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「かけ湯」につかるシュールな光景に、日本の文化を伝えたいと願ったあの日(涙)



あなたはおふろにはいる前にきちんと「かけ湯」をしてから入浴していますか?そんなのあたり前、常識だと思われるかもしれませんね。

ですが、長年おふろ屋の現場に立っていてわかったのです。この常識を知らない人が一定数いることを!そして、常識としては知っていても、その理由をきちんと理解していない人はかなり多いのです。

年間、120万人を湯ぶね越しに見てきた立場から、入浴時の「かけ湯のマナー」について解説します。本記事を読むことで、かけ湯の本質を理解し、あなたもきっと「かけ湯マイスター」になれますよ!


かけ湯は入浴時のマナーである


かけ湯とは、入浴前、湯ぶねにつかる前に、あらかじめ洗面器でお湯を身体にかける行為のことです。家庭のでは貯めた湯ぶねから何杯かをすくってかけるか、先にシャワーで身体をながす人もいるでしょう。

公衆浴場のばあい、必ず浴室に入ってすぐにかけ湯のためにお湯を貯めた場所があり、そこでかけ湯をするのがマナーです。

以前、勤務していた、新設したばかりのスーパー銭湯での話です。脱衣場の内線電話でフロントにお客さまから連絡がはいりました。男湯のかけ湯につかっている人がいるので注意してほしいという内容でした。

急いでスタッフが駆けつけると、身体を窮屈に曲げた男性が、かけ湯につかっているシュールな光景がそこに!

“何をされているんですか?”
とオズオズと尋ねると

“えっ! かけ湯に入っているんですけど”
との答えがドギマギと返ってきたそうです。

たしかに、かけ湯には「かけ湯」と書かれた札が立っています。

スタッフ曰く、極めて大まじめなようすだったので、イタズラでないと判断して、かけ湯の説明をしたそうです。20代後半とおぼしきそのお客さまは、恥ずかしそうに謝ってこられたというのです。

確かに、この施設のかけ湯はすこし大きめに設計されており、オーバースペック気味ではあったのですが「かけ湯」の意味を知らない人がいることに驚きました。

日本語で会話ができたそうなので、訪日外国人でもなかったようです。

近所にできたばかりのスーパー銭湯が、もしかしたら彼にとっての公衆浴場デビューだったのかもしれませんね!

なぜかけ湯を行うのかを考察してみる


では、なぜかけ湯を行うのか、その理由について考えてみたいと思います。その目的は大きく分けて3つあります。
1.衛生上の問題
2.身体への負荷の問題
3.社会的マナーの問題

衛生上の問題


かけ湯は、湯ぶねにつかる前に身体を清潔にする目的があります。

シャワーだけですますときや、一人暮らしで、貯めた湯ぶねは自分しか使わないというのであれば話は別ですが、家庭では貯めたお湯を家族で使う場合もあるでしょう。公衆浴場では、もちろん多くの人が湯ぶねのお湯を共有しますよね。

汗や、局部の汚れなどは洗い流してほしいものです。

これはわたし自身の経験なのですが、子どもの頃に私も妹も父親とおふろに入っている時、最初に「おしりバシャバシャ」しなさい! と教わりました。

おしりバシャバシャとは、洗面器にお湯を貯めて、そこにおしりをつけて、ちゃんと洗うことをさします。

その教えは、中学を卒業するまで律儀に守っていました。高校は寮だったので、入寮当初にそれをやると、友人たちから「しり洗い」というなんとも不名誉なあだ名を付けられ、冷やかされたので、それ以来やってはおりませんが……

そういえば妹はいつまでやっていたのだろうか? もう何年も会っていないが、会う機会があれば確かめたいと思います。50歳を過ぎた今なお行っていれば。それはそれで愛おしいかもしれません!

