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「ふわふわ、ではありません、フワワフワーフです」(第2話 ワーフ、学校へ行く)

、のつぎに、、が二つで、、で、ワーフフワワフワーフです」

空を飛べるふしぎな生き物 「フワワフワーフ」(ワーフ)
顔や胴体をひっこめられたり、手のひらサイズになったり…
ちょっとヘンな生き物ですが、いつも一所懸命であわてんぼうのワーフが巻き起こす、たのしい物語です。 

あらすじと、第1章「図工室のおばけ」はこちらです)



2 ワーフ、学校へ行く


「きのうのおやつのクッキーと、ゆうごはんのカレーライス!おいしかったなあ」

ワーフは朝起きるなり、つぶやきました。

昨日の夜、イトはワーフのために人形用のベッドを用意しましたが、どうも寝心地がよくないらしく、いろいろ試した結果、ゲームセンターのクレーンゲームでとった、安物のトートバックに落ち着きました。
薄手で、息も苦しくないようで、イトは壁のフックにそれをかけました。


イトはひとりっこで、パパとママとの三人暮らしです。
昨日はパパもたまたま早く帰って来たので、三人で夕御飯を食べました。
パパはワーフをみて最初はかなり驚いていましたが、ワーフがとても礼儀正しいので、すっかり気に入ったようでした。

カレーライスはワーフの大好物になりましたが、予想通りの結果になりました。短い腕で長いスプーンをあつかうのは難しいらしく、あちこちに飛ばし、美しい毛皮もところどころ、黄色く染まってしまいました。

「あららら、こんなになっちゃって。イト、洗ってあげて!」

ママが言いました。

「あ、ボクだいじょうぶです!じぶんでできます」

そういうとワーフは突然フワリと浮かび上がり、それと同時に顔のパーツと手足と胴体が、毛皮の中にすっと消えました。
そしてすぐに、丸い毛皮の上のほうが、少しふくらむのが見えました。ふくらみは、しばらくモコモコと動いていましたが、やがて、

シュ…シュポン!!


と音がしたかと思うと、そこから、何か小さな丸いものが飛び出して来ました。

「わあ!なんか出てきた!!」


ママが大きな声をあげました。

丸い生き物には、細く短い手足が生えていました。両手のひらに乗る位の大きさで、顔も、全体を覆う毛皮の色も、ワーフそっくりでした。
青いリボンを付けた、茶色の紙袋でできた小さなポシェットのようなものをかけていました。

生き物は、ワーフの丸い毛皮をよっこらしょ、と抱えると、それに埋もれながら、

「あの、コレ、どこであらえばいいですか?」

と言いました。

三人は驚いて目を丸くしていましたが、イトが、やっとのことで

「え…あの、えっと、あなたは、だれ?」

と聞きました。

「あ!そっか!わかりませんか?」

「えっ…?」

「ボクですよ。ワーフです!」

「えーーーーっっ??」


みんなびっくりして、声をあげました。

「ボク、けがわ、ぬげるんです。で、この、かみぶくろに、いれたりもできます」

ワーフはちょっと、得意げでした。

「…こんな小さい紙ぶくろに?」

パパが言いました。

「はい!いれてみせますね…あっでも、よごれちゃうから、あらってからにします!」

ワーフは毛皮をかかえて、ヨタヨタ、トコトコと歩いて行きました。そして、洗面台の下までくると、「せーの」といいながら、フワリと上まで飛び上がりました。

「あれ、ワーフ、飛べないの?」

イトが聞きました。

「ボク、けがわをきてないと、とべないんですけど、うまれたときからきてる、からだのいちぶ、みたいなものなんです。だから、かかえていれば、すこしは、とべます」

ワーフの毛皮は水や汚れを弾くらしく、洗面台で洗ってちょっとふるっただけで、すぐに元通り、乾いてフワフワになりました。

「ホラ、こうして…」

ワーフがモゾモゾと大きな毛皮をかきあつめ、端のほうを少しだけバッグに入れると、シュルシュルッ!と毛皮がひとりでに入っていき、紙ぶくろのバッグに、全てしまわれてしまいました。

