マガジンのカバー画像

スーのパーのカー

14
嘘大袈裟まぎらわしさ
運営しているクリエイター

記事一覧

あ!蟹だ!

あ!蟹だ!

若かった。若いから射精と女体の幻影に囚われていた。とてつもなく愚かだった。私は高校生だった。私はまだ半人前だから道を誤ったのではなくそもそも生まれた時から何もかもしっくりきていなかったのである。これは罪の告白ではない。単なるフィクションだ。

高校1年生で既に私は童貞じゃなかった。理由は色々あるだろうが、一番は私がかわいいからで付随して理由づけるなら私が極悪人だからだ。大学生の塾の講師だった人と春

もっとみる
想像ノ王國

想像ノ王國

おそらくだが私のドッペルゲンガーがいる。しかも割と近所に住んでいる。そんな予感はずっとしていたのであるが、ある日近所のカフェで本を読み耽りながらラテを啜っていたところ、急に女性に話しかけられた。あの、すみません、この前もそこで漫画本を山積みにして読んでいらっしゃいましたよね?と女性は言う。お気を悪くしたらごめんなさい、古谷実、あたしも大好きなのでつい話しかけてしまいました。私はゆっくりと女性の方を

もっとみる
四畳半奇想散策夢見式

四畳半奇想散策夢見式

目が覚めると先程まで一緒に寝ていたはずの愛妾が大きな烏賊に喰われていた/僕はそれを眺めながら煙草に火を点けた/愛妾は烏賊に喰われながら足をバタバタさせている/何にそんなにというくらいに烏賊は怒っていた/愛妾はしぶとく抵抗している/宇宙の広さを想えば烏賊もがんばれだし愛妾もがんばれだった/砂粒のような男と女と烏賊/煙草を喫み終えた僕は愛妾の両足を掴んでからズルっと引っ張る/烏賊の墨毒の影響だろうか/

もっとみる
デクノポリス

デクノポリス



都市部に住んでいると不思議と人が何かの部品に見えるようになってくる。巨大な迷路に迷い込んだ部品人間たちの末路を目に痛いくらいのスピードで見てきた身としては不条理が不条理でなくなる瞬間さえ訪れがちだ。管理官は私をグレイと呼んだ。これはコードネームなのではない。私には管理官のオフィスに行くと必ず管理室のあるビルヂングの155階から粉塵で霞む地上を斜めに見下ろす癖がありその様子が大昔に活躍した愚霊

もっとみる
作家の午後の詩の海

作家の午後の詩の海

第一部 作家の午後

昼にリクエストしておいたイカの刺身が幾分ネチョっとしており大作家椚澤悶土のテンションはダダ下がりであった。贔屓にしている魚屋が去年の暮れに脳卒中でポックリ逝ってから椚澤氏はしばらく新鮮な海の幸から遠ざかっていた。年寄りの癇癪持ちは手に負えないというが、椚澤氏の癇癪は常軌を逸して激しかった。お手伝いさんの桶川さんを内線電話で呼びつけて件の魚屋の「宇尾繁」に電話をしてください、と

もっとみる
私は貴方の為に爪を黒紫に塗ったわけではない

私は貴方の為に爪を黒紫に塗ったわけではない

3月某日。寿退社をする何某さんに会社から花が手渡され拍手と共に涙ぐむ何某さんは送られていった。花は全部菊の花で部長と私はあの縁起の悪い花を買ったのが誰かと調べたら新人でもないのに万年コピー機博士兼お茶汲み娘として有名な小幡さんであった。村上春樹でもないのに私と部長はやれやれと言い合って会社に戻ると月末の事務処理という戦場へ戻るのであった。

以上がオリビアがボブに聞かせた話の内容をギュッとまとめた

もっとみる
逃げてください

逃げてください

逃げてください。あの子が突然、連絡を寄越してきたのは葉桜の頃だった。私たちの関係がバレました。あの人があなたを探しています。お願い逃げて。僕はすぐに電話する。あの子の番号にかけてももう繋がらなかった。連絡なんかしないでください。あの人が怖くないの?僕は体の底から響く声でうめく。全然怖くなかったからだ。「あの子」と「あの人」が主従関係であることは話の種には聞いて理解していたつもりだったが、そういう演

