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囲師には必ず闕き、窮寇には迫ること勿れ

これは孫子の言葉で、「包囲した敵軍には必ず退路を開けておき、進退極まった敵を追い詰めてはならない」という意味である。

反撃の動機を考える

「弱者の反撃」のところで、自社が「強い戦略」による組織的な強みで競合他社に圧勝した時に、他社にできる知財的なアクションは、持っている知財で「邪魔をすること」しかない、という話をした。他社にとってはライセンス交渉で特許問題を解決しても、他社にはそもそも、模倣する能力自体が備わっていないのだから、交渉は無駄なのだ。
これに対する対策は徹底的なパテントクリアランスしかない、という話もした。しかし、互いに膨大な特許を持ち合っている企業同士の間では「徹底的なパテントクリアランス」は現実的には不可能だろう。そこで必要な配慮が、「囲師には必ず闕き、窮寇には迫ること勿れ」ということである。
合理的な相手であれば必ず、自分の会社にとっての利害を天秤にかける。自社が完勝するのではなく、他社にも多少の利得を残しておきさえすれば、他社はその利得を守るために無茶な権利行使は控えるようになる。相手に逃げ道を用意しておく、というのは、こういうことである。

暗黙の知財同盟

インクジェットプリンタの先行開発企業である、HP、キヤノン、セイコーエプソンが、互いのクロスライセンスまたは暗黙の知財同盟と、これら3社以外には実施許諾しない、という知財戦略を実行し、イノベーションの専有を実現した、という説がある(後藤吉正・玄場公規「知的財産戦略によるイノベーションの専有可能性ーインクジェットプリンタの暗黙の知的財産同盟ー」日本知財学会誌, Vol.12, No.1)。
私は当事者でもあるので、ことの仔細には言及しないが、この学説にもあるとおり、強力な技術開発力と知財力を持つもの同士は、相手を完全に排除するよりも、ある程度譲歩しあって共存共栄を図る方が発展しやすい、ということが言える。

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