基礎知識

とある精神科病院で働く精神科医です。 精神科におけるいろいろな情報は多くあるものの必ず…

基礎知識

とある精神科病院で働く精神科医です。 精神科におけるいろいろな情報は多くあるものの必ずしも正しいとは限らず、正しいとしても教科書的で実際には使えないものが多くあります。 ここでは実際に役に立ち参考になる情報を提供する予定です。

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発達障害の未成年の人に精神障害者手帳を勧めるとき

今回は知的障害は無~ごく軽度の発達障害(自閉スペクトラム症、ADHD など)の未成年の人に精神障害者手帳を説明し進めるときに作成した資料である。 軽度以上の知的障害のある未成年の人は精神障害者手帳ではなく療育手帳を取得することになり、基本的には小学生以下のときに作成するので、本人への説明や意志確認はほとんどされていない。 知的障害がほぼない発達障害の場合は、中学生~高校生で精神障害者手帳を取得する・しないという話になり、本人への説明が不可欠であるものの、説明するためにいい

    • 追い込まれると伸びる人と余裕があると伸びる人

      受験勉強はなかなか難しいものである。 勉強が大っ嫌いなら、ほめたり・なだめたりしながら勉強を少ししてもらうか、勉強は(親が)あきらめるかになる。 勉強があまり好きではないものの、本人の性格が真面目で「やらなくっちゃ!」と思い込んでしまう子の場合、あっという間に煮詰まってしまう。 どう見ても実現不可能な計画を立て取り組み始めるも続かず、どんどん余裕がなくなりイライラしていく。 無理しすぎないよう声をかけても全く聞かずに、できていない分を取り戻すべく、さらに実現不可能な計

      • 犯罪を犯してしまった人

        犯罪を犯してしまった人をどうするのが良いか は難しい課題である。 大きな事件が起きるたびに話題となるものの、本当に大切なのは多くの(比較的)軽い犯罪を犯してしまった人をどうするかということに気が付かせてくれる本である。 刑務所に入る人はごくわずか判決が確定した人の77%は罰金刑のみで、懲役刑になるのは20%のみ。 しかもその61%は執行猶予がつき刑務所には入らないで済む。 犯罪を犯してしまった人のほとんどは、逮捕から保釈までの間は身柄を拘束されるものの、刑務所に行かず

        • 元気で暇だと不機嫌になる かもしれない

          興味深い本を読んだ。 ルポ不機嫌な老人たち 林美保子 不機嫌な老人たちを、単なる加齢に伴う脳機能低下だけではないという仮説のもと、具体的な例を挙げながら共通点や特徴を見ていく。 まったく科学的ではなく取材と自験例からの考察である。 確かにと思う。 ただし元気ではない人や忙しい人でも不機嫌になる。 不機嫌で他の人に八つ当たりしたり、周りの人にとって不愉快な行動をとるような人は、「元気で暇」であることは間違いない。 そして老人の多くは暇である。 男は、1)会社で年

        発達障害の未成年の人に精神障害者手帳を勧めるとき

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        記事

          同性婚がなかなか容認されない理由

          現在 同性で愛し合い結婚したいと思う人たちは多くなってきている。 しかし同性婚は日本ではまだまだ認められそうにない。 面白い本を読んだ。 同性婚と司法 千葉勝美 内容は法律的な解釈が多く難解。 同性婚に関心を寄せている人にとっては当たり前の話なのかもしれないが、私は知らないことが多くあった。 多くの国で同性婚を認めている同性婚を導入済みの国はオランダ、米国など30国以上。 ちなみに世界には国が200ほどあり、人口1000万人以上に限ると100ほどある。 1000

          同性婚がなかなか容認されない理由

          絵文字を使うのは注意が必要

          面白い記事を見た。 同じ絵文字を見て、10代(Z世代)、30前後(ミレニアム世代)、50代(ベビーブーム世代)のそれぞれ2人がどんな意味で使うかを答えたものである。 先に注意点を。 それぞれ2人づつというかなり人数が少ない。 海外の記事であり答えた人は日本人ではない。 話題がそれるものの、たった6人に聞いただけで記事にしてしまうのはすごいと思う。 逆に言えばネット上にあふれているあたかも事実であるかのように書かれている記事は、十分な取材や調査がされていない可能性が高い

          絵文字を使うのは注意が必要

          グチは聞き流していればいい

          面白い新聞記事があった。 2024年2月10日 朝日新聞  質問:愚痴をこぼしますか? 回答:はい60% いいえ40% ※回答者2638人 質問:どんなことで?(複数回答) 回答:人間関係(658人)、仕事(644人)、配偶者(485人)、健康(421人) 質問:こぼす相手に何を求める?(複数回答) 回答:何も求めない(737人)、傾聴(460人)、助言(168人)、うまく導いて欲しい(52人)、悩みを整理してほしい(46人) 詳しくは 以下を見てもらいたい(有料記事

          グチは聞き流していればいい

          心療内科を受診した人の多くはすぐ治療を中断する

          現在 普段働いている精神科病院以外で、心療内科として週1回半日外来を担当している。 以下の記事でも書いたように、心療内科を標榜しているメンタルクリニックの医師のほぼ100%が心療内科専門医ではない。 精神科はちょっとかかりづらいから心療内科にしよう! と診察を受けた医師のほとんどは精神科医である。 とはいえ、手術ができなくなった外科医、儲かるかもと思って変わってきた内科医であるよりかは良いかもしれない。 患者は意外と治療を継続しない心療内科は新患を予約制にしていること

