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リモートワークで、優秀な人材を世界から調達する

新型コロナウイルスの感染拡大が止まりませんね。これを機に、暫定的な措置としての自宅勤務やリモートワークを導入している日本企業も多いようです。感染症と社会的プレッシャーのおかげでやっと重い腰を上げた感があります。外圧がないと変われないのは日本の悪い癖ですね。

リモートワークは、以前から盛んに議論されています。一部の先進企業では率先して取り入れているようですが、まだまだ実験的な試みといったところでしょうか。週2~3日の限定的なリモートワークが、多いようですね。

僕の会社は社員6名の零細スタートアップですが、戦略的にリモートワーク環境を整備しました。僕の家はオフィスから車で片道約1時間の距離にありますが、リモートワークとホームオフィスの環境を整備したので通勤時間は5秒(ベッドから机まで)です。毎日2時間近い通勤時間を、仕事や家族のために使えるのは非常にありがたい。年間にすると約400時間の差になります。年間の勤務時間を約2000時間とすると、実に20%の非生産的な時間を削減できる計算になります。仕事と人生のアウトプットに与える影響は、はかり知れません。

リモートワークの導入は、通勤時間の削減によって仕事の効率化や従業員満足の向上がメリットとして挙げられることが多いのですが、世界的な人材獲得競争への布石であることは見落とされがちです。僕は社会人になってからの約15年間を、リモートワーク先進国のアメリカで過ごしました。今回は、米国企業のリモートワーク導入の歴史を振り返りつつ、僕の見てきた米国企業の人材獲得戦略についてお話します。

米国企業のリモートワーク文化

米国のリモートワークは、ちょうど僕が社会人になった15年前頃に話題になり始めたところでした。リモートワークの始まりはネット環境の発達と切っても切れない関係にありますが、僕はもう一つフリーエージェントという働き方革命も関係していると思います。

ダニエル ピンクが著書「フリーエージェント社会の到来」で、会社に雇われないで働くフリーエージェント社会の到来を予言したのは2002年、今から18年前のことです。スキルを持つ個人が企業に契約ベースで労働力を提供し、インターネットで自宅から働くスタイルが一般的になりました。現在、アメリカの労働者人口の約1/4がこのような働き方をしています。

リモートで働くフリーエージェント人口の割合が増えるにつれて、企業で働く従業員たちの間でも、リモートワークを希望する声が多くなりました。アメリカでは転職が一般的で、労働市場が非常に流動的です。労働者のニーズに敏感な企業から、リモートワークを導入していきました。アメリカでワークライフバランスやデジタルノマドなんて言葉が流行したのも、ちょうど同じ時期です。僕の感覚では、10年位前にはわり一般的な考え方になっていました。

10年前は、ちょうどモバイル通信環境が3Gの時代から、4Gの時代に移りかけていた頃です。それまでビジネス用携帯端末として主流だったBlackberryが、iPhoneなどのスマートフォンにとってかわられました。マイクロソフトが、クラウドサービスのはしりであるオフィス365をリリースしたのも2011年です。Citrixなどのリモートデスクトップサービスが一般的に使われるようになり、スカイプなどのIP電話サービスも普及しました。10年前には、リモートワークを可能にするほぼすべてのテクノロジーが出そろっていたと言えます。

労働者の資質が課題

10年前からリモートワークを積極的に導入してきた米国企業も、全面的に労働者をリモートワーカーにして、オフィスを完全に撤廃したわけではありません。物理的にオフィスやその地域にいないとできない業務が存在することもありますが、それよりもリモートワークが会社の生産性に貢献しない場合があるというのが問題です。労働者のモチベーションやスキルが、一定のレベルに達していないような場合です。

リモートワーカーはオフィスから解放されると同時に、管理者の目からも解放されます。労働者本人に、自主的にタスクをこなす自主性とスキル、そしてモラルがなければ、リモートワークが効果をあげることはありません。どの企業でもリモートワークを導入すればいいということではありません。経営者は、自社の人材がリモートワークに適した資質を持っているか、慎重に見極める必要があるのです。

逆に、管理する側にも高いコミュニケーション能力が求められます。離れたところにいる従業員と信頼関係を築き、仕事の進捗状態を把握するには、今までとは違ったスキルが必要になります。

