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帽子と手袋をつけたままお茶を飲む謎

最近の淑女のトレンドの一つに「ヌン活(アフタヌーンティー)」がある。
茶葉が高価な輸入品だった時代も、喫茶はステータスとして「お茶を飲むシーン」が多く描かれた。

名画のティータイム 拡大でみる60の紅茶文化事典』(Cha Tea 紅茶教室著)では、「紅茶占い」や「ティードレス」といったお茶にまつわるモチーフから西洋の喫茶文化史を覗いている。

女主人の必須アイテム、シュガートング

19世紀イギリスの「ヌン活」の絵である。
女性が持った「シュガートング」に注目してほしい。

ジョージ・ダンロップ・レスリー《アフタヌーンティー》1865年、個人蔵

使用人の持つトレイには、マフィンデッシュと呼ばれたドーム型の蓋付きの器がのっている。中には熱々のマフィン、またはクランペット(英国発祥のパンケーキ)が入っているのだろう。
待ち受ける女主人は、ティーカップに注いだ紅茶に砂糖を入れようとしている。銀色のシュガーボウルの中には角砂糖が盛られている。塊で販売されている砂糖を、彼女が砕いたのだろうか。砂糖をつまむ「シュガートング」は、長らく女主人の象徴的なアイテムとされ、ゲストは勝手に触れてはいけないものだった。アンティーク市場に残されている多くのシュガートングには、所有者のイニシャルが刻まれている。

本文より

当時、砂糖は高級品であり、誰もが気軽に味わえるものではなかった。
「シュガートング」をはじめとする茶道具も貴重なものだった。

19世紀には「角砂糖」が発明される。

サトウキビから作られる砂糖の塊は、長く富の象徴だった。しかし19世紀になるとヨーロッパでは、甜菜糖の出現により砂糖の価格が下がっていった。そうなると、今まで誇らしかった塊の砂糖を家庭で砕く作業が、今度は家事の悩みの種となる。
その悩みを解決し、砂糖の消費拡大に貢献をしたのが、砂糖王へンリー・テートが提案し た「角砂糖」だ。(中略)
角砂糖を英国国民の生活に根づかせたテートの名は、砂糖王として今でも語り継がれている。この絵は個人蔵だが、作者のジョージ・ダンロップ・レスリーの作品の多くが、テート・ギャラリーに所有されているのも、この時代ならではのことだ。

本文より

砂糖で財を成したテートは、様々な美術品を集め、公開した。

さて、冒頭の絵画の二人はなぜ、室内にもかかわらず、帽子と手袋というスタイルでお茶を飲んでいるのだろう?

答えは本書を読んでいただきたい。ティータイムのエチケットも解説されている。全体図+拡大図で、茶道具のディテールまで楽しめる内容である。

ページ紹介

「ブルー&ホワイト」の項目より


名画のティータイム 拡大でみる60の紅茶文化事典』<目次>
はじめに 
アトホーム/アフターディナーティー/アフタヌーンティー 
温室(コンサバトリー)/女主人/会話/家政本/カントリーハウス
喫茶店/銀器/クローゼット/紅茶占い/コーヒーハウス 
子供用の茶道具/砂糖/ティーケトル/ティーサーヴィス 
ティーストレーナー/ティースプーン/ティーセット/ティーツリー
ティートレイ/ティードレス/ティーブレイク/ティーボウル
テーブルフラワー/ドローイングルーム
ナーサリーティー/庭/バター付きのパン 
万国博覧会/サモワール/サロン/サンドウィッチ 
磁器/持参金/シノワズリー/ジャポニスム/シュガートング 
使用人/スロップボウル/チャールズ・グレイ/茶道具 
ティーアーン/ティーエチケット/ティーガーデン 
ティークリッパー/東インド会社/ピクニックティー
ファミリーポートレート/ブルー&ホワイト/ブレックファスト
ベッドティー/訪問客/ポートレート/密輸茶/ミルクティー 
持ち方/緑茶/ロタンダ 
おわりに 
参考文献・図版出典 

刊行記念オンライントークイベントのお知らせ

●概要説明(講師より)
名画のなかに描かれる茶道具は、アンティーク品として現在まで継承されているものも多くあります。ティーカップの前身ティーボウル、日本の建水にヒントを得たスロップボウル、宝石のように美しいティースプーン。本書『名画のティータイム』を軸に西洋喫茶を代表する茶道具を解説していきます。ご自宅で美味しい紅茶を楽しめるような淹れ方のコツもお伝えします。

●概要
日時:2023年1月18日(水) 13:30~15:00
詳細はこちら

<本書の著者情報>
Cha Tea 紅茶教室(チャティーこうちゃきょうしつ)
二〇〇二年開校。東京西日暮里の代表講師の英国住宅を開放してレッスンを開催している。美術展示監修、ドラマや映画の台本監修をはじめ、ティールームオーナー、紅茶講師なども養成。
二〇二一年、西日暮里に紅茶・英国菓子の専門店をオープン。著書に『図説 英国紅茶の歴史』『図説 英国ティーカップの歴史』『図説 ヴィクトリア朝の暮らし』『図説 英国 美しい陶磁器の世界』(ともに河出書房新社)、監修に『紅茶のすべてがわかる事典』(ナツメ社)など。

文責:創元社プリンセス部 @sogensha_pri