警察官が精神科病院に連れて行ってくれる時
治療が必要と思われる状態なのに本人が受診を頑なに拒否しているときにどうするかは難しい問題である。
以下の記事では移送制度について書いた。
極めてまれに警察官が精神科病院に本人を半強制的に連れてきてくれることがある。
自分が経験したケースでは、
・入院中で外出や外泊したまま帰らないとごねだした人
・警察が逮捕・保護したものの取り調べにならず、本人も病院に連れて行けと騒いだ人(警察署を出るときは強制的ではなかったもののパトカー内で暴れだし病院についたときには手錠をされていた)
・小さな迷惑行為を繰返し、家族と警察が何度も相談をしていた人
などである。
基本的に医師(あるいは病院)が本人のことを多少知っており、入院させたほうがいいと思ったときである。
警察と多少の付き合いのある医師は、警察から依頼を受けて病院に警察官が連れてきて入院させることもあるものの、通常はない。
警察官が精神科病院に強制的に連れてくる法的根拠
日本は法治国家であり、法律に規定されていない限り自由を制限されることがあってはならない。
精神症状が不安定で周りに迷惑をかける人であっても、法的根拠がない限り無理やり精神科病院に連れてきてはならない。
精神疾患(疑いを含む)の人を強制的に精神科病院に連れてくる法的根拠には以下のようなものがある。
1.警察官職務執行法第三条
この法律によって、警察官は、精神錯乱(≒精神的に非常に不安定で興奮したりまとまりのない行動が続く人)で危険であると判断した人を保護し、病院に相談し病院受診が望ましいと判断した場合は病院に連れていくことが可能である。
連れていく途中で暴れるなど抵抗が強いときには、公務執行妨害にて逮捕することも可能である。
病院に強制的に連れていくのは、治療を受けさせることが目的なのではなく、「病院などの適当な場所において保護」することが目的であるため、基本的に病院と連絡を取りあい、「(基本的に)入院させましょう」という話ができてからになることが多い。
そのため家族が警察に「病院に連れて行ってください」とお願いしても、「無理です」と断られてしまうことが多い。
繰返しになるが、警察は治療を受けさせるために病院に連れていく権限はなく、病院で保護させる(=入院させる)ために病院に連れていく権限があるだけである。
家族は事前に病院・警察・保健所と相談を繰返し、「その状態ならまず入院が必要そうだね」と医師が判断してくれるようにする必要がある。
とはいえ医師の立場から言えば見たこともない人を「入院が必要だ」と判断するのは極力避けたいというのも本音である。
2.精神保健福祉法 措置入院
自傷他害の危険性があると判断した場合は、警察官は保健所経由で知事に通報し、措置入院が必要かどうかの判断を仰ぐことができる。
ただしこの法律では、診察を受けさせたり入院させたりするのは知事の権限であり、同29条の解釈2でも「知事が入院させる権限を行使する際は直接患者の身体に強制力を加えることができる」と規定されている(精神保健福祉法詳解)。
厳密にいえば警察官が病院に連れていくことができるとは規定されていない。
しかし県の職員だけで入院させることは到底むりなので警察官の協力をえることとなり、その際の法的根拠は警察官職務執行法第三条と考えられる。
ということで、警察官が病院に連れて行ってくれるとすれば、入院することがほぼ確定的であるときだけであり、そうなるように家族は病院・保健所・警察と協力をする必要がある。
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