安斉弘毅

小説家になる日までここで言葉を紡ぎます

安斉弘毅

小説家になる日までここで言葉を紡ぎます

最近の記事

「わたし。」

大人になってからの方が子供だね そもそも大人っていつから? 思い通りに行かなくて泣き喚いたり 素直になれずに強がったり 時々自分をやめたくもなるよ みんなあまりに冷たいから 深く帽子をかぶって俯き歩く 人の目ばっかり気にして いつになれば楽になるの 生きるために働き、 まるで働くために生きてるよう いっそ仮面を剥がして解き放たれよう 電車の車両を変えるみたいに 好きに生きたらいいんじゃない? 僕を見るあの人も大して何も考えてないよ 都会の雑踏に塗

    • 僕になりたい。

      誰になりたいでもなく、僕になりたい。

      有料
      1,000
      • 咲いたら1週間で散る桜。 桜を眺める人々は、まるで今をときめくスターを見るような好奇な目をしている。 満開の桜の木の下で、花見という名目でブルーシートを広げて酒を飲み交わす人々。 春の訪れを知らせる桜の花をこぞってカメラに撮る人々。 それから1週間経った頃、人々は散った桜を迷いなく踏みつけ、そして、前までの盛り上がりが嘘みたく桜に無関心になる。 人間の興味は、簡単に、一瞬で移ろいゆくものなのだ。 時の流れは、街の景色も、人の心も変えていく。 散った桜は、儚く美し

        • 「蕾」

          夜の海で寄せては返す波のように 進んでも振り出しに戻される人生ゲーム 愛と称賛の甘い水で育った美しい大輪の花が 我が物顔で咲き誇るとなりで 醜い顔を隠した一輪の小さな蕾 めぐり巡る季節の中で 罵声や嘲笑さえも栄養にしてきたのに 奇をてらい、醜く吠えることでしか 人の目を引けない弱虫さ 春風につられて笑うように揺れる花たちは いつか朽ちて散りゆく存在 積み重なった花の屍に根を生やし 薔薇の棘さえも養分と化し 荒野に一輪の花を咲かせましょう

          戯言

          幸せは、人の不幸を目にした時に浮かび上がる。 不幸な目に遭っている人を前にした時に、こちら側がその人より優れていて、恵まれた場所にいることを再認識できた時、初めて自分は幸せなんだと感じることができる。 ある意味では、人の不幸と比べてしか幸せを感じられない自分のような人間が、最も不幸でバチ当たりな人間なのではないか、と思った。 だが、普段と何も変わらない日常を送っていて、突然(自分は幸せ者だ。)なんて幸せを噛み締められる人の方が稀なのではないか。 例えば、寒い冬の外で、

          生まれてきた理由

          僕の生まれてきた意味はなんだろう。 朝、そんなことを考えながら街を歩いていた。 空を見上げれば、雲ひとつない雄大な青が広がっている。 南東の方角には眩いばかりの輝きを放つ太陽が、北の方角には遠くで飛行機が飛んでいる。 飛行機と重なるように、手前で2羽の小鳥が枯れた街路樹の枝の間で、戯れながら飛んでいた。 朝の暖かな日差しをかき消すほどの冷たい風に思わず背を丸めながら、舗装された硬い道を足早に進んだ。 この世界は一体何なのだろう。 この景色も、すれ違う人も、そして

          生まれてきた理由

          ちゃう、チャイや。

          なぜかわからないが、ラッシーとチャイが区別できない。 きっと頭の中で「外国の名前が変な飲み物」として保存されているのだろう。 今朝、寝ぼけながら行きつけのカフェに向かった。 着くや否や、慣れた足取りでカウンターへと向かい、 「アイスのラッシーで」 とはっきりとした声で口にした瞬間、世界から時が止まったかのように店員と僕の間で5秒間の沈黙が訪れた。 ああ、そうだ。 この店にはチャイしかない。 僕はこの半年間、幾度となくチャイを頼んできた。 それにインド料理屋じゃあるまいし、

          ちゃう、チャイや。

          「ガラスのハート」

          「この世には、簡単に傷つく人とちゃんと傷つく人がいて、君はちゃんと傷つく人。」 「どういうこと?」 「君はちゃんと傷ついて、深く深く傷ついて、その傷をいつまでも覚えてる人。」 「んー、言われてみれば、そうかもしれないな」 「君はなんか、繊細だよね。仮に気持ちとか心に色があるとして、君は全部純度が高いの。大人なんだけど、子供。」 「はは、なんか見透かされてる気分。」 「そうよ。私は君が一番傷つく言葉を知ってるもの。」 「なにそれ。言ってみろよ。」 「いいの?」

