記事一覧

なみなみの皿

【一】ドムドムハンバーガー  箕面の滝が人工的に作られたものであるとか、マクドナルドの食品には特殊なコーティングが施されているから永久に腐らないとか、どこからと…

水筒
3か月前
72

ミカって呼んでいい?

 御神本百合子はテーブル上の配置にとても神経質で、二人掛けには少し狭いほどの席を選んでも、必ずこの儀式めいたテーブルセッティングは行われる。中央に据えられたキャ…

水筒
4か月前
25

吉牛を待ってる

村上春樹は29歳の時に小説を書き始めたらしいのでじゃあわたしも、ということで去年初めて小説を書いた。日記を書くのとは別の感覚で文章を考えるのが楽しくて、出来はとも…

水筒
8か月前
70

へそがない!

 俺の「当たり」にまつわる話は田んぼにある祠に供えられていた桃を食ったことから始まる。罰当たりな行いで豊穣の神様を怒らせたから食あたりになったのだとおふくろに叱…

水筒
8か月前
41

こわい電気が流れています

金子玉美と自分の名前を署名するといつも誰のものでもない架空の人間のきんたまが脳裏にぶら下がるのだが、結婚して十数年このかた一度も「金玉」に触れられずに来ていた。…

水筒
1年前
178

ピラニアの戸締まり

所以あって平日の昼間まで寝ていることがある賃貸住まいの人には分かると思うが、同じマンションの住人が、朝の出がけに執拗に玄関のドアノブを回して鍵がかかっていること…

水筒
1年前
57

お姉ちゃんが「すいか」しか喋らなくなっちゃった

台風が来た次の日から、お姉ちゃんが「すいか」しか喋らなくなった。話せなくなったのではなく、自発的に意味のある言葉を発するのをやめたのだ。わたしたちの対話は全て「…

水筒
1年前
87

猿のハローワーク

4630万が誤って振り込まれたらパクるだろ。田口も俺も、こんなチャンスは一生に二度訪れないことが骨に染みて分かっているので、一度手にした大金をみすみす返すはずがない…

水筒
2年前
56

松屋より愛をこめて

わたしの中で松屋は夜明けと共にあり、朝方の闇の中でそこだけ橙色の四角形が光を発している、灯台のような存在である。 松屋というのは牛丼屋で、吉野家すき家なか卯など…

水筒
2年前
482

スーパー・スーパー・ボール

窮地に追い詰められたり超常現象を目の当たりにした時なぜだか笑ってしまうように、あまりにもデカすぎる時、人は笑ってしまう。老婆が笑っているのは野菜がデカいからで、…

水筒
2年前
144

たこ0.08m

足の小指にたこができた。そのうちどうにかなるだろうと思って放っておいたらどんどんデカくなっていって、ついに反対側の小指と比べて倍になったので急いで治療法を検索す…

水筒
2年前
48

きんたまの裏側の世界

床がいつも濡れているので、ユニットバスで暮らすほとんどの住民は裸足でいるか、トイレに行く都度いちいち靴下を脱がなければならない。ゴムのサンダルを置けばよいのだが…

水筒
3年前
182

わたしがお弁当屋さんになっても

友を見れば人となりが分かると云うが、うっせえわ、冷蔵庫を開けて見るほうがよっぽど分かり易いと思う。ひとり暮らしの冷蔵庫は生活と精神を反映する。家にだれかが遊びに…

水筒
3年前
144

8万円の女

ミナミで呑気にリュックなんて背負っていると人混みでいつの間にか財布を抜かれるという俗説を信じ、手提げかばんの底も底へ財布を沈めていたものだが、戎橋商店街の人波を…

水筒
3年前
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ユッケトゥザフューチャー

ガラケーとユッケが出てくるドラマを見ている。まもなく12が発売されるというのにiPhone5Cを使い続けているとよく言われるのだが、ガラケーを松田翔太がパカパカやっている…

水筒
3年前
55

シュガースポット

新しいほくろが出現するとげんなりする。一生消えない呪いなのに断りもなくポンポン増えるのはおかしいと思う。しかも、肌色の点であれば気にならないところを、黒やこげ茶…

水筒
3年前
34

なみなみの皿

【一】ドムドムハンバーガー

 箕面の滝が人工的に作られたものであるとか、マクドナルドの食品には特殊なコーティングが施されているから永久に腐らないとか、どこからともなく流れてくる突拍子もない都市伝説を聞くことがあるが、そういう類で言えば私はドムドムハンバーガーは存在しないと思っている。
 路肩にマクドナルドの食べさしや包装のごみが投げ捨てられているのは時々あってもドムドムハンバーガーのあのゾウのマ

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ミカって呼んでいい?

