なお慰安旅行における慰安量はセックスの回数に比例するものとする

群青色のパンティ一枚きりを穿いて女は壁側を向きぐったりと横たわっていた。昼に寄った食事処で注文した虹鱒料理に当たったのだろうか。いや、それはあり得ない。その証拠に私も虹鱒の刺し身を恐る恐る食べたがピンピンしている。私は自分の分の座布団を折り曲げて、女の首のところにそっと滑りこませる。きっと温泉の湯に当たったのですと女は蚊の鳴くような声で言う。私は手持ち無沙汰で団扇などで女の身体を鰻の蒲焼きでも調理するかのようにパタパタあおぐ。浴衣を着させて湯冷めさせないようにさせてやりたいような、そのままにさせておいて背中から尻を越えて太ももからふくらはぎにかけての見応えのある形状をとっくり観察したいような、何ともどっちつかずなことを考えていると、女は咳をひとつした。私は誰からも愛されていないだけではない。私の方でも誰も愛していないのだ。と、悲しい夢想ばかりが女のした咳に乗り枯れ野を駆け巡るようだった。ついに決心し私は女を置いて、夕暮れ前の溪谷を散歩してくることにした。奇形の松や極彩色の菌糸類などをキャメラに撮ったり、河原に降りてきたカワセミに心を奪われたりしていると、塞いだ気持ちが晴れていくようであった。散歩に出掛けると一向に帰らなくなる悪癖が私にはある。すっかり暗くなって宿の部屋に戻ると女は淡いアジサイ色の浴衣を着て電波のきていない携帯電話をポチポチ弄っているところだった。私のものだった。女は曖昧に笑うと携帯電話が置いてありましたよ、と何を取り繕うわけでもなく、私に返してよこす。電波が入らないので置いていったのですよ、と私も曖昧な答えをして受け取った。夕食は何かしら、ほうとうかしら、何となく女が元気になったような気がするので私は内心ホッとしてカワセミを川で見かけた報告をする。女はどこかディズニーランドの電気仕掛けの人形のようにロボめいた表情をしながらフロントに内線電話をかける。食事の催促だ。私は女の淡いアジサイ色の浴衣の袂に手を忍びこませてうなじに唇を当てる。女は電気仕掛け人形のようなゆっくりした動きで私を振り向き、申し訳ございませんがさきほど予定より早く生理がきてしまいました、と音声ガイダンスに従ってくださいと言わんばかりの機械的な詫びを入れてから、そっと袂に入ってきてすっかり硬くなった乳頭などを触る男の手を取り出す。部屋のすぐ外に広がる茂みではカナカナカナというひぐらしの鳴く声がしている。よほど私はこの世の終わりみたいな顔をしていたのだろうか。女は私を見てプッと吹き出した。夕飯は山菜の炊き込みごはんとミニ豆乳鍋と十割蕎麦とイワナの塩焼きなどであった。

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