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地上 vs. トレッドミル歩行


📖 文献情報 と 抄録和訳

健康成人におけるトレッドミル歩行と地上歩行との生理学的、知覚的、生体力学的差異:系統的レビューとメタ分析

📕Vickery-Howe, D. M., et al. "Physiological, perceptual, and biomechanical differences between treadmill and overground walking in healthy adults: A systematic review and meta-analysis." Journal of Sports Sciences 41.23 (2023): 2088-2120. https://doi.org/10.1080/02640414.2024.2312481
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[背景・目的] このシステマティックレビューとメタアナリシスは、トレッドミルでの歩行と地上での歩行とで、生理学的、知覚的、生体力学的な結果を比較することを目的としている。

[方法] 5つのデータベース(CINAHL、EMBASE、MEDLINE、SPORTDiscus、Web of Science)を2022年9月まで検索した。組み入れられた研究は、健康な成人(18~65歳)を対象に、同じ速度(5%未満の差)で歩行し、電動トレッドミルと地上での生体力学的、生理学的、知覚的指標を比較するクロスオーバーデザインである必要があった。研究の質は、修正Downs and Black Quality Indexを用いて評価した。すべての主要アウトカム指標について、標準化平均差±95%信頼区間を決定するためにメタアナリシスを実施した。

[結果] 1,005人が参加した55の研究が組み入れられた。

図はトレッドミル歩行と地上歩行の間に見られる生理学的および生体力学的な違いを示している。

1. 生理学的パラメータ
・VO2 (酸素消費量):トレッドミル上で高くなる傾向がある。特に遅い歩行速度では顕著である。これは運動強度の調整やトレッドミルの動きに対する適応が関与していると考えられる。

2. 生体力学的パラメータ
・ストライド長(Stride Length): トレッドミルでは地上歩行に比べて短くなる傾向がある。これは歩行パターンの変化やトレッドミルの動きに対応するための適応として説明できる。
・ステップ長(Step Length): トレッドミル上で短くなる。
・ストライド時間(Stride Time): 中程度の歩行速度でトレッドミル上で短くなる。
・両脚支持時間(Double Support Time): 境界線上の結果が見られる。
・ケイデンス(Cadence): トレッドミル上では高くなる傾向があり、特に遅い歩行速度で顕著である。

3. 力学的パラメータ
・vGRF(垂直方向の地面反力): 一部のパラメータでトレッドミル上で高くなる傾向があるが、全体的には一致しない結果が多い。

4. 関節モーメントと角度
・股関節屈曲モーメント(Hip Flexion Moment): 中程度の歩行速度では差が見られないが、全体としてトレッドミル上で高くなる傾向がある。
・股関節伸展モーメント(Hip Extension Moment): トレッドミル上で高くなる傾向が強い。
・膝関節伸展モーメント(Knee Extension Moment): トレッドミル上で低くなる。
・足関節背屈モーメント(Ankle Dorsiflexion Moment): トレッドミル上で低くなる傾向がある。
・股関節屈曲角度(Hip Flexion Angle): トレッドミルではヒップフレクション角度が増加することがあるが、全体的には顕著な違いは見られない。
・足関節背屈角度(Ankle Angle): 足首の背屈(Dorsiflexion)および足底屈(Plantarflexion)に関しては、トレッドミル上での変化が見られるが、歩行速度により影響を受ける。

[結論] トレッドミルでの酸素消費量、時空間、運動量の違いは、トレッドミルでのコントロール不足、不快感、慣れのために安定性を高めようとしているのかもしれない。トレッドミルの構造(路面の硬さ,運動パワーなど)は,考慮すべき追加的な制約であり,調査が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

トレッドミルで歩くことは、患者さんにとってとても難しいことのように思われる。
地上では歩行できているのに、トレッドミルに乗った途端、転倒リスクが高まったりする。
あるいは、トレッドミル上で歩行練習をしたあと、地上での歩容や歩行安定性に影響が出たりする。
どうやら、この2種類の環境上の違いは、歩行に大きな影響を及ぼしている、そう感じていた。

今回の抄読研究は、その部分の真実を明らかにしてくれた。
55件の研究を束ね、地上での歩行とトレッドミル上での歩行の違いを示した。
その結果の一例として、トレッドミル上での歩行は地上と比較して、膝関節、足関節への負荷(モーメント)が小さく、股関節への負荷(モーメント)が大きいことが明らかとなった。
ここから、低い膝関節、足関節負荷でのリハビリや、股関節への負荷量を高めたい場合に、トレッドミル歩行は役立つ可能性がある。

以上のように、今回の結果をリハビリテーション中の歩行練習に求めたい需要と照らし合わせることで、より効果的な歩行練習につながる可能性がある。
「何となく違う」、を具体的な違いの知識に転換して、臨床をより効果的なものにしたい。

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