リモートワークには、環境の整備などの技術的な問題とは別に、対象となる従業員や管理職の資質やモラルなど、人事的側面で解決するべき課題が多いのです。

世界の労働市場から優秀な人材を獲得する

日本では、優秀な労働人口が東京、大阪、名古屋といった一部の大都市に集中する傾向があります。一方でアメリカの労働人口は、アメリカ全土に分散しています。企業は、優秀な人材を確保するために、アメリカ全土で求人をすることになります。もともとアメリカの労働者は転職のために引っ越すということにあまり抵抗がありませんが、優秀な労働者は自分の地域に住みながらリモートワークを提供している企業を選びます。

逆に企業の側から見ても、リモートワーク環境の整備は拠点の選択の自由度を上げました。米国には50州ありますが、税制や法律が州ごとに違います。労働者寄りで規制の厳しいカリフォルニア州の企業が、よりビジネス寄りで規制の緩やかなテキサス州に拠点を移すといったことも、最近のトレンドです。北米に進出したトヨタや日産といった企業も、カリフォルニアからテネシー州とテキサス州にそれぞれ北米本社を移動しています。

生活費の安い地方都市に拠点を移すことで、人件費の削減になります。米国の労働者市場は非常に流動性が高いので、企業が魅力的であれば地方都市でも優秀な人材が全米から集まります。リモートワーク環境の整備は、分散化された各拠点同士のデータの共有や、リモートワークを志向する優秀な人材の確保にも効果を発揮するのです。

本当に優秀な人材であれば、企業はその人が世界のどこに住んでいても採用します。企業が求めているのはその人のスキルであって、その人がどこに住んでいるかは問題ではありません。リモートワーク環境を整備したその先には、世界的な人材獲得という機会があります。

リモートワークの事例

ここでちょっと、リモートワークの事例として僕の会社の話をしたいと思います。弊社は、ちょっと特殊な保険関連のBtoBサービスを、日米の企業に提供しています。ハワイ州の認可ビジネスなので、本社所在地はハワイ州保険局があるホノルル市です。

このビジネスに必要なスキルは、保険、会計、税務、法令、英語、日本語などです。非常に専門的なスキルであるうえに、日英バイリンガルであることが求められます。一方で、本社のあるオアフ島の人口は約100万人です。仙台市と同じくらいの規模の島で、上にあげたスキルをすべて持っている人材を確保することは非常に困難です。州外の労働者を採用して連れてくることも困難です。ハワイの物価は非常に高く、同じ賃金レベルでも労働者の生活の質が下がってしまいます。意外かもしれませんが、労働者にとって、ハワイはあまり魅力的な市場ではないのです。

そこで会社立ち上げの際に、会社のシステムをはじめからクラウドで構築し、リモートワーカーを募集しました。現在、米国ペンシルバニア州と東京から、3名の優秀な人材を採用しています。オフィスのあるオアフ島には現地社員3名がいますが、来客がある時以外は基本的に自宅勤務としています。

仕事に必要なデータは、すべて電子化されてクラウドに保管されています。オフィスでも、自宅でも、出張中でも、同じように仕事ができる環境が整っています。従業員同士のコミュニケーションは、Eメールの他にメッセンジャーやビデオチャット機能などを使っています。最初は戸惑いますが、慣れると特にストレスなく仕事ができます。

リモートの人材を採用するにあたって、候補者の資質には細心の注意を払いました。能力的な問題とは別に、モチベーションやモラルの高さなども、総合的に検討しました。現在の人材を採用して2年目ですが、特に問題などはなく、効率の良い運営ができています。

日本企業が直面する人材確保という課題

今後人口が激減することが予想されている日本において、優秀な人材の確保は企業にとっての死活問題です。リモートワークなどによって従業員満足を高めるような施策は、より重要度を増していくでしょう。社内の安協を整備してリモートワークの文化を根付かせることは、その後の世界的な人材確保とコラボレーションの布石にもなります。

今回のコロナウイルス流行をきっかけにリモートワークが一般的になれば、変化に疎い日本企業も一歩前に前進できるのではないかと期待しています。今後日本企業が世界で競争力を回復していくためには、世界的な人材獲得戦略を持つ必要があります。リモートワークの導入は、一歩になるかもしれません。


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