          「ガラスのハート」

          「ゴミ箱人間」

           誰しも自分が可愛いこの世界で、人を頼ることが罪な気がして、黒川誠はいつも一人になると涙を流していた。 過去に背負い込んできた致死量の悲しみが、日を追うにつれて積み重なり、ほんの些細な一言や、他人の行動一つで、涙となって溢れ出てくるのであった。 だが、誠は決して人前で泣くことはなかった。 彼が大好きだった祖父の葬儀でも、周りがわんわんと人目をはばからずに涙を流す中、必死に泣くまいと太ももにアザができるほど強くつねって涙を堪えたほどである。 別に、誠は人前で泣ける人間を

          「ゴミ箱人間」

          言葉の賞味期限

          言葉の賞味期限っていつだろう。 言葉は食べ物ではないから、言葉の寿命と表現した方が分かりやすいかもしれない。 「一生一緒にいようね」 そう口にし、言葉の契りを交わした男女が、これまで無数に別々の人生を辿っている。 言葉は、あてにならないのかもしれない。 口にした途端枯れ始め、唇の先で朽ちて散ってしまう。 どんな花よりも短命で、どんなか弱き命よりも儚い。 言葉は、とても無責任で、いい加減で、刹那的なもの。 僕も都合の良いことを口にしたり、思ってもないことを言って

          言葉の賞味期限

          「強い人」

          一人部屋で淋しさに暮れたり、 一人夜道で泣きじゃくったり、 体調を崩しても、一人ベッドで堪え忍んだり、 悩んでいても、誰に話すでもなく、 悩んでいても、誰を頼ることもなく、 辛い時に笑みを湛え、 憂鬱な予定も楽しみだったかのように振る舞い、 わがままもいえず、しっかり者を演じ、 自信がないのに誰よりも堂々と胸を張り、 愛情に飢えているのに、なけなしの愛を与え、 まるで弱い姿を見せるなと誰かに脅されているかのように、 いつも、いつも、強がって生きているあな

          「強い人」

          おじいちゃん

          19歳の夏、最も記憶に残った出来事がある。 祖父の死である。 高校時代、家にも学校にも居場所がなかった時期に唯一の受け皿だった祖父が大好きで大好きで、大好きで、親友かつ尊敬の対象であった。 祖父が死ぬ前と死んだ後では自分の中で世界が変わった。 祖父は、私が上京してから1ヶ月後、突然急激に痩せ始め、病気が発覚し、2ヶ月入院した後、私の20歳の誕生日の6日前にあたる7月3日に旅立った。 そのため、6月と7月は合わせて4回帰省した。 この時、東京にいる不甲斐なさをひしひ

          おじいちゃん

          愛の染み

          雨の新宿。 信号が青になり、横断歩道の上ですれ違った30代の男女が一つ傘の下で笑っていた。 グレーのTシャツを着た男性が傘を持ち、その右肩は雨で色濃く染まっていた。 そんなこともつゆ知らず、女性は傘の下で無垢な笑みを浮かべていた 傘からはみ出た右肩が雨に打たれていることにまるで気づいていないかのように、彼は笑顔で彼女を見つめていた。 愛が染みとなって形を表し、一瞬すれ違っただけにすぎない私の胸を打った。

          愛の染み

          深夜のコンビニ

          今夜、春から抱えていた心の荷を一つ下ろすことができた。 ひと仕事終えた後、渋谷でピアニストの仲間たちと食事の約束があり、束の間のひと時を経て、終電間際の電車で帰路についた。 帰りの電車で、早速次の課題に取り掛かり、駅から家に帰るまでも頭の中はフル回転で新しい事業のことを考えていた。 少し喉が渇いたな、と思い、さっき通り過ぎたコンビニへ足を引き返した。 時刻は真夜中0時を過ぎていた。 コンビニに入った時、「いらっしゃいませ」とレジの方から女性の声がしたが、目をやっても

          深夜のコンビニ

          愛想が、良すぎる。

          愛想の良い人は好きだが、愛想が良すぎる人は心配の方が勝る。 綿棒と漂白剤、あとは、一日頑張った自分へのご褒美に柚子の香りがするホットアイマスクの入った買い物カゴを引っ提げ、レジの順番待ちをしていた。 時計は、深夜0時を指していた。 僕が並んですぐに、前の女性がレジに通された。 レジ待ちほど退屈な時間はないため、ついつい女性の買い物かごの中身に目がいった。 ただ、目が悪い僕は、カメラのピントを合わせるように視点をその一点に集中させていると、彼女が慌てるように財布をごそ

          愛想が、良すぎる。

          「君は秋だ」

          「秋になると、いろんな感情が渦巻く。」 深夜2時、閉店後のショッピングセンターの駐車場に停めた真っ赤なJeepの運転席で、美穂はそう口にした。 同じく違法駐車している車が遠くに2台、点々と散らばって停まっているが、大抵、深夜の駐車場は不倫をしているカップルしかいない。 だが、美穂と僕は不倫関係にあるわけでもなければ、そもそも恋人ではない。 かといって、友達だとかセフレだとか、一言で関係を形容できればいいのだが、そのどれもしっくりこない。 「君と話しているときも、わた

          「君は秋だ」