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強い戦略と弱い戦略

Inimitabirity ー 模倣困難性

経営理論の中には模倣困難性という概念がある。ひとたび競争優位性を実現する価値を創出した企業であっても、競合他社の追随から守られるような「模倣耐性」が無ければ、その優位性は一時的なものであって長期的な事業成長は難しい、という話の中に出てくる概念である。前回の話(「何のための知財戦略か?」)の中で触れた商品戦略と事業戦略について考えると、より模倣困難性が高いのは事業戦略である。

事業戦略における「差別化」

競合他社による模倣が困難な事例としてよく引き合いに出されるものに、例えば「アクティビティ・システム」がある。次の図は、入山章栄先生の「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社刊)のp.83に掲載されている、サウスウェスト航空のアクティビティ・システムだが、この会社は、他の大手航空会社が地方路線に採用している、主要空港を起点としたハブ・アンド・スポーク型のネットワークではなく、地方空港どうしを直接結ぶ短中距離路線に特化し、これに様々な合理化策を絡ませて、他社にはなかなか真似のできないビジネス・システムを形成している。米国ではこれまで多くの航空会社がこのやり方を模倣しようとしたが、ことごとく失敗しているという。

出典:入山章栄著「世界標準の経営理論」p.83(ダイヤモンド社刊)

また、先端素材の技術領域では、後発企業はなかなか先行者に追いつけない。半導体用ウェハーは原料のシリコンを純度99.999999999%の結晶に加工しなければならないと言われており、その製造・開発には高度な技術力が欠かせない。この分野は今の所、日本企業の独壇場で、他国のライバルが挑戦を続けているが、なかなかうまくはいかないようである。2021年9月21日付の日本経済新聞には、先端素材で日本企業の世界シェアが高い、「材料系」の事例が幾つか紹介されていた。

出典:「日本経済新聞」2021.9.21

これ等の事例で挙げられているものは、各社の独創的事業活動の成果として生まれているものであって、いわゆる「事業戦略」の賜物と言えるだろう。お分かりのように、ここに特許による模倣対策の話は出てこない。事業そのものに模倣耐性が備わっているので、特許のような法的手段による保護を受ける必要がないのである。これを「強い戦略」と呼ぼう。

特許が必要とされるのはどのような場合か

これに対して、特許のような法的手段による保護を受けなければ、競合他社による模倣を防げない(模倣耐性の低い)戦略を「弱い戦略」と呼ぶこととする。家電などの電気製品は、その「仕様」を差別化することによって商品価値を高め、顧客の選択を促そうとする。それが「商品戦略」だ。しかし「仕様」というものは、特許による保護がなければほとんどの場合「模倣容易」である。従ってこのような「商品戦略」の多くは「弱い戦略」になる。
このように、「競合他社による模倣を防ぐ」という目的では、特許は「弱い戦略」を補うために必要なもの、だと言える。それでは「強い戦略」においては、特許は必要ないと言えるのだろうか?

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