「!!!」

「それから、こうすると…」

ワーフがバッグに手を突っ込むと、シュルシュルと中から毛皮が出てきて、あっという間に元の大きさになりました。

「で、こうしたら…」

小さなワーフはポシェットを下げると、毛皮の上に、ピョンと飛び込みました。するとそのまま、シュッ!と中に消えて、すぐに顔と手足、胴体がぴょこっ、と出て来ました。

「こんなかんじです!」

すっかり元通りになったワーフを見て、しばらくはみんな、びっくりして目を丸くしていました。

そして、ようやくママが言いました。

「ワーフ、すごいわね!あなた、本当にステキね!」

みんな、このふしぎな生き物、フワワフワーフに、すっかり心を奪われ、大好きになってしまいました。

「カレー、ちょっと食べにくかったわね。明日、イトが小さかったころのスプーンを探しといてあげるわね。それならきっと持ちやすいから」

と、ママが言いました。



「学校へ行くなら、ワーフの分のお弁当、作ってあげるわね。あ、それと、靴とか上ばきとか、いるんじゃない?」

次の日の朝、ママが言いました。

「そっか…どうしよう。ワーフがはけるくらいの小さい靴なんて、ないよね…」

イトが言いました。

「クツ…?クツって、なんですか?」

ワーフが聞きました。

「足の裏が傷ついたり、汚れたりしないように、足に履くものよ」

「ああ!たしかに、みんなはいてましたね!でもボク、だいじょうぶです!」

「どうして?小石とか踏んだりしたら、いたいわよ」

ママが言いました。

「ボクたぶん、ちょこっとだけ、ういてるんです、いつも。だから、だいじょうぶです!」

ワーフが、足の裏を見せながら言いました。確かに、ぜんぜん汚れていませんでした。

「まあ!便利!!いいわね、ワーフは!ママもワーフみたいになりたいわ」

ママが言いました。


ワーフは、昨日と同じ手提げ袋に、ぽんっと飛び込みました。イトはその上にハンドタオルをかけ、上からのぞいても見えないようにしました。

学校に着いてランドセルを片付けると、イトは真っ先に図工室に行ってみましたが、鍵が閉まっていて入れませんでした。
イトは小さな声で「ワーフ、ここはまた今度にしようね」と言ったのですが、ワーフはぐっすり眠っているようで、返事はありませんでした。

イトは、廊下のフックにかけた手提げが気になって、先生の話も上の空でした。
結局その日は四時間授業で早かったこともあり、ワーフを一度も起きないまま、帰ってきてしまいました。

「あ~よくねた。あれ、イト、ガッコウは?」

ワーフが手さげから、ひょいと浮かび上がったので、イトは読んでいたマンガから顔をあげました。

「もう、とっくに帰ってきたよ」

「えー!ボク、そんなにねてたの?」

「だって、ゆすっても起きないから…」

「ごめんなさい…」

「全然いいよー、また明日一緒に行こうね。あ、ママのお弁当、食べたら?」

「うん!ボク、おなかがすきました!」


次の日も、手提げに入るとワーフは眠ってしまいました。
イトは手さげを廊下のフックにかけ、タオルをそっとのせると、その日は朝礼があったので、校庭に向かいました。

そして戻ったときには、手さげは空っぽになっていたのです。



「あれ…?ワーフ?!」

イトは回りを見まわしましたが、ワーフの姿はどこにもなく、かけてあったハンドタオルが落ちているだけでした。
とりあえず教室も見てみましたが、姿は見えず、すぐに一時間目の算数が始まってしまったので、それ以上探すことはできませんでした。

中休みになり、イトは図工室にも行ってみましたが、やはり鍵がかかっていて入れませんでした。三、四時間目は探す時間がなく、結局、給食の時間になってしまいました。

「もしかしたら、ワーフのおうち、みつかったのかな…」

だから帰っちゃって、もう会えないのかもしれない。そう思いました。

(せっかく、仲良くなれたのに…さよならくらい、言いたかった…)

イトは食欲もなくなり、給食の中華スープには手を付けず、パンを少しかじったりして、落ち着きなくきょろきょろしていました。

そのときでした。

廊下につづく、開けっぱなしの小窓から、ふわふわとワーフが入ってくるのが見えました。天井に近い小窓からだったこともあり、みんなは気づきません。
小窓をくぐるときせまかったのか、ワーフは胴体と手足をひっこめて、顔だけのまん丸い形になっていました。
ワーフの目が、きょろきょろと動き、イトと目があいました。


「あっ!」


イトが思わず叫んだので、みんなが一斉にイトの方を見ました。まさにその瞬間、ワーフがイトの給食の上に、一直線に落っこちてきました。


バシャッ!ガシャガシャーン!!!


キャーッ!!


