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1.ようこそ、『たまひらハイツ』へ!

4月26日
気が付いたら、わたしは千葉県木更津市を訪れていた。
こんな時、玉平さんだったら、一体なんて言ってくれるんだろ…
わたしは、そんなことを考えて歩いていた。
誰も見てなくても、これからnoteでシナリオを書き続ける…。
そんなハートの強いことが自分なんかにできるだろうか?
歩いていて立ち寄ったパンケーキのお店。どうしたものか、味はいまひとつだった。
店を出ると向かいには、そば処『つきなみ』があった。風で『つきなみ』と書かれたのれんが煽られている。それを見つめていたら、店の引き戸が開き、中から常連客の玉平さんが顔を出した。

玉平さん…!!
わたしは、この風景を何故か知っている。
玉平さんは、わたしを見て、眼鏡をグイッとあげると、
「どうも、玉平です」
そうやっていつもみたいに、にっこりと微笑みかけてくれた。

玉平さん!
あら?あなたは?
わたし、『佐藤そら』って言います。
なんだか、知ってる気がするわね?

わたしは、玉平さんと『たまひらハイツ』までやって来た。
共同玄関には『たまひらハイツ』の文字。
それはまるで、わたしがずっと描いていたアパートだった。

わたし、この『たまひらハイツ』を、映像化させるのが夢なんです。わたしの手元には『たまひらハイツ』の物語が沢山あります。世の中の人が知らない。わたしだけの世界に。いろんなシナリオを書いてきたけど、この『たまひらハイツ』で起きた出来事が、ここの住人達が、誰よりも住人想いの玉平さんのことが、心から君去らずなんです。
本当に、玉平さんがこの世界にいたらいいのに…

あら、わたしはここにいるわよ?
あなたが描いてくれる限りね。
あなたは、『たまひらハイツ』『玉平貞夫』を、書いた人でしょ?

何もかもが結局まだ夢のまま。東京に上京して、いろんなことを間違えて、後悔して、今があるんです。今はまだ、これでよかったなんて、とても言えない。玉平さんなら、今のわたしになんて言ってくれるのかなって…。だから、物語の世界まで玉平さんに逢いに来ました。

あらヤダ!

ここは通称たまり場ハイツ。いつだって誰かが走り回ってるような、勝手に人の部屋入って来るような、賑やかで、うるさくてそんな場所。

あら?よく知ってるのね。
そんなあなたなら、このモミジの葉のしおりの意味を知ってるでしょ?
この“おまじない”ねぇ、難易度が高いって言われてるけど、結構叶うらしいのよ。

知ってますよ、そんなこと。だってこれは、わたしが書いてるんですから…。そう言いそうになった言葉を、わたしはそっと仕舞い込んだ。
玉平さんは、しおりを取り出すと、わたしの手にねじ込んだ。

ここ、『たまひらハイツ』の住人達は、皆わたし自身だった。
そして、今日はあの子の誕生日。まだ、住人達は知らないか…
それはこの物語のもう少し先の未来の話だっけ。
だからわたしは、今日ここに迷い込んでしまったのだろうか?
玉平さん、今度部屋が空いたら、わたしも『たまひらハイツ』に住んでいいですか?
悪い大家より、良い大家がいいので。

書いてみるか…
住人達のあの時の心情を…


どうも、玉平です。
今日からここの大家です。
人生も、前にしか進めないのよ。

玉平さんはあの日、アパートの大家になった。


千葉県木更津市。
共同玄関には『たまひらハイツ』の文字。
ここは通称、たまり場ハイツ。
54歳の玉平貞夫(たまひら さだお)が、このアパートの大家である。
大切なあの人から受け継いだそのアパートで、玉平はずっと大家をしていた。
これは、そんな大家玉平と、騒がしい住人達の物語である。

ようこそ、『たまひらハイツ』へ!


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