見出し画像

ある医師が命をかけて実現したかった日常と、僕らの幸せな毎日

おふろのある国、日本は幸福な国だと思う

見知らぬ同士が裸になって同じ空間でくつろげる、銭湯や温泉という風習がある我が国は、つくづく平和だと感じるからです。

長年、スーパー銭湯の運営を行なっていました。湯船の中のお客様は、みな朗らかな表情です。生まれたままの姿で、おふろの中では誰もが平等です。湯船に浸かって体を温めれば、誰もが幸せを感じているようです。

日本人の平均寿命が長いのは、この安心感と幸福感を得る機会が多いのも要因の一つではないでしょうか。

我が国が、銭湯や、温泉、サウナなど公衆浴場を安心して利用できる背景には、類まれなる治安の良さのおかげでしょう。

家庭でもたっぷりのお湯を「ゆぶね」にためて浸かることができるのは、安全で豊富な水の存在があるからです。

平和な国で最も平和な場所は銭湯である

コロナが世界を席巻する少し前、ある商社に呼ばれ相談されました。メキシコに銭湯を作りたいけど、意見が欲しい。

メキシコの人口は日本とほぼ同じですが、国土はその5倍です。公衆浴場という文化もありません。

そして何より懸念されたのは、治安の問題。毎日75人もの人が犯罪によって命を奪われています。毎年の28,000人の被害者数は、この3年間で戦死したウクライナの兵士を上回ります。

セキュリティが厳重な、高級spaならまだしも、お望みの日本風銭湯は難しいですね!という結論になりました。

日本の街中にある銭湯の利用者は、あたりまえのようにくつろいでいます。のれんをくぐって、ガラス戸一枚の入り口を入れば、番台におじさんか、おばさんが一人座り、すぐに脱衣場です。そんな古典的な銭湯が今でも多く存在しているのが我が国です。

多少の違いはありますが、大抵の銭湯や、スーパー銭湯は似た構造で運営されています。セキュリティーを考えれば、街中にある、ほのぼのとした銭湯など考えなられない国は多いでしよう。

温泉地の、共同浴場は番台すらない浴室も多くあるのです。貴重品の管理は必要ですが、盗難の確率は低く、無防備な状態でも命を奪われることはまずありません。

メキシコも、自宅でシャワーでなく湯船があって、おふろの風習があれば、幸福感を得られる機会が増え、もっと平和になるのではないですか?商社なら、いっそ湯槽に浸かる文化を輸出できないですかね?

なんて逆提案したのですが、そんなことを考えるのはふろ屋の発想だと一蹴されました。

温泉を愛した中村哲さんの水への想い

2019年、アフガニスタンで武装勢力によって、この世を去った中村哲医師は、医者でありながら、長年に渡りアフガニスタンに用水路の建設を行なった偉人です。

彼とその仲間たちによって、65万人のアフガニスタン人の命が救われ、今も現地の人たちから絶大な信頼と尊敬を集めています。

この国で病気が蔓延するのは、枯渇した大地、安全な水が足りていない状況だと強い信念を持っての行動だったのです。

そんな中村医師が、生前日本のテレビ番組のインタビューで、数年に一度帰国した際の最大の楽しみは、温泉に浸かることですね。と答えていたのがとても印象に残っています。

治安も悪く、荒れ果てた荒野では飲む水にもこまり、草木も育たない。衛生環境も最悪な地では、医師としての病気の治療よりも、もっと大切なことがあると考えていた。

中村医師にとって、温泉はこんこんと湧く大地の恵み。日本で温泉に浸かることの愛おしさを、誰よりも強く感じていたことでしょう。

訃報を聞いたときに、もう一度中村さんには、たっぷりの温かいお湯に浸かってもらいたかったと強く感じたのを覚えています。

しっかり湯船に浸かろう

昨今のサウナブームも相まって、銭湯やスーパー銭湯は。どこもコロナ以前の集客で賑わっています。

サウナの素晴らしさが浸透してきたのも喜ばしいことですが、体をしっかり芯から温めるという点では、肩まで湯船に浸かるのがより効果的です。

そして、わざわざ銭湯や温泉に出かけなくても、ご家庭の湯船にたっぷりとお湯を張って、入浴を毎日続ける。これだけで幸福度は上昇するでしょう。

今晩は、シャワーで済まさずしっかりと湯船に浸かり、”ほっ”と息を吐いてみてください。

肩の重みがとれて、生きている実感が湧くでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?