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ワイルダーの原理:運動は血圧を「最適化」する

📖 文献情報 と 抄録和訳

持久力運動トレーニングは、ワイルダーの原理で血圧を下げる

Mora-Rodriguez R, Ortega JF, Morales-Palomo F, Ramirez-Jimenez M, Moreno-Cabañas A, Alvarez-Jimenez L. Endurance Exercise Training reduces Blood Pressure according to the Wilder's Principle. Int J Sports Med. 2022 Apr;43(4):336-343.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:ワイルダーの原理とは?
- ワイルダーの原理とは、「何らかの作用に対する身体機能の反応の方向は、その機能の初期レベルに大きく依存する」という、ジョセフ・ワイルダーが提唱した法則。
- ワイルダーはピロカルピン、アトロピン、アドレナリンをヒトの被験者に注射し、注射前に被験者が高い値を持っていた場合、脈拍と血圧の変化が平均よりも小さく、その逆もあることを発見した
🌍 Wikipedia >>> wiki.

[背景・目的] 降圧薬(antihypertensive medicine (AHM))の効果は、治療前の血圧が高いほど大きい。このWilderの原理が、運動トレーニングによる血圧低下効果にも適用されるかどうかは不明である。

[方法] メタボリックシンドローム(MetS)の中年者(55±8歳)178名(n=178)に、高強度インターバルトレーニング(週1回3日)を16週間実施した。参加者はAHMの薬物療法を受けている者(Med; n=103)と受けていない者(No Med; n=75)に分けられた。運動トレーニングの前後で血圧を評価した。相関とステップワイズ回帰分析を用いて、トレーニングによる収縮期血圧(SBP)の低下をよりよく予測する変数を決定した。

[結果-考察] トレーニング後、高血圧の参加者は、Med群(-15mmHg、95%CI-12,-19、P<0.001)またはNo Med群(-13mmHg、95%CI-9,-16、P<0.001)にかかわらず、同程度にSBPを下降させた。しかし,正常血圧群ではSBPは低下しなかった(Med群:P=0.847,No Med群:P=0.937).治療前のSBP値は、運動トレーニングの低下効果の最良の予測因子であった(r=-0.650; β=-0.642; P<0.001)。トレーニング前のSBPが10mmHg高くなるごとに、5mmHg深いSBP低下効果があった(Wilderの原理)。さらに、AHMは運動トレーニングの血圧低下効果を妨げない。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

EIM(Exercise is Medicine)という言葉がある。
多くの分野で運動の威力が実証され、「もはや薬レベルですよね」との捉え方。
一例として、認知機能改善の効果は運動と薬剤で同等レベルであることが確認されている(📕Pisani, 2021 >>> doi.)。

では、運動と薬剤を比較したときに、運動の強みとは何だろう?
その1つが、今回論文が明らかにした「最適化を引き起こす」だと思う。
今回の結果で注目したいのは、「初期血圧が高ければ下げる効果、初期血圧が正常なら変化なし」という部分だ。
すなわち、運動は血圧を一方向性に下げるのではなく、最適化する。
高ければ下げ、正常なら正常のまま。
これは凄いことだ。
なぜなら、この効果が本当なら、運動の過剰処方が消滅するからである。
どこまでやっても最適なら、やり過ぎはなくなる、というわけだ。
運動を処方することは、最適化作用のおかげで、過剰処方のリスクが小さいという強みがある。

一方、薬剤はそういうわけにはいかない。
ワイルダーの原理のように初期値によって効果の大きさは影響されるとしても、どうしたって、一方向性の効果を持つだろう。
降圧剤を使い過ぎれば、最適を通り過ぎて下がりすぎてしまう、ということがあり得る(臨床上もよく遭遇する)。
インスリンを使い過ぎれば、一気に血糖値が落ちてしまい生命が危機に晒される場合だってある。
薬剤は、過剰処方のリスクに細心の注意が必要だ。

いま、最適でないなら最適へ
いま、最適ならそのまま最適で

さらに知りたいのは、初期値が低い場合はどうなるのだろう、ということ。上がるのだろうか。もしそうなら、運動は真に最適化を実現する処方薬と呼べる。
中庸。
それを実現する数少ない処方薬なのかもしれない。
運動。その実態を学び続けたい。

下り坂に向かう兆しは最盛期に現れ、新しいものの胎動は衰退の極に生じる。
洪自誠『菜根譚』

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