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ブックティータイム「妖異金瓶梅」
透明なガラスポットの中に、種々の色彩がゆらゆらと揺れている。彼女が優雅な所作で取り出したのは、よく使うマグカップではなく白い花びらのように薄い磁器の湯呑だった。
注がれる液体の香りは紅茶に似ていたが、紅茶よりずっと色味の薄い金色がかった茶色であり、湯呑の隣に置かれた皿に乗っているのは、無邪気な華やかさに溢れた中華菓子だった。花や草木を象った月餅菓子は、気取った和菓子のような繊細さはない代わりに、親
「雨降る朝に」140字小説
朝、寝台で雨の音を聞く。朝の雨は良い。君は濡れるのを嫌がって、いつもより遅く出て行くから。残念なことに、今朝は通り雨。すぐに雨音が遠くなって行く。腕の中で、眠たげに君が身動いだ。
「…雨?」
「…うん」
些細な僕の嘘。
もう少しだけ、このまま。
「雨降る日に」140字小説
ふと窓を見ると、向こう側の景色を隔てる硝子に、一滴、雫がぶつかった。そう思っている間に、雫は見る間に増えて、幾筋もの流水になっていく。不安そうに窓を見る彼女は、確か傘を忘れていたはず。…下校時刻。言うのだ。きっと言うのだ。僕は、傘を握りしめた。
何も求めることはない 詩
何も求めることはない
浅く微睡む時間さえ。
後悔ばかりが生まれては
長き途上に立ち竦む。
振り返っては悩みに悩み
先行く人らの旅路を妬む。
我がことながらに情けなし
今日も己を嫌悪し斃(たお)る。