しかし、父の教えは実に的を射たものだったと思うのです。今や便座洗浄器が標準の時代だが、おしりだとか局部は、ちゃんと洗わないときれいにはならないですからね。

さすがに、洗面器でお尻バシャバシャを公衆浴場で行う大人のお客さまは、いまだ見かけたことはありませんが、しっかりとお湯をかけて清潔にしてから湯ぶねに入りたいものです。

身体への負荷の問題


2つ目の目的は、身体への負荷をおさえるためです。

湯ぶねの中の温度と、外の温度の温度差が大きい場合、急な温度の変化は心臓に負担をかけることになリます。

1年間におふろの浴槽内で発生する死亡事故は、5,666人(2019年厚生労働省人口動態統計)。この数字は交通事故死亡者数3,215人(2019年警察庁調べ)と比べても1.8倍です。いかに多いかわかるでしょう。

上記の数字は、死亡原因が溺死と判断された数字で、脱衣場や浴槽以外の浴室内での事故は含まれてはいません。

暖かい部屋から寒い脱衣場で服を脱いだ時の温度差、脱衣場から十分に温まっていない浴室に入った時の温度差によって心筋梗塞などを発症してしまうヒートショックによる死亡者数は、溺死で亡くなる人よりはるかに多いと想像できます。

因みに、急性心筋梗塞で亡くなる人は年間31,537人(2019年厚生労働省人口動態統計)です。全てが入浴時におこされたわけではないにしても、その要因となる環境変化には十分注意をする必要があるでしょう。

脱衣場・浴室はしっかりと温めて、浴室に入ったらかけ湯でお湯の温度に身体を慣らしていくことが大切ですね。

かけ湯の際注意すべき点は、お湯をなるべく心臓から遠い場所からかけて、慣らしてゆくことです。足の先から徐々に下半身へ、そして指の先から徐々に肩にお湯をかけていくようにしましょう。

そのため、かけ湯はたとえ自宅で一人で使う場合であっても、安全面で大切です。ぜひ習慣化してください。

社会的マナーの遵守


3つ目の理由は、1つ目の衛生観念に通ずるものですが、社会的マナーの観点からです。

公衆浴場は多くの人が、共有して利用する場所。
見知らぬ同士が生まれたままの姿、つまりはだかで浴場という一つの場所でくつろげる、我が国らしい安心なスペースです。

この安心と安全は、お互いの思いやりの気持ちがあってこそ成立します。

昨今は、訪日外国人にも、日本文化としての公衆浴場体験が人気です。

こういったお客さまにお伝えしたいことは、単に湯ぶねに貯めたお湯につかるといったアトラクションとしてのおふろではなく、入浴マナーも含めた文化としての入浴を体感していただくことです。

空前のサウナブームで、先ほどのかけ湯に入浴していたお客さまではありませんが、サウナが目的で初めて公衆浴場を利用するといった若い世代の人も増えてきました。

日本人であっても、日本の入浴マナーを知らない人に、しっかりと日本のよき文化を学んでいただきたい思いもあります。

もし、この記事をお読みのあなたに小さなお子さまやお孫さんがおられる場合、入浴マナーとしてのかけ湯の習慣を教えて差し上げてください。

「三つ子の魂百まで」と言いますが、幼い頃父から「おしりバシャバシャ」を教わった記憶は、今もよい思い出として心に残り、このような記事を書く動機にもなっています。

シャワーが中心の生活だと、なおさらこのようなことは知らないという子どもたちは増えていくでしょう。

おふろを通じて、思いやりの気持ちという良い文化はどんどん継承していってほしいと願います。

まとめ


かけ湯は入浴時のマナーである。その目的は3つ

1) からだを清潔にして、みんなで共有するお湯をきれいに使う

2) 湯ぶねにつかる際の身体への負荷を軽減する。
かけ湯は心臓から遠い場所へかけてゆく。足の先から下半身、手の指先から肩にかけてゆっくりとかけましょう。

3) 社会的マナーの遵守
入浴マナーを通じて、思いやりの文化を身につける。

さあ、これであなたも立派な「かけ湯マイスター」です。素敵なおふろ文化を楽しみましょう。

最後に、お願いがあります。
しあわせな人生のレシピ。おふろでくつろぐ時間はそこに欠かせない素材です。あなたの人生を豊かにする、そんなおふろにまつわる話、人間模様をお伝えしています。よかったら、スキ、フォローおねがいします


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