鳴釜七

※猟奇ユニット「FEAR飯」によるツイキャス「禍話」から特にグッと来た話を文章化してい…

鳴釜七

※猟奇ユニット「FEAR飯」によるツイキャス「禍話」から特にグッと来た話を文章化しています。 ※文章化に際し、一部表現の変更と再構成をおこなっています。 本家ツイキャス:https://twitcasting.tv/magabanasi/

最近の記事

禍話リライト「電話のふたり」

 その夜は、地元の友人や後輩と集まって楽しく酒を酌み交わすはずだったそうだ。後輩の一人が浮かない顔をしていたものだから、Aさんはつい、何かあったのかと声をかけてしまった。 「怖いことがあったんですよ」  Bくんいわく、Cくんが廃ビルに行くと言ったきり行方知れずになったらしい。最後のやり取りは一週間前だと言うので、Aさんたちは苦笑した。Cくんも地元の後輩の一人であり、顔馴染みだ。  成人男性と一週間連絡がつかないくらいで大袈裟だろう。  俺たちみたいな定職に就いてないやつ

    • 禍話リライト「予告の家」

       妻子ある男性が不倫相手とともに姿を消した、ということがあった。残された家族は捜索願を出して行方を探したが、ひと月経っても居所がわからない。レンタカーを乗り捨てたようだという情報が入った程度だ。クレジットカードは止めている。現金もいずれ尽きるだろう。どっかで死んでるかもしれないわーなんて妻が笑い飛ばした、その翌日。男性と不倫相手は、男性宅の庭の木で首を吊った。  遺族はすぐに引っ越したそうだ。葬式は出さなかったそうだ。妻と子を捨て不倫相手と心中した男性は、無縁仏として葬られた

      • 禍話リライト「味噌汁の匂い」

         菩提寺を出入禁止になった、A山さんという男性がいる。よほど罰当たりないたずらでもしたのかというと、そうではないらしい。  曹祖父母や祖父母を見送って、A山さんは幼いころから何度か葬儀に出席していた。葬儀は本堂で執り行われ、本堂の横に遺族の控え室があった。さらにその隣に、何に使っているのかわからない部屋があった。閉めた襖の向こうからは味噌汁の匂いが漂ってきていたそうだ。  台所とつながってるのかな。そこでご飯を作ってるのかな。  葬儀のたびに味噌汁の匂いがするので、A山さんは

        • 禍話リライト「あいのりの子」

           社会科見学か遠足か、小学校高学年の行事でバスに乗って出掛けたときのことだそうだ。道中で起こったことのインパクトが強過ぎてどこに行って何を見たのか覚えていない、とA子さんは言った。  バスのなかで、A子さんは急に気分が悪くなってしまったらしい。車酔いとも違う気持ち悪さで胃のあたりが重い。まるで何かに掴まれているみたいに。  窓際のほうがいいと促され、後方の窓際の席に移動した。一息ついて顔を上げれば、前のほうの席に座るクラスメイトが何人か心配そうに振り返っていた。 「A子ちゃ

        禍話リライト「電話のふたり」

          禍話リライト「↓ここにうつる」

          ・公園の男子トイレ ・四つある手洗い場の、入口から三番目の鏡のところに「↓ここにうつる」という落書きがある ・公園の管理者が消してもまた書かれる ・「落書きはやめてください」という貼り紙にも「うつるものはうつるからしょうがない」なんて同じ筆跡で書き込まれる  そんなオバケの写るトイレが近所にあると聞きつけて、五人の男子大学生が訪れた。  夜間なら見回りもない。丑三つ時に肝試しと洒落込んで、一人ずつトイレ内の写真を撮ってこようという計画だった。  まずAくんが公園に向かう。残

          禍話リライト「↓ここにうつる」

          禍話リライト「つらら女」

           俺の親戚のおじさんから聞いたんだけどさ。  おじさんは寒い地方の出身で、若い頃、近所につらら女が出るって噂を聞いたんだって。なんか、山道があって峠の茶屋みたいなのがあって、そこに出るんだって。つらら女が。  で、友達と一緒に行ってみたらしいんだ。  つらら女って言ったら雪女の別名みたいなもんだろ、出てきてもお湯かけりゃいいんだ、ってことで魔法瓶というか保温できる容器にお湯入れて、それを持ってね、行ったんだって。  つらら女が出る時間ってのも決まっててさ、ボロボロになってる峠

          禍話リライト「つらら女」

          禍話リライト「回覧村」

           廃墟探索をやめた、ある男性の体験談だ。  友人たちと三人で、山にある廃集落を探索したそうだ。  十戸ほど潰れかけた家屋が点在するなか、一戸だけ表札が付いた家があった。  〝吉田〟と。  好奇心の赴くままに、三人は家のなかに入って玄関を閉めた。  家のなかは荒れてはいたが、それまで覗いたほかの家に比べれば、家具も残っていてちゃんとしている。頑張れば住めそうな気さえする。さすが表札がある家は違うなあと笑っていると、 「回覧板持ってきましたあ」 外から声が聞こえた。  夜だ

          禍話リライト「回覧村」

          禍話リライト「バグっくりさん」

           こっくりさんにまつわる話だ。  体験者の男性Aさんはオカルトブーム直撃世代ではないのだが、高校生のときにこっくりさんが流行った時期があったらしい。こっくりさんは呼びかけに応えて様々な言葉を伝えてくれたという。  しかし、ある日を境にこっくりさんの様子がおかしくなってしまった。十円玉の軌跡は意味をなさないデタラメな言葉ばかりを示す。何故だろうとよく見てみれば、五十音を書いた紙の「わをん」が「わおん」になっていたのだ。高校生にもなってこんな間違いあるかよ、バカだなあ、こっくり