 御神本百合子はテーブル上の配置にとても神経質で、二人掛けには少し狭いほどの席を選んでも、必ずこの儀式めいたテーブルセッティングは行われる。中央に据えられたキャンドルから対称に水の入ったグラスをひとつずつ並べて、左端には気味の悪い笑みを浮かべた太陽のオブジェを、右端には三日月を据えて、それらはすべて定規で直線を引いたように整列している。
 決まった席に座るなら来る時間を見計らって準備しておいてやっ

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吉牛を待ってる

村上春樹は29歳の時に小説を書き始めたらしいのでじゃあわたしも、ということで去年初めて小説を書いた。日記を書くのとは別の感覚で文章を考えるのが楽しくて、出来はともかく完成するとめちゃくちゃうれしい。陶芸体験で作ったいびつなマグカップに愛と達成感を感じるのに近い。
負けるのが嫌なので、すでに凄い作品がいっぱいあるのにわたしが書いてもなあと思っていて、小説書いてみたらと勧めてくれる人にもそう言っていた

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へそがない!

 俺の「当たり」にまつわる話は田んぼにある祠に供えられていた桃を食ったことから始まる。罰当たりな行いで豊穣の神様を怒らせたから食あたりになったのだとおふくろに叱られた。謎の発熱にまで見舞われて、すっかり天罰を畏れた俺は以来祠におやつを献上するようになった。今でもパチンコ屋で駄菓子をもらったら供えて帰っている。
 しばらくしてから食うぶんには不遜とみなされないようで、お下がりの駄菓子を頂戴しながら家

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こわい電気が流れています

金子玉美と自分の名前を署名するといつも誰のものでもない架空の人間のきんたまが脳裏にぶら下がるのだが、結婚して十数年このかた一度も「金玉」に触れられずに来ていた。夫の転勤で奈良へ移り住むことになり、関西ではとうとう低俗な輩に出くわして金玉!と指さされ辱められるのではないかと、わたしよりむしろ夫が心配したものの運命の日はなかなかやって来ない。最早当人よりも悩み苛立ち焦がれていた夫が生粋の浪速っ子の同僚

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ピラニアの戸締まり

所以あって平日の昼間まで寝ていることがある賃貸住まいの人には分かると思うが、同じマンションの住人が、朝の出がけに執拗に玄関のドアノブを回して鍵がかかっていることを確認して出発したのち、階段を降りたと思えばまた階段を登ってきて、またドアノブをガチャガチャやって鍵がかかっていることを確認して、ひどい時にはこの一連を何セットも繰り返す音が聞こえてくることがある。深く眠りこんでいれば気が付かないありふれた

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お姉ちゃんが「すいか」しか喋らなくなっちゃった

台風が来た次の日から、お姉ちゃんが「すいか」しか喋らなくなった。話せなくなったのではなく、自発的に意味のある言葉を発するのをやめたのだ。わたしたちの対話は全て「すいか」に収束され、お姉ちゃんが投げかける感情は「すいか」に置き換わったように思われたけど、それでも「会話」は失われなかったのだから不思議である。

呪術廻戦にそういうキャラクターがいるからといって安直に結びつけるのはありがちな決めつけであ

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猿のハローワーク

4630万が誤って振り込まれたらパクるだろ。田口も俺も、こんなチャンスは一生に二度訪れないことが骨に染みて分かっているので、一度手にした大金をみすみす返すはずがない。元より人生終わっているのだから世間体を説かれたり、あるかもしれなかった未来を勝手に思い描かれても何も響きはしない。俺たちにとって4630万円は人生を棒に振るに値する金額だ。

