見出し画像

小倉ヒラク氏『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』で多様なな角度から発酵を考える。

発酵食品はお好きですか?納豆や豆腐、チーズにワイン。塩辛にくさや。どうやって発酵してるんだろう?なんで美味しくなるんだろう?と思ったことはありませんか?
私は豆乳ヨーグルトを自作するようになって不思議度が増しました。その一端を解き明かしてくれる本を紹介します。

『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』小倉ヒラク 角川文庫/木楽舎


私たちの周りの発酵食品たち

私たちは気軽に食べていますよね。お味噌汁に漬物、納豆にヨーグルトにチーズ。ビールにワイン、日本酒やお茶だって発酵食品なんですね。
実際には微生物の力で美味しくなっているんです。私たちは微生物に感謝することもなく恩恵に預かっているのです。

美味しい発酵食品は素材の力と職人さんの見極めがなによりも重要です。糀やイースト菌、乳酸菌がうまく作用して初めて完成するもの。

高温多湿な日本に棲息する「糀」と「カビ」。一見真逆、対極。善と悪とも思えるが糀の正式名称が「ニホンコウジカビ」なんだそうです。表裏一体どころか同一人物だったのです。
ぬか漬けもしょっちゅう手を入れてあげないと腐ります。ほったらかしにしていたら上部からカビが…ぎゃー!と叫んで蓋を閉じる。なんて経験があるかたも多いのでは。
危ういバランスで出来上がる美味しいお漬物の不思議ですね。

東アジアとヨーロッパの発酵文化の違い

高温多湿な東アジアでは、旨みを生み出す発酵カビの活躍と腐敗を防ぐ塩のを多く使用します。でないと簡単に腐敗してしまいます。
塩の多用は酸っぱい・しょっぱい・臭い、という通人好みの発酵食品に進化するそうです。

乾燥気味のヨーロッパでは雑菌繁殖の心配が少ないので塩も少量で済み、出来上がるものも万人受けするものが多いとのこと。

地域差だけでなく発酵のための”塩の加減”によっても味わいは千差万別なのですね。
系統立てて考えたことのない分野なので読むほどに世界が広がります。

交換と贈与

また、文化人類学を学んだ著者から「交換と贈与」の概念が提示されます。
これはパプアニューギニアの部族の交換文化の風習です。
2つの腕輪を部族内でそれぞれ時計回りと反時計回りに回し続け、貰った側は必ずお返しをするのだそうです。
これは「クラの環」と呼ばれます。永遠に続く交換の儀式なのです。
これは部族内のコミュニケーションをはかる手段であり、紛争回避の手段でもあるそうです。

その循環の営みは微生物の世界でも行われてます。著者はヨーグルトで説明しています。
牛乳に乳酸菌を加えると、乳酸とエネルギーに分解され爽やかな酸味を帯びます。
乳酸菌が牛乳に含まれる糖分を摂取し排出したもの、それが乳酸であり、いわば乳酸菌の死骸なのだそうです。それは人間にとって腸内環境を整える素晴らしい食品となるのだとか。

あら、クラの環と同じですねえ。
と文化人類学の一端とヨーグルトの成り立ちまでわかってしまう。
著者が発酵文化人類学者と名乗るのも納得なんです。

文化人類学者として見る発酵学

著者はフィールドワークにも長けておられます。各地の若き職人さんの新しい試みを取材されているのです。

甲州のファンキーなワイン醸造家のお話を特に楽しく読みました。
独学のワイン造りをされているかたです。葡萄収穫のタイミング、トレンドからは一線を画した葡萄の絞り方、そんな創意工夫を重ねて唯一無二のワインが出来上がります。
読んでるだけで飲んでみたくなるのです。(下戸なんですけど)

この醸造家の方は良い品を作り、美味しそうに飲んでもらう明快な答えに幸せを見出しているとのこと。発酵の話は俄然人生論に蒸留されていくのです。

知っているようで知らない発酵というキーワードも、小倉氏のユーモアと発酵愛に溢れた文章でまるで菌糸のごとく深みに連れて行ってもらえます。

発酵食品に限らず、日々の暮らしにおいて深堀りしてみること。それは新たな世界を見られる第一歩なんだなと、この本を読んで感じました。

「発酵文化人類学」小倉ヒラク                   


https://suisuibooks.club
#suisuibooks
#すいすいブックス
#わたしの本棚

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集