教室は大騒ぎになりました。


ワーフも負けずに「ワ~~ッ!!」と叫んで暴れるし、スープは飛び散るし、イトがやっとのことで救い上げると、イトもワーフもスープまみれになっていました。
ワーフはそのときには顔もひっこみ、ただの丸い毛皮になっていました。

「なんか落ちてきた~!!」

みんなが騒ぐなか、大仏だいぶつ先生が言いました。

「誰ですかっ?!ぬいぐるみを投げたのは?!」


大仏先生の怒った声に、クラスがしーん、と静まり返りました。

「学校に、ぬいぐるみはダメですよね?持ってきたのは誰ですか?」

イトが青くなりながら、どうやって説明したらいいのかと固まっていると、真っ白な(今はスープまみれですが)毛皮からクリッとした目の顔が現れ、胴体と手足もぴょこっ、と出てきました。

「ヌイグルミではありません。こんにちは、はじめまして。ボク、フワワフワーフです」

わーーっ!?しゃべったあ!!


歓声があがり、みんな口々に

「犬?」
「チワワ?」
「しゃべるおもちゃでしょ!ぼくこの前、オモチャやさんでみたよ!」

などど言い合って、再び大さわぎになりました。

「ボクはヌイグルミではありません。フワワフワーフです。ガッコウでゴミとまちがえられて、すてられそうに なっていたんですが、イトにたすけられて、いま、イトのオウチで、おせわになってます」

クラスが再び、静まりました。

「ボク、じぶんがどこからきたのか、しりたかったので、ガッコウのなかを、みてたんですけど、まよっちゃって…。イトがいたから、うれしくておりてきたら、まちがってスープにザブンって…ほんとに、すみません…」

ワーフは、丁寧にお辞儀をしました。

礼儀正しいワーフに、先生やみんなもびっくりしていました。少しの沈黙のあと、先生が言いました。

「まあ…小さいのにしっかりしてるのね。ふわふわ…さん」

、の つぎに、、が二つで、それから 、で、ワーフ
フワワフワーフです」

「あの、ワーフ、ってよんでます」

イトが付け足しました。

「夏野さん、ワーフさんは、しゃべるおもちゃじゃないの?」

「違うんです!ワーフの言ったことは、本当です。今、うちで一緒に住んでるんです」

すると先生は、イトに言いました。

「夏野さん、実はあなたのお母さまから、ワーフさんのことをうかがっていたんです。でも、ごめんなさい、あまりにもとっぴょうしもないことで…。てっきり、小さな男の子を連れてくる、ということかと思って…」

それから、ワーフをじっと見つめながら、

「じゃあ、ワーフさん。私が校長先生や、他の先生たちにももう一度、きちんと伝えておきますね。学校の中を探しても良いように、お願いしてみます」

と言いました。

「ありがとうございます!」

ワーフは喜んで、空中で一回転しました。

わーっ!と、みんながワーフのもとに集まってきました。

「かわいーっ」

「ふわふわ!」

「気持ちいーい!」

「空、飛べるの?」

もみくちゃにされて、ワーフが見えなくなるほどだったので、イトが慌てて止めに入りました。

「ワーフがつぶれちゃう!」

「ちょっと!!!みんな座りなさい!!」

大仏先生の雷が落ちて、小さな先生が、二倍くらいに膨れ上がってみえました。

「みんなで勝手にベタベタさわったりして、ワーフさんに失礼でしょ!夏野さん、とりあえずワーフさんを洗ってあげられる?」

「あっボク、じぶんでできます!」

ワーフが毛皮から出ようとしたので、イトは慌てて、ワーフを抱き上げました。中身のワーフを見たら、みんなまた大騒ぎになると思ったからです。

「私も汚れたんで、体操着に着替えてきます!」

イトはワーフを連れて、急いで教室を出ました。


その日からワーフは、学校中の有名人になりました。


***


それから数週間がたちました。

ワーフは今日もイトの手さげに入って、一緒に登校しています。

袋に入ると必ず眠くなるみたいで、毎日入ったとたん寝てしまい、お昼過ぎまで起こしても起きないこともありました。

今では給食もみんなと一緒に食べるので、起きられなかったときは本気で悔しがっていました。大好きな、きな粉パンやフルーツポンチのときだったら、なおさらでした。
みんながワーフと同じ机で食べたがるので、ワーフが日替わりで、全部の班を回ったりしていました。

