禍話リライト「まっくらになったら」

 A君が中学生くらいのときの話だそうだ。
 夕方、学校から帰ってトイレに入ると電球が切れかけて点滅していた。
 母親に報告して電球を交換しようとしたが買い置きがない。仮に切れてしまっても廊下の明かりが入るし、今日のところはそのまま放っておこうということになった。
 少し経って、A君はまたトイレに行った。
 今度は電球が激しく点滅している。
 これはもう外してしまったほうがいいかもしれない。まだ帰って来ていない父親と妹にも、トイレを使うときは廊下の明かりをつけるように伝えておけば問題ないだろう。
 そう思ったA君の背後から、

「真っ暗になっちゃったら大変だね」

と女の子の声が聞こえた。

 声の主がトイレのドアの向こうに立っているような距離感だった。廊下の明かりはつけていない。真っ暗だ。
 おかしいと思いつつ妹の名前を呼んでみると、

「真っ暗になったら大変だね」

と返ってきた。

「え、なん……大変じゃないよ、なんで?」
「えーでも大変だと思わない?」

 あれ、妹じゃない、と感じたそうだ。
 同じくらいの年頃の女の子の声だけど、何かが違う。

「え、誰?」
「…………真っ暗になったらわかるよ」

 堪らず、A君はトイレから飛び出した。
 勢いよくドアを開けたから、そこに誰かが立っていたらぶつかるはずだった。
 真っ暗な廊下には、誰もいない。

「えっ……」

 トイレで点滅する光を背に受けて、A君は立ち尽くす。
 物音を聞きつけた母親が廊下を覗き、危ないなーなんて言いながら壁に手を伸ばす。

「ちょっとー何なのー?」
「いやぁ……」

 言いかけたそのとき、トイレの電気がプツンと消えた。
 たまたま、母親が壁のスイッチを押して廊下の明かりをつけていた。
 廊下とトイレの明暗が入れ替わる。廊下が明るくなり、トイレの中が暗くなる。

「あーあ……」

 その真っ暗なトイレから、女の子の声が聞こえた。

「えっ何いまの? 中に何かいたんじゃないの?」
「いや……何も…………」

 振り返ってもただの暗いトイレ。
 A君と母親は怯え、家中の明かりをつけまくってからスーパーまで電球を買いに行ったそうだ。

※「禍ちゃんねる 極安スペシャル」より

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