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あの日


だんだん街が小さくなる。
どんどん遠ざかってく。
さっき走ってきた道が、細い線になって
次第に見えなくなった。


海、
雲、
それすら越えて、
辺り一面ただ、白。


__帰国。

こののち、何十回も繰り返すことになる悲しい帰路のフライト。

私はいつも、ヨルシカの”靴の花火”という曲を聴きながら帰る。

こんな歌詞がある。

"夕暮れた色 空を飛んで
このまま大気さえ飛び出して
真下、次第に小さくなってくのは
君の居た街だ

心ごと残していこう、だなんて憶う
そんな夏が消えた”

いつも胸が締め付けられる景色だった。
2人でいた道が、街が、遠ざかって
あの人がいる国が、見えなくなる。
何回声を殺して泣いたか分かんない。
一緒にいられるだけでよかった。
でも
離れる日は必ず来た。



8月。
東京は暑い。
韓国とはまた違う、湿気の増した暑さ。

つい先日の事なのに、もやに包まれたような
おぼろげな記憶が反芻する。

韓国はミセモンジ(PM2.5)が中国から流れ込むから、
街全体がいつも靄がかかっている。
時々すごくクリアに晴れるけど、
記憶の中の韓国はいつも薄雲がかかったように、
どこか朧げ。

頬を触ったことも、
抱きしめ合ったことも、
全部が薄靄の中にある。


オッパからは、帰国後毎日、連絡が来た。

今日何してたの?
ごはん食べた?
そんな日常会話と、
あの日の話を繰り返した。

あの日、足引きずってるのに会いに来るなんて!笑
あの日、まさか戻ってくるなんて!笑

そんなふうにからかいながら、
"あの日"が嘘じゃなかったよねって
薄靄の中から何度も引っ張り出しては確認した。

会いたいな、って
どちらからともなく言い合っていた。

会いに行くよ、って
オッパが言い出した。

私も、
私のこと本気なら会いに来て
って言った。
ほんとに来てほしい。
ほんとに来るのかな。
そんな気持ちで。



夏の終わりは物悲しくて好き。
蜩が鳴くと、夏が終わる。

でも今年だけは、夏が終わるのがとても悲しかった。
"あの日"が続いてほしくて。
このまま終わらないでほしくて。
夏祭りとか花火とか、
入道雲とか打ち水とか
夏だって思えるものがどんどんなくなっていって
ああ終わる、って思うのがとても悲しかった。



残暑の厳しい9月の中盤。


ーあの日からおよそ3週間。



オッパが日本に来た。






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