〈この朝に〉

家々が蒼い夜の闇の底で
すっかり染まりきった頃

見知らぬ街の
高い塔から
かすかな
予鈴が聞こえてくる

はじまりの
レッスンは

やがて
明けてゆく
宇宙の

どこかの
ちいさな街の
片隅から


みづからの幻影に
おびえる

迷えるたましひが
眠りにつく頃

今日一日の
最初の陽光を浴び

名前のない
白い花が
心臓色に
輝いて
開きはじめる

本の童話の
ペーテルの
お母さんの
病床に

搾りたての
生乳(ミルク)が
届けられる

木々の若葉が

新しい
風に

緑から
さみどりに

一斉に
裏返る

世界の
街角の
あちこちで

子供たちの
黄色い
歓声が
上がり


鏡の前で
未来の
きみの
恋人が

艶やかな
長い黒髪を

極めて
戦略的に
ときはじめる

慎ましやかに
我らの
朝が
始まるのだ