          禍話リライト「バグっくりさん」

          禍話リライト「喜か怒か哀か楽か」

           とある姉弟の、お姉さんのほうから聞いた話だ。  お姉さんは大学生で弟さんは高校生。たまに親御さんが家を空けることがあると、弟さんは夜遅くまで友達と遊びに行ってしまうのだそうだ。  ある夏の、親御さんが不在の夜のこと。連絡があったら自分の所在は上手く誤魔化してくれ、と弟さんから頼まれたらしい。 「いいけど、どこ行くの?」 「今日はねー、肝試し」 「肝試し? バカなことやって補導なんかされないようにしなさいよ」 「大丈夫、トンネルとかダムとかじゃなくて家のなかだから」 「え

          禍話リライト「喜か怒か哀か楽か」

          禍話リライト「冷蔵娘」

           コーヒーを飲んでしまったせいか溜まったストレスのせいか、なんとなく寝付けない夜のことだった、と彼は言った。  ふと、音が気になったのだそうだ。冷蔵庫が鳴る音。  布団に横たわっていた彼は、知らず知らずその音に意識を集中していた。こんなに大きく鳴るものだろうか。しばらく聞いているうちに、「ブーン……」とか「ゴー」とか鳴る音の合間に女性の泣き声が聞こえたらしい。  気のせいだろうと思い、床下のパイプや何かから聞こえるのかもしれないと思い、それでもやっぱり泣き声が混ざっている。声

          禍話リライト「冷蔵娘」

          禍話リライト「血を吐く弟」

           大学生たちがサークルの部室に集まって怖い話をしていたときのこと。早々にネタが切れてネットで調べた怖い話を朗読し合っていたのだが、怖くないだの何だのと批評する者があった。  仮にAくんとしておくが、彼は浪人したとかでほかの部員よりいくらか歳上で、誰も言い返せない。はじめのうちは的を射た内容だったけれど、リアリティが無いからダメだと言い出し、段々と難癖に変わり、場の雰囲気も悪くなっていった。  そこに現れたのが、牢名主のごとく部員たちを取りまとめるOBの先輩だ。分け隔てなく接し

          禍話リライト「血を吐く弟」

          禍話リライト「袋女」

           大学の友達の家に遊びに行った時の話だ。  後輩と一緒にお邪魔して、家主と同棲中の彼女さんも交えて酒を飲んだ。  あれこれと強い酒を出されて、飲んで、酔っ払って。家主と彼女のキスを見せつけられたりしつつも楽しい時間は過ぎていき、やがてお開きとなった。  後輩と別れて帰宅すると、アパートのゴミ捨て場にひとつだけ、ぱんぱんに膨らんだ大きな袋があった。曜日を間違えたんだろうな、と思いながら俺は収集日程の表を見る。朝になっても回収されないじゃないか。  ダメじゃん、と蹴飛ばした袋は思

          禍話リライト「袋女」

          禍話リライト「透明な鳥の家」

           不思議な話をひとつ。  山歩きを好む友人がいる。それほど標高が高くなく車道も通っているような山を、酒を片手に散歩感覚でぶらぶら歩くのだ。  ある日曜日、彼は缶ビールを二本空けていつものように山道を歩いていた。  ふと目を向けた方向に小屋があった。猟師が使うような小屋だと思ったそうだ。  倉庫とか、物を置いておくような場所だろうか。彼は通り過ぎる。  小屋が視界から消えたあたりで、ギャアギャアギャアギャアとけたたましい鳴き声が響いた。  振り返れば、おびただしい数の鳥が小屋の

          禍話リライト「透明な鳥の家」

          禍話リライト「隣室のカップル」

           男子大学生A君から聞いた話だ。  当時住んでいたアパートは壁が薄く、隣人が見ているテレビ番組が分かるほど。  ある時期から女性の声が聞こえるようになった、と彼は言った。夜、ふとした拍子に気づくのだそうだ。隣の部屋で女性が何か喋っている。  リア充かよちくしょう、とA君は毒づいた。  ここは男性限定のアパートなのだ。隣の部屋に住んでいるのも男性だ。恋人の女性を連れ込んだのだろう。壁が薄いせいで何もかも分かってしまったそうだ。  カップルはいつも死ぬほどどうでもいいことを話して

          禍話リライト「隣室のカップル」

          禍話リライト「大丈夫ですよ!」

           人間の形をしているのに大きすぎるもの。あるいは小さすぎるもの。  そういった、寸尺がおかしい得体の知れないものを怖がる奴がいた。  何か見てしまった経験でもあるのかと思ったら、〝見た〟人の体験を聞いたんだそうだ。  それは、こんな話だった。  ある男性が、夜更けに体育館の横を通りかかった。学校の体育館だったか地域の施設だったか定かではない。そこは普段は通らない道だった。大通りを歩いている時に体育館の一部が見えたりするけれど、わざわざ用もない施設に近づくことなどない。  な

          禍話リライト「大丈夫ですよ!」

          禍話リライト「まっくらになったら」

           A君が中学生くらいのときの話だそうだ。  夕方、学校から帰ってトイレに入ると電球が切れかけて点滅していた。  母親に報告して電球を交換しようとしたが買い置きがない。仮に切れてしまっても廊下の明かりが入るし、今日のところはそのまま放っておこうということになった。  少し経って、A君はまたトイレに行った。  今度は電球が激しく点滅している。  これはもう外してしまったほうがいいかもしれない。まだ帰って来ていない父親と妹にも、トイレを使うときは廊下の明かりをつけるように伝えておけ

          禍話リライト「まっくらになったら」