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手に入らなかったものの記憶

幼い頃に欲しかったオモチャの中で、
1つだけ手に入らなかったものがあった。

「サーティーワンアイスクリーマー」だ。

どういう仕組みなのかもよくわからないけど、
家でおいしいアイスがつくれるなんて、
すばらしい発明だと思っていた。

一方の母は、なんとかして購入を阻止したかった。
(掃除が大変・高額・コスパ・・と、
 今なら気持ちは痛いほどわかる。)

全力で私の気を逸す作戦に出た母は、
ミニーのドレッサーのオモチャと
プーさんの知育オモチャの2点セットで
交渉を持ちかけ、幼き私は母の策に落ちることとなった。


成仏できない気持ちのゆくえ

このアイスクリーマー騒動は、
恐らく私が小学校に入るよりも前の記憶だ。

『でも、アイスクリーマーやっぱり欲しかったな』

2点セットという、数の部分で
ちょっと目が眩んでしまったけど。

それに一度終わった出来事に対して、
そう思ってしまうのは、なんだかずるい気もした。

だから、両親にもう一度伝えることはしなかった。

アイスクリーマーの話題が
友だちから出てくるわけでも、
家族から発せられるわけでもないのに。


手に入らなかった記憶は残る

私が生まれたバブル終盤の頃、
我が家は今よりも家計に余裕があった。

飽き性でワガママに育ちつつあった私は、
習い事やオモチャ、ゲーム、
子どもが欲しがる大抵のものを欲しがった。

そして、大体のものは与えられた。
幼い頃、私は基本的に満たされていたし
充分に満足していたと思う。

それでも。

与えられたものの記憶は曖昧なのに
与えられなかった、
たったひとつの記憶だけ、やけに鮮明だ。


人生ではじめての後悔の味

あまりにもずっと残っている記憶だから、
幾度となく、その理由を考えた。

たぶん、後悔しているのだと思う。

あのとき、やっぱりアレが欲しいと言えばよかった。
機会を改めて、もう一度欲しいと言ってみれば良かった。

そんなに思っているなら、なんであのとき。

今の私はそう思う。
でも、幼い私はそう思わなかったんだと思う。

いつか過ぎていく時間の中で、
この気持ちも忘れ去っていくはずだ。
きっとアレ以上のオモチャがみつかる。

そんな風に信じて、心の奥にしまった気持ちは
なんと20数年間も心に在り続ける。


瞬間の違和感を見逃さない

まさか、この気持ちをここまで引きずるなんて
誰も予測できなかったと思う。

でも、こんな些細なことでも、
人は記憶をよく覚えていて、
後悔までしてくれちゃうから厄介だ。

あのとき、心に覚えた違和感は、
やっぱり大切にしたほうが良かったのだ。
口に出して、伝えた方が良かったのだ。

ちなみにこの記憶は、
もう二度と成仏できない。

だってもう、アイスクリーマーは
お店で売っていないし、
今更欲しいとも思っていないから。

にも関わらず、記憶だけはしっかり残っている。


やり直せるうちにやっとけ

後悔の記憶は、ずっっっと残り続ける。

できることは、やり直せることは、
今、できるうちにやっておいた方が良い。

人生や、恋人や、友人や、家族のこと。

そうでないと、成仏できない気持ちを
どんどんと背負っていくことになる。

だから。

洋服屋でみかけた、
ちょっと高価なセットアップも一期一会。
一目惚れは、売り切れる前に買った方が良い。

そうやって、自分を甘やかす口実に使っていこう。


ご清聴ありがとうございました。


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