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独占力と排他力

競争相手に非侵害や無効の抗弁を許さない強力な特許(必須特許)があって、それを自社に競争優位性をもたらす特定の技術の独占に用いれば(独占力の行使)、戦略上の「差別化」が実現して他社を出し抜くことができる。また、それを競争相手の保有特許による課題を解決するための交渉材料として用いれば(排他力の行使)、課題特許による事業上の障害を取り除くことができる。
商品戦略のような脆弱な戦略に対しては、戦略上の差別化要素を特許権で保護することにより(独占力の行使)、競争力が高まる。また、事業戦略のような堅牢な戦略に対しては、その弱点を突いた他社の特許攻撃に対抗するように特許権を活用すれば(排他力の行使)、リスク低減が図られる。
問題は、必須特許なるものが取れない、もしくは、仮に取れていたとしても、それを見つけられない(マネジメントできない)ので、独占力も排他力も計画的に行使できないことである。

特許クラスター

前述の通り、個別の特許が非侵害や無効の抗弁を克服できるかどうかは予めわからないので、独占力も排他力も計画的に行使できない。したがって、個別の特許を基礎とした知財戦略の立案は不可能である。一方で、ある技術について、それに関する特許権がある程度の数蓄積されると、これを回避しきれなくなる、かつ、潰しきれなくなるために、非侵害や無効の抗弁が通用しなくなることがわかっている。その数は、技術領域ごとのパテントクリアランスの対応能力に応じて変わるのだが、電機・機械の領域では凡そ20〜30件だと言われている。つまり、電機・機械の領域では、特許権で保護したい技術について凡そ20〜30件の特許クラスターを形成すれば、独占力または排他力のいずれかが行使できるようになる。しかもこれは、計画的に実行可能である。特許クラスターをベースに考えれば、知財戦略の立案が可能になるのだ。

独占力

「私はこの技術の特許を持っているので、安全に実施できる」というのは間違いだと教えられている。これは知財に詳しくない人が度々誤解することだが、自分が特許を持っていることと、他者の特許権に左右されることなく安全に実施できることとは、イコールではないのだ。この議論に大事なヒントが隠されている。他者の特許権に左右されることなく安全に実施できる条件は、
条件1:その技術について他者の特許権が存在しないこと
である。そして、その技術について他社に実施させないための条件は、
条件2:その技術について自社が特許権を持っていること
である。条件1と2を自社が完備した場合に、その技術について独占力が獲得されることになる。
技術Aに関する特許が特許A以外に成立しない場合には、特許Aの保有が同時に技術Aの独占を意味する。しかし大抵の場合、技術Aに関する特許は、特許a、特許b、特許c、等々、複数成立するので、これら全てを自社が単独所有するか、もしくは、一部しか所有できていなかったにしても、残りの特許を他の誰も所有していない場合に限って、技術Aの独占が成立する。これが特許クラスターにおける独占力の原理である。

排他力

もうお分かりだと思うが、技術Aに関する特許が複数成立する場合に、それらの特許を自社と他社で持ち合い状態にあるとき、自社と他社は特許権における互いに排他の関係になる。これが排他力の原理になる。

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