          心療内科を受診した人の多くはすぐ治療を中断する

          生活保護は希望したら終了できるとは限らない

          先日 生活保護を受給している人が生活保護をやめたいと思ってもやめさせてくれないという出来事があった。 個人的には生活保護は福祉サービスであり、対象になる人はみんな、堂々と受けたらいいと思っている。 その人の場合は、いろいろな事情で生活保護をやめたほうがよさそうなので(詳細の説明は省略)、私も「やめたらいいよ」と話をしていたので、「だめ」と福祉から言われてちょっとびっくりした。 ネットなどでも、 などと書かれてあることが多く、実際 福祉担当者に「やめたい」といって辞めた

          生活保護は希望したら終了できるとは限らない

          精神科医療の世界に弁護士が介入することによる弊害

          最近 弁護士が精神科医療の世界に介入してくることが増えてきている。 弁護士が増えすぎて仕事が減ったせいなのか、精神科医療に理解と興味を示す弁護士が増えたためなのかわからない。 弁護士が介入することでいいところと悪いところの両方がある。 いいところ強い立場から意見を言える どうしても家族は病院に対して弱い立場になってしまうことが多い。 本人の言動に振り回され疲弊し何とか入院させたという経緯がある以上、どうしても助けてもらったという感覚を持ちやすく、病院の言うとおりにな

          精神科医療の世界に弁護士が介入することによる弊害

          今年良く読まれた記事

          今年1年でよく読まれた記事を紹介する。 1位 昨年も1位。読まれるのはいいことではあるものの、一番というのは複雑な気持ちになる。 2位 やはり一番関心を持って検索される部分なのだと思う。 できるだけ早く退院したい(させたい)という気持ちはわかるものの、早く退院しすぎて大失敗したり、長期的な経過が悪くなることは避けてほしい。 3位 まだまだ薬の量が多く治療を受けている人が多いのだと思う。 Aという抗精神病薬の単剤治療でだめで、Bという抗精神病薬の単剤治療でだめだっ

          今年良く読まれた記事

          人にお金を貸してはいけない理由

          今回はタイトル通り完全に精神科医療とは関係のない話である。 人生の中で大切なことであるものの、なぜいけないのか、何が問題なのか、明確に書いてあるものがあまりないので、家族に説明するために作成したものを紹介する。 1.人に金を貸してと頼んでくる人は既に金銭的に終わっている現在は簡単に金を借りることができる。 それにも関わらず人に金を貸してと頼んでくるのは、世の中の金を貸す会社、その人の周りにいる多くの人がこれ以上金を貸してくれないからである。 あなたに「金を貸してほしい

          人にお金を貸してはいけない理由

          うつ病は治る というけれど・・・

          先日 興味深い文章を読んだ。 うつ病は慢性化するうつ病の経過と長期予後に関する最近の知見と過去の歴史 大前晋 精神科治療学 2023 そこで紹介されていた話 うつ病の人は、1)2年後に うつ病から58%しか回復しておらず、21%が慢性化している。2)6年後に 17%しか回復しておらず(うつ病と限らず何らかの精神科病名がついている)、55%が慢性化している(Verduijin J et al 2017)。 うつ病の人の多くは治る(と私は思っている)。 しかし、なかなか

          うつ病は治る というけれど・・・

          発熱した人を見ない内科の診療所はつぶれたほうがいいと思う

          現在診療報酬改定の話題が出てきている。 そのなかで診療所(クリニック)は経営が比較的良いので、診療報酬を下げる マイナスにしたほうがいいという意見が主に財務省から出されている。 開業医の代弁者である医師会は当然ながら大反対をしている。 入院を担当しない診療所は医業収益8961万円、費用6099万円、損益2875万円(第24回医療経済実態調査) この数字を見ると多少マイナスにしてもいい気はする。 特に、いまだに発熱した人を見ない内科の診療所はつぶれるところがでてくるく

          発熱した人を見ない内科の診療所はつぶれたほうがいいと思う

          警察官が精神科病院に連れて行ってくれる時

          治療が必要と思われる状態なのに本人が受診を頑なに拒否しているときにどうするかは難しい問題である。 以下の記事では移送制度について書いた。 極めてまれに警察官が精神科病院に本人を半強制的に連れてきてくれることがある。 自分が経験したケースでは、 ・入院中で外出や外泊したまま帰らないとごねだした人 ・警察が逮捕・保護したものの取り調べにならず、本人も病院に連れて行けと騒いだ人(警察署を出るときは強制的ではなかったもののパトカー内で暴れだし病院についたときには手錠をされていた

          警察官が精神科病院に連れて行ってくれる時

          薬の出荷調整続く。。

          変わらず薬の出荷調整が続いている。 以下が2021年10月の記事。 その後も薬が出荷調整されることが続いている。 クロルプロマジンも出荷調整が続いており、現在も服用している人はなくなってしまったときに備え順次減量をしている。 クロルプロマジンのような薬を服用している人のほとんどは、長期間服用しており、この薬で安定している人が多い。 しかしクロルプロマジンのような薬価の安い薬(600㎎で1日60円ほど)は、製薬会社にとってはうまみがほとんどなく、製造再開の優先順位が低い

          薬の出荷調整続く。。