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禍話リライト「バグっくりさん」
こっくりさんにまつわる話だ。
体験者の男性Aさんはオカルトブーム直撃世代ではないのだが、高校生のときにこっくりさんが流行った時期があったらしい。こっくりさんは呼びかけに応えて様々な言葉を伝えてくれたという。
しかし、ある日を境にこっくりさんの様子がおかしくなってしまった。十円玉の軌跡は意味をなさないデタラメな言葉ばかりを示す。何故だろうとよく見てみれば、五十音を書いた紙の「わをん」が「わおん」になっていたのだ。高校生にもなってこんな間違いあるかよ、バカだなあ、こっくりさんがバグっちゃった、バグっくりさんだ、なんて友人たちと笑って、やがてこっくりさんへの関心も薄れていったそうだ。
Aさんの元に一人のクラスメイトが相談にやって来たのは、こっくりさんブームが去った頃のことだった。
相談者は三人の女子生徒の名前を挙げて、彼女たちが部室でこっくりさんをやっていると訴えた。いまだに一部の生徒はのめり込んでいるようだ。
「えー、ちゃんと来てんの? バグっちゃったじゃん」
「うーん……」
なんとも歯切れの悪い返事にぴんと来て、Aさんは「行ってみようか」と頷いた。きっとその三人はこっくりさんばっかりやって部活動が疎かになっているのだろう。先生に言えなくてクラス委員である自分に助けを求めてきたのだろう。
「今日もやってんの?」
「やってる……」
連れ立って行ってみると、部室の窓は暗かった。明かりをつけていないのだ。特に禁止されているわけでもないんだからコソコソやらなくたっていいのになあ、などと思いつつ、Aさんはドアを開ける。
「入るよー」
ちょっと横柄な態度で男らしさを演出する。必要とあらばビシッと言ってやろう——と意気込んでいたAさんは、彼女たちの会話が耳に入った瞬間、あっもうダメだ、と思ったそうだ。
机を囲んでいる女子たちは、誰と誰が付き合ってるみたいなことをこっくりさんに訊いていたようだった。
「うわー、あの二人、やっぱりまちばしゃってるらしいよ」
こっくりさんの返事があのときバグったままだ、とすぐに分かった。書き損じた紙を使ったときにもそういうバグり方をしていたから。なのに、三人の女子生徒はそれを受け入れている。意味が通じてしまっている。
Aさんが何も言えずにいると、三人は明日のテストがどうだとか質問を続けた。
「明日のテストはからういるって感じだぁ」
「そっかー」
これはもう、いち生徒がどうにかできる話じゃない。部室に乱入した二人は完全に無視されている。こいつらがおかしくなったって先生に言わなきゃいけないのか、とAさんは悩んだ。それはなんとなく可哀想というかひどいことをするみたいで気が引ける。一応クラスメイトだし。この場でこっくりさんをやめてもらえたら丸く収まるはずだろう。
「お前らさあ、やめろやあ」
声をかけてみたけれど無視された。
無理に分かったフリをしているような雰囲気はなくて、三人ともちゃんとバグっくりさんの言葉を理解している様子だ。
「お前らさあ、」
焦れったいような気になってAさんは声を張った。
「訳分かんねえことをさあ、言われてるのにさあ、分かってる感じなのおかしいよ?」
部室内の状況をそのまま言った。
三人が、サッと十円玉から手を離す。
いきなり離すのってダメじゃなかったっけ、と思っていると机を囲んでいた一人が立ち上がりAさんを見た。
「なに言うんだよ! とてこてまなつったらどうすんだよ!」
「えっ……」
「とてこてまなつったらどうすんだよ!」
「とてこてまなつったら大変だろ!」
残りの二人も訳の分からないことを吠え、Aさんに襲いかかる。シャーペンで刺されそうになったものだから、Aさんは教師に報告するしかなかったそうだ。
三人の女子生徒は二週間ほど学校に来なかった。文化系ながら活発な性格だったはずが、復帰したあとはずいぶんと大人しくなっていた。高校は卒業したらしいがその後のことはわからないそうだ。
※「ザ・禍話 第二十四夜」より
※関連話?:「トテコテマナツル」
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