何のための知財戦略か?

事業か商品か?

本業で事業戦略というものにどっぷり浸かっている関係上、知財の役割についても度々考えさせられることが多い。私の所属しているような「メーカー」では、事業戦略策定プロセスの中に商品やサービスの企画も織り込まれてくるわけだが、そうなると、「知財は事業を守るのか?それとも商品を守るのか?」という根本的な問題に直面する。
かつて特許技術部長として知財戦略を考えた際に、当時の社長から何度か意味深なご指摘を受けたことがある。商品の特長となる「強み」を競合他社に模倣されないようにするには、どのようなポートフォリオ構築が必要か、という論点で戦略提案をしたものだが、社長からはいつも、「知財で守れるところなんて強みではないんだよ。本当の強みとは、自分たちにしかできないところにこそあるんだ。」と、お叱りを受けた。
これを短絡的にノウハウとかナレッジとか、いわゆる無形資産と呼ばれているものに当てはめて、その大事さを指摘されたのだと理解しても間違いではないのだが、もう少し理論的な側面で考察してみよう。

経営理論とマーケティング

事業戦略では、社会情勢や市場競争等の企業の置かれている外部環境と、経営資源と呼ばれている内部環境とを考慮して、競合他社よりも有効な差別化を生み出すことにより、事業のパフォーマンスを上げていくことを目指している。
これと似たような活動に商品戦略というものがある。顧客ニーズや競合製品のような外部環境と、自社製品のポジションとを考慮して、競合他社製品よりも有効な差別化を生み出すことにより、商品力を上げることを目指すものだ。
前者は経営理論が扱うもので、著名な研究者としてはポーターやバーニー、ミンツバーグなどの名が挙がる。後者はマーケティングの対象で、著名な研究者と言えばコトラーである。マーケティングの解説書にポーターの名が挙がることはあっても、経営理論の書物にコトラーの名が挙がることは日本以外ではほとんどない。同じ事業運営に関係する論説を述べているにもかかわらず、これらは全く別の研究分野だと言える。

事業の強みと知財との関係

特許で何かを守るというと、大抵は商品の特長、または、特長を実現している技術に目が行くものだが、商品ではなく事業との関係で考えてみよう。事業戦略が目指している有効な差別化がどのように生み出され、知財はそれにどう関与するのか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?