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こどもの読みもの

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こどもにおすすめの本。 かつて、こどもだった大人におすすめの本。
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#芥川龍之介

杜子春

杜子春

「杜子春」
芥川龍之介 1920

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「或春の日暮です。 唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。 若者は名は杜子春といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を費ひ尽して、その日の暮しにも困る位、憐な身分になつてゐるのです。」
・・・・・

鈴木三重吉の主催する児童文芸雑誌「赤い鳥」1920に発表された童話。「夜来の花」1921に収録される。中国古典「杜

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河童

河童

「河童」

芥川龍之介 1927

・・・
三年前の夏のことです。僕は人並みにリュック・サックを背負い、あの上高地の温泉宿から穂高山へ登ろうとしました。穂高山へ登るのには御承知のとおり梓川をさかのぼるほかはありません。僕は前に穂高山はもちろん、槍ヶ岳にも登っていましたから、朝霧の下りた梓川の谷を案内者もつれずに登ってゆきました。朝霧の下りた梓川の谷を──しかしその霧はいつまでたっても晴れる景色は見

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点鬼簿

点鬼簿

点鬼簿
芥川龍之介1926

「僕の母は狂人だった。僕は一度も僕の母に母らしい親しみを感じたことはない。僕の母は髪を櫛巻きにし、いつも芝の実家にたった一人坐りながら、長煙管ですぱすぱ煙草を吸っている。」

芥川龍之介は明治半ばに東京で生まれました。ほどなく母親が病み、親族の芥川家の養子になります。ですが、実の父親とはよく会っていました。新宿の牧場に連れて行かれ、アイスクリームをもらったと随筆「点鬼

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羅生門

羅生門

芥川龍之介 1915

「ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。・・・・・」

【羅生門】は日本の古典『今昔物語集』の本朝世俗部巻二十九「羅城門登上層見死人盗人語第十八」を基に、巻三十一「太刀帯陣売魚姫語第三十一」の内容を一部に交える形で書かれたものです。芥川龍之介の王朝物といわれる作品の第一作目になります。
1915年(大正4年)11月に雑誌『帝国文学』へ発表され

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羅生門

羅生門

芥川龍之介 1915

天災や飢饉が続く京の都。朱雀大路にある羅生門も荒れ果てて、引き取り手のない死体が打ち捨てられる有様。

・・・・雨の降るある日の夕暮れのこと。一人の男が石段に座り途方に暮れていた・・・・。このままでは飢え死にして、いずれこれらの死体と同じ運命・・・・。

「羅生門」は芥川龍之介が日本の古典「今昔物語集」から題材をとった、王朝物といわれる作品の第一作目です。
この作品の登場人

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ケルトの薄明

ケルトの薄明

「三人のオービュルンと悪しき精霊ら」
W・B・イエイツ
(芥川龍之介訳)

〈友人から聞いた話〉
一人の憔悴した男が砦の地を掘っている。傍にいた農夫に向かって自分の友人は、あの男は誰だと訊ねた。
「あれは三代目のオービュルンです。」
こういう話を聞いた。
宝が悪い精霊に守られてこの地に埋めてある。その宝はオービュルンの一家に見いだされ、その物になるはずである。が、そうなるまでには三人のオービュルン

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