すなわち、おもてなしの実態の1つは「相手を見て、相手を知る」ことにあるようだ。

最近、アクティブリスニングという言葉を知った。
これは、「全集中で相手に対する積極的傾聴」のことだ。
その要点の5項目をとって、SOLER原則というものが提唱されている。
この5項目を守ることで、患者や、同僚や、家族の表情の変化に敏感になれるかもしれない。

✅ SLOER原則
S = Square (真っ正面) : 相手の正面に座る
0 = Open(オープンな姿勢) : 足や腕を組んだり、手遊びをしたりしない
L = Lean(もたれる) : 相手に体を傾ける
E = Eye contact(アイコンタクト) : 相手と目を合わせる
R = Relax(リラックス) : ソワソワせずに、落ち着きを保つ
📗 Egan, Gerard. "The skilled helper: a problem-management approach to helping . Pacific Grove: Brooks." (1998).

そして、この研究においてもう1つ注目したいのは、「ネガティブに敏感」という部分。
相手に影響を及ぼそうとするとき、その種類を思いきって2種類に区分すると「Strength Use:SU」「Deficit Correction:DC」になる。
SUとは、よい部分、相手の善に光を当てて、それをさらに強化しよう、という方向性。
DCとは、悪い部分、不足や修正事項に光を当てて、それをなくす、改善しよう、という方向性。
今回の結果では、「おもてなし」群ではDCに敏感な職員が多かった。
だが、果たして本当にそうだろうか。
トップホスピタリティ、最良のおもてなしは、不足や問題をなくそうとする営みなのだろうか。
今回の研究デザインを、「最高の旅館職員」vs.「一般の旅館職員」に当てはめたらどうなるかを知りたい。

この瞬間からできること。
目を、体を、心を。
目の前の尊い相手から逸らすな。
いつだって、ここが天王山。
ここで、勝敗が決する、その連続なだけだ。
連続しているからわかりにくい、が、
原点は、ここにしかない。
原点であり、最終目標である、いま、ここ。
それ以外は、空想に過ぎない。
集中しろ。いまを、焦がせ。

オヤジの栄光時代はいつだよ…
全日本の時か?
俺は……
俺は今なんだよ!!

桜木花道

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