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予期せぬ愛に自由奪われたいね

遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。

お正月ムードもずいぶん落ち着き、見慣れた日常が少しずつ戻ってきた今日この頃。毎朝 寒気と眠気に打ち勝ちながらベッドから這いずり、身支度をして冷たい外気に身を震わせ、いやに温かい満員電車へ イン。なんてことないルーティンがやたらと嫌になる。長期休み明け。


こんな日は「ああ、お正月休みに戻りたい」と願う。せめて頭の中だけでも。


年末年始の休暇中、私は家からほとんど出ないインドア生活を満喫していた。もともと家の中で完結する遊びが好きで、映画だの読書だの料理だの、「家遊び」レパートリーは無限大。そんな私の生活にさらなる潤いをもたらしたのは、言うまでもないNetflix様である。


もともとアマゾンプライム派だったのだけど、ひょんなことから入会したNetflixにドはまり。コアなものやなかなか尖った作品も多くて、次から次へと観たいものが出てくる始末。もう本当に今更なのだけど、「ネトフリって最高」を実感した2021年の暮れ。


Netflixといえばオリジナルドラマや独占配信系が人気で、「全裸監督」「イカゲーム」「セックスエデュケーション」などなど。語りたい作品は山ほどあれど、今日は超王道・梨泰院クラスについて。

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話題になったのはずいぶん前だけど、なんとなく観るのを先送りにしていて、年末年始にやっと観たという感じ。今更感たっぷりではありつつも、ネトフリをいつ始めても楽しめるのと同じく、いつ観ても楽しめるドラマなので。


韓国ドラマによくある「復讐」「下剋上」「成り上がり」みたいな設定で物語が進むのだけど、私が書きたいのはストーリーの話ではない。とにかく濃い!ヒロイン、イソについて。

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イソは超優秀かつ美人な女子高生。世の中に怖いものなどない、と言わんばかりに様々なものを手玉にとり(笑)、要領よく突き進む賢さが爽快。


そんなイソが二十歳を迎える直前に主人公・セロイと出会い、心奪われてしまう。

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ここで言う「心を奪われる」とはもちろん恋心の意もあれど、それだけではない。イソは人間としてのセロイに惚れ込み、猛烈に惹かれていく。

そして高校卒業後は、進学をせず、セロイの事業を手伝う選択をする。


学歴社会の韓国で、優秀なイソがもちろん大学に行くものと思っていたキャリア志向・イソ母はこう言う。

愛なんかで人生を台なしにしないで

それでも自分の決めたことは絶対に譲らない、強いイソは家を出て自立し、マネージャーとして株式会社・梨泰院クラスを業界トップまでのし上げる。長い長い年月と、膨大な努力を引き換えに。


私がイソを好きなのは、一貫した意思の強さにある。猪突猛進で傷つくことを恐れない、とにかく盲目的にセロイを愛し、そのために会社をデカくする。イソは「幸せにして」とは一度も言わない。「私があなたを幸せにしてあげる」と言い続けるのだ。「愛なんか」に人生を捧げ続ける。

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ドラマの終盤で、イソは言う。

生きるのって、つらいでしょ。
すごくつらいのに、セロイに会ってから この一節がすごく沁みる。
「何度でもいい むごい人生よ もう一度」

この一節はニーチェの言葉だけれど、イソにぴったりだなぁと思う。


ソシオパスで人の気持ちを慮れず、優秀な反面、敵も多いイソ。きっと孤独だったと思う。そつなくこなせることが多すぎて、人生がつまらないし、生きるのが面倒で、来世では生まれたくないと言い切った。

それでも、人としても男としてもとにかく魅力的なセロイに出会い、イソは人生のすべてを懸ける。生まれて初めてのときめきを手にして。





梨泰院クラスを観てから、たまたまシャッフル機能で音楽を聴いていたら宇多田ヒカルの“This is love”が流れた。

「予期せぬ愛に自由奪われたいね」とうたっていた。


私は、セロイに出会う前のイソは自由だったのだ、と思った。

「自由」って響きがいいし、素晴らしいもののように思える。でも梨泰院クラスの登場人物はこう言う。

“Freedom is not free”

自由はタダではない/自由は自由ではない、と。


自由とは、言い換えれば「なんにもないこと」だ。なんにもないから自由なのだ。「ない」のは「制限」だけではない。人も、感情も、なんにもないのだ。じゃないと「自由」にはなれない。


イソは自由を手放したいと心の奥底でずっと願っていた気がする。もっと心ときめくなにかに出会えたら、もっともっと心が動くなにかに出会えたら、いっそそれに縛られてしまいたい、と。



他のすべてを顧みず、他のすべてを傷つけてまでもセロイに尽くし続けたイソを好まない視聴者もきっと少なくないけれど、私は過去最高レベルのヒロインだと思う。そして間違いなく、イソが居たから「梨泰院クラス」というドラマは面白かった。


強く心を惹かれたものに人生を捧げたイソがまぶしいし、心底うらやましかった。私もいつか、「予期せぬ愛に自由奪われたい」。



大好物のマシュマロを買うお金にします。