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百人一首

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百人一首に入っている歌を一首ずつ読んでみています。別の場所に既出の文章です。
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記事一覧

心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花

心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花

凡河内躬恒

白菊の花をよめる

心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花

(こころあてに おらばやおらん はつしもの おきまどわせる しらぎくのはな)

訳 やってみようか、できるだろうか。
分からない。
その辺り、折ってみようか適当に。
今朝は寒いから真っ白の霜が降りているようだ。薄暗くてよく見えないが、あれは霜なのか白菊なのか。

心あて…心に頼みとすること。当て推量。
折らばや

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山里は冬ぞ寂しさまさりける人目も草もかれぬと思へば

山里は冬ぞ寂しさまさりける人目も草もかれぬと思へば

源宗于朝臣

冬の歌とて詠める

山里は冬ぞ寂しさまさりける人目も草もかれぬと思へば

(やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもえば)

都と違って山里では冬はいよいよ寂しさがつのることだよ。訪ねてきていた人の足も遠のき、周囲も冬枯れで寂しい景色が広がっていると思うと。

山里…山の中にある人里。
ぞ〜ける…「係結び」です。強意の係助詞「ぞ」の力が強いので、文末の形が

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このたびはぬさもとりあへず手向山もみぢの錦神のまにまに

このたびはぬさもとりあへず手向山もみぢの錦神のまにまに

菅家(菅原道真)

朱雀院の奈良におはしましたりける時に手向山にてよみける

このたびはぬさもとりあへず手向山もみぢの錦神のまにまに

(このたびは ぬさもとりあえず たむけやま もみじのにしき かみのまにまに)

訳 宇多上皇が、奈良へいらっしゃった時に、手向山で読みました歌。

今回の旅は、幣も持ち合わせておりませんが、旅の安全をここに祈念しまして、幣の代わりにこの錦に色づいた紅葉を捧げます。

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小倉山峰のもみぢ葉心あらばいまひとたびのみゆき待たなむ

小倉山峰のもみぢ葉心あらばいまひとたびのみゆき待たなむ

貞信公(藤原忠平)

亭子の院の大井川に御幸ありて、行幸もありぬべき所なりと仰せ給ふに、ことのよし奏せむと申して 
小倉山峰のもみぢ葉心あらばいまひとたびのみゆき待たなむ

(おぐらやま みねのもみじば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなん)

訳 亭子院が大井川にいらっしゃって、天皇もぜひここへ来てこの景色を見てほしいと仰ったので、お出ましのご提案を天皇に申し上げようと思いまして詠みまし

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名にしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな

名にしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな

三条右大臣(藤原定方)

女につかはしける

名にしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな

(なにしおわばおうさかやまのさねかづらひとにしられでくるよしもがな)

訳 ある女に送った歌
誰にも見られずあなたの元へ行きあなたをこの胸に手繰り寄せる手立てを考え続けている。その名を持っているならば、逢坂山の実葛よ、分かっておくれ。実葛に託す私の想いを受け取っておくれ。必ず必ず会いに行くよ。

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吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ

吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ

文屋康秀

これさだのみこの家の哥合のうた

吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ

(これさだのみこのいえのうたあわせのうた
ふくからに あきのくさきの しおるれば むべやまかぜを あらしというらん)

訳 秋だったんだよねえ。吹いたと思ったらすぐに、草木が枯れちゃったねえ。だもんで、うん、山と風を組みあわせて嵐と言うんだよねえ。山からの風で景色が一変しちゃったねえ。美しい庭

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月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど

月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど

大江千里

月みればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど

(つきみればちぢにものこそかなしけれわがみひとつのあきにはあらねど)

訳 月を見ていると様々に思い乱れて物悲しい気分になり塞ぎ込む。
秋は私ひとりだけにあるわけでなく、悲しい気分になっている人も多いだろうが、この気分は分かち合うこともできない。
毎夜毎夜月を見て泣くぐらいしかできない。

みれば…見ると
ちぢに…千々に。様々

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今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな

今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな

素性法師

今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな

(いまこんといいしばかりにながつきのありあけのつきをまちいでつるかな)

訳 これから行くねって言うから待ってたけど、全然来なかったね。もう9月なんだけど。9月も終わりよ。明け方にしらーっとして空に残ってる月ぐらいしか私を見てないわよ。しらーっとして。あなた騙されたのよって最近毎朝言われるのよ。月に。

来む…I'm comin

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みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるかむ

みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるかむ

中納言兼輔

みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるらむ

(みかのはらわきてながるるいづみがわいつみきとてかこいしかるらん)

訳 あなたが美しい、あなたが華奢な字を書いている、あなたから良い香りがする、あなたが数々の男を夢中にさせているらしいという噂を聞くたびに、みかの原をザックリと分かちて流れるいづみ川のように私の心は張り裂ける。会ったわけでもないあなたを思って、なぜ毎夜毎夜こん

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立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む

立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む

中納言行平

立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む

(たちわかれ いなばのやまの みねにおうる まつとしきかば いまかえりこん)

訳 お別れだね。
(…ああ、泣かないで)
僕は因幡国へ行ってしまうけど、
因幡山の峰には松が生えているらしい。
僕は毎日その松を見るだろう、君を想って。
君が待っていると聞いたなら、すぐに帰ってくるからね。
君は僕を待っていられるかな。

いなばの

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ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは

ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは

在原業平朝臣

二条のきさきの春宮の御息所と申しける時に、御屏風に竜田川にもみぢ流れたるかたをかけりけるを題にてよめる

ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは

(ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ からくれないに みずくくるとは)

ちはやぶる…神にかかる枕詞。
神代…神々がおさめていた時代
くくる…絞り染めする

訳 二条の后が、東宮の御息所と申し上げた頃、竜田川に紅葉

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陸奥のしのぶもぢずりたれゆゑに乱れそめにしわれならなくに

陸奥のしのぶもぢずりたれゆゑに乱れそめにしわれならなくに

河原左大臣

陸奥のしのぶもぢずりたれゆゑに乱れそめにしわれならなくに

(みちのくの しのぶもじずり たれゆえに みだれそめにし われならなくに)

訳 こうやってひとりで自分の心と向き合っていますと、陸奥の国に伝わる信夫摺りの布模様を見ているようです。誰のために私の心はこんなにも乱れかけているのでしょうか。このような私は私ではない。いえ、分かっているのです。本当は気づいている。これが私なのだと

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わびぬれば今はたおなじ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ

わびぬれば今はたおなじ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ

元良親王

事いできてのちに、京極御息所につかはしける

わびぬれば今はたおなじ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ

(わびぬれば いまはたおなじ なにわなる みをつくしても あわんとぞおもう)

訳 私たちのことが表沙汰になってから、京極御息所に送った歌

あなたに会えなくなり、とにかく困惑しかない。困惑に侵食されているので、あなたと私はどうなるのかなんて悩み、この際どうだっていい。だってもう

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筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞ積もりて淵となりぬる

筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞ積もりて淵となりぬる

陽成院

釣殿の皇女につかはしける

筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞ積もりて淵となりぬる

(つくばねの みねよりおつる みなのがわ こいぞつもりて ふちとなりぬる)

訳 釣殿の皇女に詠んだ歌
筑波山のふたつの峰からみなの川へと落ち続ける流れは、やがて深い淵を作るのだった。淵は深すぎて底が見えなかった。それは私の恋の姿だったのかもしれない。多くの若い男と女がここで恋に溺れたように、私の胸はあな

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