- 運営しているクリエイター
記事一覧
私は貴方の為に爪を黒紫に塗ったわけではない
3月某日。寿退社をする何某さんに会社から花が手渡され拍手と共に涙ぐむ何某さんは送られていった。花は全部菊の花で部長と私はあの縁起の悪い花を買ったのが誰かと調べたら新人でもないのに万年コピー機博士兼お茶汲み娘として有名な小幡さんであった。村上春樹でもないのに私と部長はやれやれと言い合って会社に戻ると月末の事務処理という戦場へ戻るのであった。
以上がオリビアがボブに聞かせた話の内容をギュッとまとめた
かつて「女」が資源であった時代があった
2101年、6月8日、雨。図書ベースの検索に面白い文献が見つかった。隷属民、というデジタル形式のみで書かれた本で作者は大戦中のノイズ爆弾のせいで不明。登場する人間は幻想に追い立てられていて、皆それぞれ生まれながら与えられた不自由や呪縛を絶望し時に楽しみながら消費していた時代があったらしい。今は科学の力でなくなった性別という概念があって、人々は男女に分かれて、途方も無い苦労の中、お互いを差別し監視し
もっとみる私を殺してくれないの?と彼女は言った
忘れもしない、あれは小学四年生の遠足だった。貝塚とか、段丘とか、野鳥公園とか、その手の遠足。私は心の柔弱な少年でいつも胸に薔薇を這わせてはしくしく泣いているタイプの「僕ちゃん」で肌の白い子豚の丸焼き状態で息も絶え絶えに潜んで暮らしていた。バスで隣の席に座っている大平さんは私とは真逆の美人で頭がよくて女子にも男子にも人気者の学級委員長だった。内股気味で歩く私は皆から薄らバカのオカマちゃん扱いを受けて
もっとみるなお慰安旅行における慰安量はセックスの回数に比例するものとする
群青色のパンティ一枚きりを穿いて女は壁側を向きぐったりと横たわっていた。昼に寄った食事処で注文した虹鱒料理に当たったのだろうか。いや、それはあり得ない。その証拠に私も虹鱒の刺し身を恐る恐る食べたがピンピンしている。私は自分の分の座布団を折り曲げて、女の首のところにそっと滑りこませる。きっと温泉の湯に当たったのですと女は蚊の鳴くような声で言う。私は手持ち無沙汰で団扇などで女の身体を鰻の蒲焼きでも調理
もっとみる冷たい棺の中のディスコ
知人が死んだ。もう四年近く前のことだ。鴨がネギ背負ってじゃないが、彼女も背中に何かを背負って何かにバクリと喰われてしまった。酒の好きだった彼女が酒の飲めない身体になり、連絡がきた。酒を断てと医者は言うが、そんなものは知ったことか。昏睡状態になっても取り上げられない場所を見つけたから、酒を買って来てほしい。私は彼女のいう通りにした。酒は詳しくないが、琥珀色のものなら何でもいい、というリクエストに答え
もっとみる神棚にチーズバーガーをお供えするアンクルサム
某月某日。爺さんは山へ芝刈りに行き婆さんは川へ洗濯に行った。二人とも帰ってこなかった。永遠にだ。私はアンクルサムとして恥ずかしくないアメリカンライフを送りたいと念じていたので、二人の不在は渡りに船だった。アメリカの国旗を塗炭屋根の上に備え付けて、ゴリラのようにドラミングをする。幸先はよい。私はアンクルサム。ハットをかぶった小粋な奴。電話番号をあばら家に書いて「アメリカンライフをはじめてみませんか」
もっとみる