もっとみる
かつて「女」が資源であった時代があった

かつて「女」が資源であった時代があった

2101年、6月8日、雨。図書ベースの検索に面白い文献が見つかった。隷属民、というデジタル形式のみで書かれた本で作者は大戦中のノイズ爆弾のせいで不明。登場する人間は幻想に追い立てられていて、皆それぞれ生まれながら与えられた不自由や呪縛を絶望し時に楽しみながら消費していた時代があったらしい。今は科学の力でなくなった性別という概念があって、人々は男女に分かれて、途方も無い苦労の中、お互いを差別し監視し

もっとみる
令息物語

令息物語

茫然自失と泰然自若は似ている。辞書的な意味合いでいえばこれは大変な間違いであるが幸にして私は教職に就いているわけではないし、死刑囚に懺悔の機会を許す坊主や牧師でもないので、己の思うがままに論じてもよかろう。茫然自失と泰然自若は似ている。漢字の二文字が一緒である。茫の意味は果てしがないであり、泰の意味はやすらかである。自若と自失は反意語のようにも感ぜられるが、元々若いというのは弱いという意味も含んで

もっとみる

ザ・ビッグナイト

海を見ていた。夜の海だ。どーんどーんと波が打ち寄せる音以外は無音だった。その人と初めて待ち合わせて会った時、彼女の乗る電車は人身事故の影響を受けて大幅に遅れていた。知らない土地で知らない人の骨や肉が悲鳴と一緒に車輪に絡まって知らない駅員や知らない警察官たちが現場検証をしたりビニール袋に肉片を拾ったりしているファンタスティックな想像が僕を尻込みさせていく。知らない夜の出来事。彼女が僕の肉片をビニール

もっとみる

私を殺してくれないの?と彼女は言った

忘れもしない、あれは小学四年生の遠足だった。貝塚とか、段丘とか、野鳥公園とか、その手の遠足。私は心の柔弱な少年でいつも胸に薔薇を這わせてはしくしく泣いているタイプの「僕ちゃん」で肌の白い子豚の丸焼き状態で息も絶え絶えに潜んで暮らしていた。バスで隣の席に座っている大平さんは私とは真逆の美人で頭がよくて女子にも男子にも人気者の学級委員長だった。内股気味で歩く私は皆から薄らバカのオカマちゃん扱いを受けて

もっとみる

なお慰安旅行における慰安量はセックスの回数に比例するものとする

群青色のパンティ一枚きりを穿いて女は壁側を向きぐったりと横たわっていた。昼に寄った食事処で注文した虹鱒料理に当たったのだろうか。いや、それはあり得ない。その証拠に私も虹鱒の刺し身を恐る恐る食べたがピンピンしている。私は自分の分の座布団を折り曲げて、女の首のところにそっと滑りこませる。きっと温泉の湯に当たったのですと女は蚊の鳴くような声で言う。私は手持ち無沙汰で団扇などで女の身体を鰻の蒲焼きでも調理

もっとみる

冷たい棺の中のディスコ

知人が死んだ。もう四年近く前のことだ。鴨がネギ背負ってじゃないが、彼女も背中に何かを背負って何かにバクリと喰われてしまった。酒の好きだった彼女が酒の飲めない身体になり、連絡がきた。酒を断てと医者は言うが、そんなものは知ったことか。昏睡状態になっても取り上げられない場所を見つけたから、酒を買って来てほしい。私は彼女のいう通りにした。酒は詳しくないが、琥珀色のものなら何でもいい、というリクエストに答え

もっとみる

神棚にチーズバーガーをお供えするアンクルサム

某月某日。爺さんは山へ芝刈りに行き婆さんは川へ洗濯に行った。二人とも帰ってこなかった。永遠にだ。私はアンクルサムとして恥ずかしくないアメリカンライフを送りたいと念じていたので、二人の不在は渡りに船だった。アメリカの国旗を塗炭屋根の上に備え付けて、ゴリラのようにドラミングをする。幸先はよい。私はアンクルサム。ハットをかぶった小粋な奴。電話番号をあばら家に書いて「アメリカンライフをはじめてみませんか」

もっとみる