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禍話リライト「冷蔵娘」

 コーヒーを飲んでしまったせいか溜まったストレスのせいか、なんとなく寝付けない夜のことだった、と彼は言った。
 ふと、音が気になったのだそうだ。冷蔵庫が鳴る音。
 布団に横たわっていた彼は、知らず知らずその音に意識を集中していた。こんなに大きく鳴るものだろうか。しばらく聞いているうちに、「ブーン……」とか「ゴー」とか鳴る音の合間に女性の泣き声が聞こえたらしい。
 気のせいだろうと思い、床下のパイプや何かから聞こえるのかもしれないと思い、それでもやっぱり泣き声が混ざっている。声を殺して泣いている。
 彼は布団から出て台所に行ってみた。冷蔵庫の音だけで泣き声は聞こえない。しかし布団に戻るとまた、さっきの泣き声が聞こえ始めた。
 一度気づくとどうしても意識してしまい、ますます眠れない。眠れないのは困る。
 酒の力を借りようと一杯引っ掛けたりマンションの外廊下を確かめたりしたが、結局泣き声の正体は分からなかった。
 段々と酔いが回って気が大きくなり、「まだ泣いてらぁ」と受け流せるようになり、次第に眠くなってきたそうだ。暗い部屋、布団の中でとろとろと微睡みながら、明日また確認してみようと思う。
 そうして眠りに落ちる直前、若い男の親切そうな声が聞こえた。


「あれはわざとですよ、気を付けたほうがいいなあ」


※「ザ・禍話 第二十七夜」より

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