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#安部公房

安部公房「燃えつきた地図」感想

安部公房「燃えつきた地図」感想

 都会——閉ざされた無限。けっして
迷うことのない迷路。すべての区画に、
そっくり同じ番地がふられた、君だけ
の地図。
 だから君は、道を見失っても、迷う
ことは出来ないのだ。
(安部公房「燃えつきた地図」)

   ※

 興信所の調査員が、失踪した男を追い始めるところから物語は始まる。依頼人であるアルコール中毒の女性、怪しげな組織に所属するその弟、失踪人の元同僚に、喫茶店「つばき」の関係者たち

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「箱男」感想 ——反逆——

「箱男」感想 ——反逆——

「箱男」と呼ばれる存在がある。段ボール箱をすっぽり被って、街を徘徊。専ら覗き穴から外部を伺い、あらゆる人間に無視されて、のそのそがさごそ歩き続ける。浮浪者とは違う、もっと下位の存在。市民であることすらやめた、匿名の誰か。「見ること」に取り憑かれた一人のある箱男は、箱の中で、一冊のノートに箱男の記録を始めていた……。
奇怪な彼らの生態が、生々しい現実感を伴って、克明に描かれる。本物と偽物、能動と受動

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安部公房「第四間氷期」感想 ───「未来」を考えること

安部公房「第四間氷期」感想 ───「未来」を考えること

 我々は、過去と比較し現在を評価する。ではやはり、我々も未来によって比較される存在なのではないか……。そして我々がその未来を良いと思うか悪いと思うかに関わらず、未来は自分自身を評価する。そこに、我々の主観が介在する余地はない。未来を過去の──部外者の基準、常識で語るのは大きな間違いであり、真に正しい、絶対的な評価とは言えないのである。そうでなければ、あらゆる時代はあらゆる種類の評価を受け、飽和した

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