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うつ病は治る というけれど・・・

先日 興味深い文章を読んだ。


うつ病は慢性化する

うつ病の経過と長期予後に関する最近の知見と過去の歴史 大前晋 精神科治療学 2023

そこで紹介されていた話

うつ病の人は、1)2年後に うつ病から58%しか回復しておらず、21%が慢性化している。2)6年後に 17%しか回復しておらず(うつ病と限らず何らかの精神科病名がついている)、55%が慢性化している(Verduijin J et al 2017)。

「『うつ病は治る』はいまや原則ではない。例外である」。そういった見解が定説となりつつある。

大前晋 精神科治療学2023

うつ病の人の多くは治る(と私は思っている)。

しかし、なかなか治らない人は確かにいるし、一度治ってもしばらくするとまた悪くなる人も多い。

うつ病が慢性化する理由として、上記では、1)うつが続く時間は思っているより長く個人差が大きい。数か月で改善する人もいれば1年以上続く人もいる。2)従来診断のうつ病以外の人が含まれている。ことを指摘している。そして、3)Demoralizationを紹介している。

Demoralization≒士気消失

治るはずのうつ病が治らない。その時当事者は何を思うか。(略)。「オレはダメだな」という敗北感や自責感。(略)失敗体験を繰り返す。

「うつ病は必ず治る病気」という説明は、もう治らないと思い込み、これ以上家族に迷惑をかけないためには死ぬしかないと感じている本人を助ける。

しかしこの説明をすべての人に行っていくと、すぐに治ると思っていた人たちがなかなか治らず、もやもやとした状態が続く中で、自信を無くし”ひねくれて”いってしまう。

もちろんこれは「必ず治る」と言わなくても十分起こりえる状態ではあるものの、本人も周囲も「必ず治る病気=たいしたことない病気」という認識になってしまったときに害を与える可能性は高まってしまう。

とはいえ「この病気は治療でつらさは和らぎますが、2年経っても半分程度の人しか治りません」とは私には言えないし、自分の治療経験では2年後に58%しか回復していないというデータほど低い気はしない(正確なデータはない)。

治ってはいるけれど治ってない

病気としてはおおむね治っているものの、本人の感覚としては治っていないということは良くある。

病気という異常な状態は改善し、話した感じや日常生活を見る限りではほとんど問題ない状態に戻る。

しかし本人の感覚としてはまだ治っていない。

以前のような あふれる活力はなく、高いモチベーションもなく、心から笑うことができない。

やらなければならないことを淡々とこなすことはできるものの、ただこなすだけの日々。

医師や家族に言っても「元気になったじゃない」と言われるのみ。

この状態になる原因はいくつか考えられる。

1)まだ脳の働きが治りきっていない

当然ながら医師は本人の病前の状態を知らない。

そのため医師が治った・治ってないと判断するのは、多くの人の正常範囲に入ったかどうかである。

本人にとってまだまだ以前のレベルに戻っていなくても、多くの人の正常範囲に入れば治ったと医師は判断する。

家族も以前のひどいときに比べてよくなってくれば、治ったと判断することは良くある。

こうしてまだ脳の働きが以前ほどは治っていないにもかかわらず、周囲からは治ったと判断されてしまう。

その後 半年~数年かけてゆっくりと回復していくこととなる。

ただし最近の研究では双極性障害の人たちの一部は能力低下が残存することが分かってきており、回復しきらず後遺症が残る可能性も否定できないが、私は治ると思って治療を続けたい。

2)軽躁気味を普通の状態と思っている

双極性障害の人には非常に多いものの、非常に頭の働きが良くなりいろいろと動くことのできる軽躁状態(あるいは躁状態)を、普通の状態と思っていることが良くある。

また双極性障害でない人も、気を張って無理をして頑張っていた時期を普通の状態と思っていることが良くある。

少し動きすぎていたときを普通と思い、今の少し動きづらいときをまだ治っていないと思うと、その後 不安定になりやすい。

双極性障害の人が軽躁状態を目指して治療するとあっという間に躁状態になる。

うつ病の人が 少し動きすぎていたときに戻すと あっという間につぶれてしまう。

あのときの自分は「長くは続けることができない特別な状態」ということを受け入れる必要がある。

3)薬の副作用

抗うつ薬は気持ちのうつ状態を改善させる作用はあるものの、人によっては 感情がマヒしたような感覚になることがある。

薬で 不安、悲しい を減らすことで、楽しい、うれしい、うきうきする が減ってしまうのかもしれない。

うきうきする と 不安 は脳の状態としては非常に近いともいえる。

ある程度精神的に安定し、ストレス処理も上手になって、それでも感情がマヒした感じが続く人は、ゆっくり薬を減らしていくほうが結果的によくなるときがある。

ただし減薬は再発のリスクを高めるので十分に注意する必要性はある。


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