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風と住まいの民俗学

風と住まい


風と共に暮らした人類の物語

写真ACより『北海道の防風林』参考画像

季節風の強い地域では樹木によって風を遮り、砂漠の住まいでは、光を遮り、空気をそとから取り入れる仕組みをつくりました。今回は、人間はどのように風と対峙したかを考えてみたいと思います。

防風林~強風から家を守る~

北海道

写真ACより『砺波散居集落』


富山県砺波(となみ)平野 屋敷林

季節風から住宅を守るため、垣入(かいにょ)と呼ばれる防風林が各屋敷を囲っています。
樹木の種類はスギが多く、ケヤキやカキなどが混植されています。

砺波(となみ)平野は庄川(古く雄神川と呼ばれました)の旧河道を利用した灌漑(かんがい)用水路が網目状に発達しています。緩やかな傾斜によって、広大な土地で水田農村が形成してゆきました。

写真AC『庄川 富山県一級河川』参考画像

灌漑とは
農業生産の効率化のために,土地に対して人為的に給排水すること。水田灌漑と畑地灌漑とに大別されるが,従来日本では前者の発達が著しい。現在では愛知用水に代表されるように,総合的な水資源利用を含めた規模で考えられ,近代灌漑は関連分野の専門知識,技術を駆使した国土開発計画として大きく発達した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

砺波の屋敷林に限った話ではありませんが、方角に合せて機能を分けているのも特徴です。基本的に住宅の東側を出入口とし、庭に観賞できる樹木が植えられています。西・南側は地域特有の風向きを考慮して、雪に備えた背が高く丈夫な樹木である杉が植えられます。南側には蔵や物置小屋があり、柿などの果実がなる樹木や竹(タケノコ等食用となる)などが計画的に植えられました。
杉からとれる落ち葉を「スンバ」と呼び、小枝と共に生活で使用する燃料としていました。また、杉は住居の建て替えの際には幹を家の柱などの住宅建材として、樹皮を屋根の葺き板にすることで、余すことなく利用されていました。

写真ACより『スンバ』参考画像


出雲地域 築地松

出雲地域(主に現在の島根県を指す)ではかつて、洪水時の浸水を防ぐため、敷地の高さを数メートル高くし、敷地に築地をつくり、それを固めるため、水に強い松や竹を植えたのが築地松の始まりといわれています。特に、冬の季節風から家を守る防風林としても役立っています。

写真AC『築地松』参考画像

文化財的な保護が盛んにおこなわれています。

近年、出雲地域の築地松は、松くい虫の被害を受けています。また、都市化や慣習の変化を主な原因として、築地松の景観が消えつつあります。
以下、築地松景観保全対策推進協議会の活動抜粋。

平成6年に、島根県と出雲市、平田市、斐川町、大社町の関係4市町(市町村合併により現在は出雲市)は、住民代表の方々を交えて、築地松散居景観を保全するため「築地松景観保全対策推進協議会」を発足し、フォトコンテストや築地松サイクリング、情報紙の発行、陰手刈り技術研修会などの普及啓発、保全対策、そして築地松に関する調査・研究を行っています。

築地松景観保全対策推進協議会

イランの換気塔

日干しレンガの家から伸びる高い塔から、新鮮な風を家の中へ取り込んで、建物内部で冷感をもたらします。「砂漠で生き残るため、限られた資源を賢く利用した生きた証拠」として世界遺産の登録がなされています。

イラン中部ヤズドの風の塔「バードギール」(2023年7月3日撮影)(c)ATTA KENARE AFP

イランの都市ヤズドに約700基ある風の塔のうち、もっとも古いものは14世紀のものとされています。また、その建築様式は、紀元前にまでさかのぼります。ペルシャ帝国が中東の大部分を支配していた約2500年前、ササン朝ペルシア時代に隆盛をみたゾロアスター教(古代ペルシア発祥の歴史上最古級の宗教とされる)の発祥地としても知られ、歴史的価値の非常に高い地域です。


パキスタンのバッドギア

『Architecture without Architects』(Bernard Rudofsky著、1964年)バッドギア

風を受ける『バッドギア』と呼ばれる窓から、空気を室内に通して、涼感ある住まいを作っています。広義では風窓と呼ばれる一定方向から吹く風を室内へ入れるための空調設備とされています。


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