自分の身に起きた事として考えてみれば、払った税金より受けた

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松屋より愛をこめて

わたしの中で松屋は夜明けと共にあり、朝方の闇の中でそこだけ橙色の四角形が光を発している、灯台のような存在である。

松屋というのは牛丼屋で、吉野家すき家なか卯などの大手チェーン店と比べてリーズナブルかつ駅周辺やオフィス街に店舗が多く、労働や生活のはざまの外食需要に注力しているのが松屋だ。ほとんどのお客は単に安い速い近いを求めてオートマティックに松屋へ入るが、時に松屋に行きたい、松屋に行かなければな

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スーパー・スーパー・ボール

窮地に追い詰められたり超常現象を目の当たりにした時なぜだか笑ってしまうように、あまりにもデカすぎる時、人は笑ってしまう。老婆が笑っているのは野菜がデカいからで、小学生が笑っているのはうんこがデカいからで、赤ちゃんが笑っているのは大人のきんたまがデカいからである。結婚式で笑っているのはケーキがデカいからであり、葬式で笑ってしまうのは写真がデカいからである。巨像、巨女に苛烈に恋焦がれたり心惹かれる者が

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たこ0.08m

足の小指にたこができた。そのうちどうにかなるだろうと思って放っておいたらどんどんデカくなっていって、ついに反対側の小指と比べて倍になったので急いで治療法を検索すると、病院ならメスで、家庭でやるならカッターやヤスリで患部を削り取るらしい。真夏なのに冷や汗が噴き出した。患部といっても硬化した皮膚は爪みたいな何かすごく硬いものと化していて、実際たこを攻撃してみても何の痛みも無いから爪を切る感覚とそう変わ

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きんたまの裏側の世界

床がいつも濡れているので、ユニットバスで暮らすほとんどの住民は裸足でいるか、トイレに行く都度いちいち靴下を脱がなければならない。ゴムのサンダルを置けばよいのだが、我々の世界にこのサンダルをカビさせずに維持できる人間はいない。

そもそも紙で新聞を読む人も減っているだろうし、ご時勢の事情で衛生観念が向上した昨今では見かけなくなってきているかもしれないが、トイレで紙の新聞を読んでいるお父さんの概念はま

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わたしがお弁当屋さんになっても

友を見れば人となりが分かると云うが、うっせえわ、冷蔵庫を開けて見るほうがよっぽど分かり易いと思う。ひとり暮らしの冷蔵庫は生活と精神を反映する。家にだれかが遊びに来た際に、引き出しを不躾に開けられたり、ふと高校時代の文集を手に取られたりするのよりも、冷蔵庫の中を見られるがいちばん堪らなく肝が冷える。腐った野菜が入っていたりと訳あって見られたくないのではなく、べつに納豆とか玉子とかベーコンしか入ってな

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8万円の女

ミナミで呑気にリュックなんて背負っていると人混みでいつの間にか財布を抜かれるという俗説を信じ、手提げかばんの底も底へ財布を沈めていたものだが、戎橋商店街の人波を幾度となく無事にすり抜けるにつれ気がどんどん緩んでいって、最近など財布を裸でぷらぷら手持ちして歩くかそもそも金が無いので財布を家に置いてきている。ミナミ一帯には死ぬほどコンビニがあるので、スマホかICカードがあれば財布が無くてもグミを買える

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ユッケトゥザフューチャー

ガラケーとユッケが出てくるドラマを見ている。まもなく12が発売されるというのにiPhone5Cを使い続けているとよく言われるのだが、ガラケーを松田翔太がパカパカやっているのを見ていると確かになんで替えないの?という気持ちになる。ユッケが出てきてユッケってテレビに映してよかったんだと思っていたら松田翔太の乳首も出てきて松田翔太の乳首もいいんだと思った。しかし先にユッケを見てしまっていたので、ユッケ!

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シュガースポット

新しいほくろが出現するとげんなりする。一生消えない呪いなのに断りもなくポンポン増えるのはおかしいと思う。しかも、肌色の点であれば気にならないところを、黒やこげ茶といった肌に馴染まない目立つ色をしている。数や位置は選べないにしても、ちょっとほくろいいすか?はい/いいえの二択はせめてさせてほしい。わたしは煙草いいすか?に本当に快も不快も無くはいどうぞと思うので、そのように受け入れられると思う。

尾道

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