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走馬灯

私は真下に向かって倒れ込むようにゆっくり飛び込んだ。どうせ落ちてしまうんだから、前に歩くような飛び降り方では無く、ゆっくり倒れるように落ちようと思った。そして1本目のドミノのように、慎重に、慎重に、確実に倒れる私の体は今、この縁の地面を離れた。その身体が闇に落ちていく。何かを思い立った訳ではない。運命のようなものなのだ。私がここにもういられない。生まれ変わり、1つの区切り、或いは別の星へ移り住むため、今此処から飛び降りたのだ。一思いにいけるところが良かった。失敗しないように、尚且つ安全に誰も居ないようなところに着地しなければ。そう考えているうちにも、私の体はどんどん加速する。その落下を止める事もなく、空気が私を抗う。うつ伏せで落ちちゃったから息が吸えない。少し前屈みになって体制を変え、空気の隙間で息継ぎをする。次の地上に近づいている。大地を蹴り出して向かうのは同じ大地なのに、やっと地上に着いた私の体は、飛び降りる前の私と形を変える。大きなジャンプとなんら本質は変わらないのに、結果がまるで違う。そんな事を考えながら、また私の体は加速していく。
これほど重力を感じれる瞬間はあるだろうか。全身の落下は非日常どころでは無く、生涯に一回だろう。生涯に一回、それもクライマックスのみ。さっき前屈ぎみになった体がもうすぐ半回転して全身が空を向く。あの時見下げた暗い闇は、下から見ても暗いんだろうか。視界の下からゆっくり空が見えてきた。
ぼんやりとした青だった。青いんだ。鈍い青が空を重くしていr……
……


次のニュースです。『惑星調査を終えた小型探査機、トンビが無事地球に帰って来ました。』

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