小嶋輝人/知財戦略ラボラトリー代表

大手電機メーカーの知的財産本部でおよそ22年間、同社の出願・権利化・ライセンス活動と、…

小嶋輝人/知財戦略ラボラトリー代表

大手電機メーカーの知的財産本部でおよそ22年間、同社の出願・権利化・ライセンス活動と、組織運営・改革に従事。特許技術部の部長として、知財戦略活動を統括した。退職後、知財戦略ラボラトリーを起ち上げ、知財戦略の研究と企業へのアドバイスを行なっている。

記事一覧

知財に関する10の問題

事業を進める上で特許や意匠・商標のような知的財産権は必要かつ重要である。それゆえ特許を取ることの大切さや、取得する上での注意事項を説明する文献や記事は多い。毎年…

独占力と排他力

競争相手に非侵害や無効の抗弁を許さない強力な特許(必須特許)があって、それを自社に競争優位性をもたらす特定の技術の独占に用いれば(独占力の行使)、戦略上の「差別…

続「必須特許」について

何をしていても感じることだが、定義を曖昧なまま何となくやっていると、大概のことは支障なく進むにしても、一番大事な時に道を間違えたり、本来とは真逆の打ち手を打った…

「必須特許」について

ChatGPTに聞いてみた 「必須特許」をWebで調べると、AIに尋ねようがGoogle検索しようが、いずれにしても「標準必須特許」についての解説が挙がってくる。端的に言うと「必…

閑話休題

少し前にシャープが液晶ディスプレイから撤退するというニュースで騒ぎがあった(「シャープ、テレビ向け液晶生産撤退へ」日本経済新聞,2024年5月14日)。これで日本発祥…

ここまでのまとめ

1.事業運営上の戦略には、「事業戦略」と「商品戦略」がある。事業戦略も商品戦略も、自社を他社と何らかの差別化することにより、競争優位を築こうとする施策、という点…

囲師には必ず闕き、窮寇には迫ること勿れ

これは孫子の言葉で、「包囲した敵軍には必ず退路を開けておき、進退極まった敵を追い詰めてはならない」という意味である。 反撃の動機を考える 「弱者の反撃」のところ…

その商品が強いのは商品戦略のせいか?

ここまで、アクティビティ・システムを題材に独創的な事業構造を備えた企業が持つ強固な模倣耐性と、その結果起きるかもしれない知財上のリスクについて考えてきた。 強い…

弱者の反撃

事業戦略上の組織的な強さで他社を圧倒した時に、他社が知財戦略上採れるアクションは、強者を潰す事である。 想定される交渉ストーリー 前回考察した「アクティビティ・…

事業戦略と知財

前回の話の中で、特許などの法的手段の支援を受けないと模倣耐性が保てない戦略を、「弱い戦略」と呼んだ。また、特許などの法的手段の助けを借りなくても他社による模倣が…

強い戦略と弱い戦略

Inimitabirity ー 模倣困難性 経営理論の中には模倣困難性という概念がある。ひとたび競争優位性を実現する価値を創出した企業であっても、競合他社の追随から守られるよ…

何のための知財戦略か?

事業か商品か? 本業で事業戦略というものにどっぷり浸かっている関係上、知財の役割についても度々考えさせられることが多い。私の所属しているような「メーカー」では、…

知財に関する10の問題

知財に関する10の問題

事業を進める上で特許や意匠・商標のような知的財産権は必要かつ重要である。それゆえ特許を取ることの大切さや、取得する上での注意事項を説明する文献や記事は多い。毎年発行される中小企業白書では中小企業に対して特許出願活動の大切さを重ね重ね説いており、中小企業の特許出願活動が、「我が国経済を牽引していくための重要な取組」であるとまで言っている[i]。特許庁は中小企業の知財活動を促すために、特許料等の減免制

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独占力と排他力

独占力と排他力

競争相手に非侵害や無効の抗弁を許さない強力な特許(必須特許)があって、それを自社に競争優位性をもたらす特定の技術の独占に用いれば(独占力の行使)、戦略上の「差別化」が実現して他社を出し抜くことができる。また、それを競争相手の保有特許による課題を解決するための交渉材料として用いれば(排他力の行使)、課題特許による事業上の障害を取り除くことができる。
商品戦略のような脆弱な戦略に対しては、戦略上の差別

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続「必須特許」について

続「必須特許」について

何をしていても感じることだが、定義を曖昧なまま何となくやっていると、大概のことは支障なく進むにしても、一番大事な時に道を間違えたり、本来とは真逆の打ち手を打ったりして失敗することが多い。前回は「必須特許」について、明確な定義に基づいて議論を進めている人が少ないと言う話をした。

