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知財に関する10の問題

事業を進める上で特許や意匠・商標のような知的財産権は必要かつ重要である。それゆえ特許を取ることの大切さや、取得する上での注意事項を説明する文献や記事は多い。毎年発行される中小企業白書では中小企業に対して特許出願活動の大切さを重ね重ね説いており、中小企業の特許出願活動が、「我が国経済を牽引していくための重要な取組」であるとまで言っている[i]。特許庁は中小企業の知財活動を促すために、特許料等の減免制度、知財総合支援窓口の設置などで支援を進めてきた。

しかし、例えば特許を取ったとしても残る問題があり、その残った問題の方が実は厄介なのである。今回は、あえてこの厄介な問題に言及し、これに対する回答を求めて行きたい。もちろんその回答を知れば、知財の抱える問題が全部解決するというわけではないが、挙がっている問題は恐らく知財担当者ばかりでなく、発明部門や経営層の方々にも、多少なりとも思い当たる節がある典型的な問題だと思うので、何かしら役に立つに違いない。念のため、私はここでこれらの問題をあげつらって知財活動の必要性や重要性を否定しようとしているわけではないことは、あらかじめお断りしておく。逆にこれらの問題に対して各自が何かしらの解を持って進めれば、知財活動が無駄になることも減るに相違なく、だからこそ、向き合う価値のある問題だと思っている。最後に課題提起だけでなく私なりの解も併せて紹介していくつもりである。 

知財に関する10の問題

1.実際にはどんなに努力しても特許による独占実施を実現することはできない
特許には有効性の問題や回避手段の問題、権利の薮の問題などがある。権利行使しても他社には大抵対抗手段があり、他社の実施を差し止めるところまで行くことはほとんどできない。

2.将来を予想した先回りの出願活動はほとんど成功しない
他社の動向を努力して予想してもクレーム通りに実施してくることは稀である。予想など諦めて広い権利範囲を狙った出願をし、後から当て込んだ方が良い。

3.広い権利では排他力は得られても独占力は得られない
広い権利に対しては利用発明としての対抗出願が可能なので、利用発明を網羅的に権利化されてしまえば、結局クロスライセンスせざるを得なくなる。従って、知財活動が活発な領域では、独占実施(専売)はほぼ実現しない。

4.特許ライセンス収入では事業上の敗北を補えない
一般的に事業活動により得られる利益額は、特許ライセンスにより得られるロイヤリティよりも遥かに大きい。他社の参入を許してしまったら、その代わりにライセンス収入で事業損失を補おうとしても不可能である。

5.特許は結局役に立たない
前記2.3.4.から、広い権利を取る→クロスライセンスになる(相手も実施可)→事業の敗北を補えない、ということになる。従って、特許は結局企業活動の役に立たない。

6.事業の成功は知財の力とは関係ない(特許があったから成功した事例はほとんどない)
前記1〜5.のように特許は事業の助けにはならない。それでも事業が成功しているとしたら、特許とは関係ない要因で成功している事になる。

7.特許分析(IPランドスケープ)は事業の進むべき方向を示さない
例えばヒートマップのようなツールで特許が取られていない領域は、ホワイトスポットであるか、無価値であるかのいずれかである。このように特許分析は事業の進むべき方向に対して、進んでも仕方ない方向も同時に示すが、特許マップを見ても区別できない。

8.オープン&クローズ戦略は後知恵の成功法則である
特許による事業や技術の独占は多くの場合不可能なので、特許によるクローズは実現しない。したがって、オープン&クローズ戦略の事例は、成功事例に対して特許戦略を後知恵で当てはめて説明しているだけで、特許によるオープン&クローズ戦略は空想である。

9.オープンイノベーションは知財の問題ではない
効力の怪しい特許など、許諾されても有り難くはない。許諾される側としてはオープンにしてほしいのは技術であって、特許は取り下げてもらった方が良い(許諾など親切の押し付けである)。

10.知財業界は平和を望めば望むほど不要になる
知財係争がない方が、知財担当者が経営層から責められることもなくなり、苦労も心労も減る。しかし同時に、仕事もなくなる。


[i] 中小企業庁『中小企業白書2019』,PP.357-366

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