ワーフは、ふわふわでかわいい、その見た目だけではなく、礼儀正しく親切でいつも一生懸命だったので、みんなに好かれていました。

そのうちワーフも、出席をとられるようになりました。イトのクラスは、日直さんが名前を読み上げるので、

「ふわふわさーん」
「ふうふうワーフさーん」

とか、いろいろ言われましたが、そのたびに、

「いえ、、の つぎに、、が二つで、それから 、で、ワーフ
ワワフフワーフです」

などと言い直していました。
その返事がかわいいので、わざと間違える生徒もいましたが、誰もワーフをいじめるものはなく、みんなワーフが大好きでした。
先生に頼んで図工室の準備室にも入れてもらったのですが、ワーフがどこからやって来たのか、手がかりになるものは見当たりませんでした。

イトの学校は、五月の末に運動会が開催されます。この頃は毎日のように練習が続いていました。
その日、体操着を着て校庭に出たとき、イトはワーフがいないことに気がつきました。体育はワーフの好きな授業なので、いつもだったら必ず校庭に出て、一緒になってとんだり走ったりしているはずでした。

「今日は、ワーフはいないの?」

と、イトは他のクラスの何人もの人に聞かれましたが、最近は学校の中で自由にしているので、今回もそうだろうな、と気にしていませんでした。

先生は、ポンポンの入った大きなビニール袋を運んで来て言いました。

「今日はダンスの練習をしまーす。じゃあ、みんな、ポンポンをとりに来て下さーい!」

クラスで色分けされたポンポンは、みんなで振るととてもきれいでした。四年生は四組までなので、赤、白、黄色、緑のポンポンがあり、イトの一組は赤でした。

整列に時間がかかり、ダンスが始まったのは二十分くらいあとでした。みんな、暑くてうんざりしていましたが、和太鼓と三味線が鳴り響く、かっこいい曲が流れ始めると、元気に踊り始めました。

「はい、よこーっ!まえーっ!!まっすぐ腕をのばしてーっ!」

先生がマイクで指示を出します。

「はい!移動して下さーい!」

まっすぐな列がクラスごとの円になり、さらにまた移動して、今度は学年で一つの、大きな円になりました。
五年生にもなると振り付けも高度になり、苦戦している生徒もたくさんいました。

「はい、ポンポンを投げまーす!しっかり受け取ってね!いち、にー、さん、はい!」

全クラスが一斉に、ポンポンを上に放り投げました。
イトも投げましたが、ななめにいってしまい、うまく受け取れませんでした。あわてて拾いにいったときです。

「あれ見てっ!!」


誰かが叫ぶのが聞こえました。

みんな、空を見上げました。
すると、イトの隣のクラスの男の子が投げた白色のポンポンが、一つだけ一直線に空へ飛んでいくところが見えました。
ポンポンはどんどん空へ上ってゆき、先生も生徒も、みんなあっけにとられて眺めています。

白い丸はどんどん小さくなってゆき、そろそろかすんで見えなくなりそうなところで一度、止まったように見えました。
そしてまた、どんどん大きくなってきました。


「落ちてくる…!!」


だいぶ近くなってきたところで、ポンポンが少し上にずれたように見えました。
そのとき突然、ポンポンがはがれおち、中から白く光るものが現れました。


「あれは…」

「あっ!!!」

「…ワーフだ!!」


「どいてどいてどいてどいてっ!!!!!」


ワーフが叫びながら落ちてきたので、みんなは慌てて場所を開けました。
円の真ん中に向かって、ワーフはどんどん落ちていきます。

「ワーフ!!あぶない!!」


みんなは口々に叫びましたが、ワーフの勢いは止まりません。

 

「ぶつかるーーーーーっ!!」



みんなが叫んだとき、ワーフは地面すれすれで急ブレーキをかけたように止まり、そのままフワリと着地しました。


「ワーフだ!」

「なんで?!」

「大丈夫?!」

「すげぇーっ!」


みんなが駆け寄ると、ワーフはふらふらしながら立ち上がりました。イトは真っ先にかけよって、毛皮についた砂をはらってあげました。

「ボク…ポンポン…フワフワしてて…きもちよくて…ふくろで…あそんでたら…ねちゃって…。あれ?ここ、どこ?そと?」

ドッ、とみんなが笑いました。

「もー、ポンポンなんかで遊ぶからー」
「ワーフおもしれー!」
「ケガしなくてよかったねー」
「またゴミと間違えられちゃうよー」

みんなが口々に言いました。ポンポンを投げた男の子は、同じ白だし、重さはまったく感じなかったから、まさかワーフが入ってたなんて、と驚いていました。

「もう、ワーフったら…」

イトは少し恥ずかしかったのですが、みんなや先生まで笑っていたので、いつしか一緒に笑っていました。


(第3話「ワーフ、ショッピングモールへ行く」につづく)


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