「必須特許」はマネジメントできない

前回に引き続いて、「標準必須特許」ではない「必須特許」に当てはまる定義を、「ある製

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「必須特許」について

「必須特許」について

ChatGPTに聞いてみた

「必須特許」をWebで調べると、AIに尋ねようがGoogle検索しようが、いずれにしても「標準必須特許」についての解説が挙がってくる。端的に言うと「必須特許とは標準必須特許のことである」と言うのが答えになる。

標準必須特許とは

「標準必須特許(Standard Essential Patent)」とは、標準規格と照らしあわせてその必須性が担保されており、なおかつ、

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閑話休題

閑話休題

少し前にシャープが液晶ディスプレイから撤退するというニュースで騒ぎがあった(「シャープ、テレビ向け液晶生産撤退へ」日本経済新聞,2024年5月14日)。これで日本発祥の液晶ディスプレイビジネスが日本から消えた、という話だ。しかし、小川紘一先生に言わせれば、そんなことは日常茶飯事で、日本企業は新たな技術を生み出し、大きな市場を創造しながらも、度々撤退してきたではないか、ということになろう。

「暗黙

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ここまでのまとめ

ここまでのまとめ

1.事業運営上の戦略には、「事業戦略」と「商品戦略」がある。事業戦略も商品戦略も、自社を他社と何らかの差別化することにより、競争優位を築こうとする施策、という点では同じである。一方で、事業戦略と商品戦略では、特許などの知財の活用方法は違う。
2.特許のような法的手段で保護しなければ差別化を維持できない戦略は、「弱い戦略」である。それは主に、「商品戦略」だと考えられる。この場合、特許は模倣を防ぐため

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囲師には必ず闕き、窮寇には迫ること勿れ

囲師には必ず闕き、窮寇には迫ること勿れ

これは孫子の言葉で、「包囲した敵軍には必ず退路を開けておき、進退極まった敵を追い詰めてはならない」という意味である。

反撃の動機を考える

「弱者の反撃」のところで、自社が「強い戦略」による組織的な強みで競合他社に圧勝した時に、他社にできる知財的なアクションは、持っている知財で「邪魔をすること」しかない、という話をした。他社にとってはライセンス交渉で特許問題を解決しても、他社にはそもそも、模倣す

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その商品が強いのは商品戦略のせいか?

その商品が強いのは商品戦略のせいか?

ここまで、アクティビティ・システムを題材に独創的な事業構造を備えた企業が持つ強固な模倣耐性と、その結果起きるかもしれない知財上のリスクについて考えてきた。

強い「商品戦略」は本当にない?

アクティビティ・システムに限らず、組織の持つ特性が強さの基盤となっているビジネスは大抵、模倣困難である。組織能力が強さを持つほどに差別化されるためには、その構成員のスキルはもとより、組織文化や慣習に至るまで、

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弱者の反撃

弱者の反撃

事業戦略上の組織的な強さで他社を圧倒した時に、他社が知財戦略上採れるアクションは、強者を潰す事である。

想定される交渉ストーリー

前回考察した「アクティビティ・システム」のような組織力を基礎とした競争優位が確立した相手(A社とする)については、他社(B社とする)はもはやこれを模倣すること自体が困難であるため、B社知財部には目の前にある特許問題をいくら解決してもA社と類似のビジネスが起業できるわ

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事業戦略と知財

事業戦略と知財

前回の話の中で、特許などの法的手段の支援を受けないと模倣耐性が保てない戦略を、「弱い戦略」と呼んだ。また、特許などの法的手段の助けを借りなくても他社による模倣が困難で、模倣耐性が高い戦略を、「強い戦略」と呼んだ。

スマイルカーブとの関係

一般に、「商品戦略」と呼ばれるものは、「弱い戦略」であることが多い。「商品戦略」とは、商品の仕様を調整することによって特長を出そうとする戦略である。それは、家

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強い戦略と弱い戦略

強い戦略と弱い戦略

Inimitabirity ー 模倣困難性

経営理論の中には模倣困難性という概念がある。ひとたび競争優位性を実現する価値を創出した企業であっても、競合他社の追随から守られるような「模倣耐性」が無ければ、その優位性は一時的なものであって長期的な事業成長は難しい、という話の中に出てくる概念である。前回の話(「何のための知財戦略か?」)の中で触れた商品戦略と事業戦略について考えると、より模倣困難性が高

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何のための知財戦略か?

何のための知財戦略か?

事業か商品か?

本業で事業戦略というものにどっぷり浸かっている関係上、知財の役割についても度々考えさせられることが多い。私の所属しているような「メーカー」では、事業戦略策定プロセスの中に商品やサービスの企画も織り込まれてくるわけだが、そうなると、「知財は事業を守るのか?それとも商品を守るのか?」という根本的な問題に直面する。
かつて特許技術部長として知財戦略を考えた際に、当時の社長から何度か意味

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