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物食日記

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美味しいもの、美しいものが好き。 散歩とスナップに夢中。
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2023年6月の記事一覧

子安の小屋

子安の小屋

日産の東神奈川営業所へ電気自動車LEAFの点検を出しに行く。場所は東京湾から海水が流れこむ子安運河そば。点検の待ち時間に近くの富士見橋から常磐橋にかけて漁村界隈を歩いた。

前回訪ねたのは20年ほど前。運河沿いと船上に小屋が立ち並ぶ風景は当時のままのように思える。

東京湾を漁場とするアナゴ漁師は減っているものの、今は屋形舟の置き場としても舟着場が活かされているようだ。

小屋は単なる作業場や道具

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小屋、再び

小屋、再び

必要最小限の小さな空間に安らぎを覚えるのは東京佃島、月島の狭小住宅「長屋」に囲まれて育ったからだろうか。現在、葉山で生活する細長くコンパクトな家も一階が土間の京都町家や倉庫をイメージして鎌倉材木座の建築家、森ヒロシさんに設計してもらった。そんな嗜好の流れから無駄をそぎ落とした小屋に憧れを抱いている。粗野で使い勝手抜群。優れた道具みたいに機能的な小屋に住めたら。先日、世田谷羽根木のアトリエ&ギャラリ

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山桃シロップの季節

山桃シロップの季節

梅雨時季恒例、山桃が一斉に甘い実を落とし、地面を真っ赤に染めている。鎌倉の仕事場の山桃は例年になく大きな実を実らせて豊作。雨多き今年6月の天候が作用したのか、あるいは昨年の剪定が良かったのか。そろそろすべて落下しそうな気配だったのでグランドカバーを敷いて竹竿を枝に振り当てて収穫した。踏んでしまうとこびりついて熊手掃除が難儀だからだ。

捨てるのは忍びないから1.5kgほど持ち帰った。実は柔らかく傷

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カルイ納まる

カルイ納まる

家でいちばんくつろぎ、一日の心労をねぎらう場がリビングの寝椅子。その脇の書棚周辺には自分が最も惹かれる本と物を飾って眺め、触れながら日々、深い安らぎをもらっている。このスペシャルコーナーにずっと空けておいたスペースがあった。日本の工人が手がけた編組品のなかで自身がベストの造形美だと憧れる宮崎県高千穂町の背負い籠「カルイ」。いつか手に入れられたらここにディスプレイして愛でよう。出会いを想い焦がれて2

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半ドンの悦楽

半ドンの悦楽

昨日の土曜日は横須賀汐入のお寺に出張して半ドン仕事。金曜日にあらかた掃除、除草を済ませておいたから、昼前に余裕で完了できた。

ふだんは鎌倉の現場に係りっきりだから、たまの外出は何となしに心浮き立つ。ヴィンテージベルトに留める道具も他所行き仕様に。

剪定鋏もスイス、フェルコ社の『no.8』を。俳優の故・柳生博さんが営む「八ヶ岳倶楽部」にて柳生さん本人から勧められるまま入手したが、鎌倉での慌しい植

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永代バー

永代バー

隅田川河口に浮かぶ佃島に帰ると、その水辺にあるテラスを決まって歩き、ときには川風に吹かれて水辺で外呑みする。

タイミングは日没直後のマジックアワーあたりがベストだ。陽の暖色が消え入り、あたりはブルー一色に染まっていく。ビルの間から水面をほのかに照らす残光がドラマティック。

高層マンションの室内灯や街灯がぽつりぽつりと点灯し、屋形舟が次々と往来してさまざまなLED光の色を濃紺の景色に差す。

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「好き」の極地へ

「好き」の極地へ

審美眼を心底尊敬する葉山一色のO夫妻と親交が深い世田谷区羽根木のアトリエ&ギャラリーショップ『out of museum』を初訪問した。店主、小林 眞さんが集めたものが並ぶ空間。

東京、いや世界でいちばん目指したかったショップの扉を開いた。ついに実現できたという高揚感と緊張感が混じる心境。

人気セレクトショップのバイヤー、アート関係者、編集者がこぞって目指す聖地。いったいどんな人物が待ち受けて

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フラミンゴの縁

フラミンゴの縁

父が小学5年生まで育った水戸の川辺。今は当時の痕跡が無いと事前リサーチでわかっていても実際に訪ねてみようと思えたのは、その近くに以前から気になっていた茨城ご当地レストラン「メヒコ」の支店があるとわかったから。

たまたまの立地に縁を感じて、これは必然的な偶然なんだろうといつものように自分都合で思いこんだ(笑)。

客席の中央にフラミンゴを飼い、食事を楽しみながら眺められる趣向を凝らしている。初訪問

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Mの旅 余韻編

Mの旅 余韻編

益子(Mashiko)参考館のメキシコ(Mexico)工芸鑑賞、水戸(Mito)のシーフードレストラン「メヒコ」(Mexico)でのディナー。Mをめぐる日帰りトリップの余韻にいまだ浸っている。

先週は益子で購入した「泉's Bakery」のパンが毎朝の食卓に。濵田庄司家から自家製ヨーグルトを継いだ加守田泉さんがタネにしてヨーグルト酵母を発酵。栃木産小麦粉『ゆめかおり』を使ったパンは身体が悦ぶ優し

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Mの旅  後編

Mの旅 後編

益子を出て向かったのは水戸(Mito)。父が育った那珂川のほとりを目指した。父に親戚のおじさんであるアルピニスト芳野満彦との思い出を尋ねた際、おじさんが営む水戸駅近くの運動具店「モリ商会」に通っていたことを聞き、その流れで自身の家はどこにあったのか話が及んだ。父によれば住所は水戸市細谷(現・城東)で木造の橋のたもとに平屋が立地していたとか。あのあたり今はどうなっているのかなぁと遠い目をして懐かしん

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Mの旅 前編

Mの旅 前編

アルピニストのおじさんが晩年に暮らし、父が育った水戸を訪ねてみたいとふと思い、インターネットやGoogle mapを検索して主目的地周辺を探り、ルートプランを練りこんでいった。おじさんが営んでいた運動具店の建物は壊され痕跡は残ってないし、父の家に架かるようにあったという木造の旧寿橋は那珂川の氾濫で流され、あたりは人家がなく野草が繁茂する荒れ果てた雰囲気に。その寂しい現況が水戸市の資料、Google

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山に、登ろう。

山に、登ろう。

幼いころ、家族からお前は水戸のおじさんに似てるねと言われた。水戸中心部に立つ運動具店「モリ商会」に婿入りした親戚にあたるおじさんは凍傷で両足の指を失いながらモンブラン北壁を日本人で初めて登攀したアルピニストであり、世界で最も至近で雪男に遭遇した人(角幡唯介著『雪男は向こうからやって来た』参照)、芳野満彦だ。顔が似ているのではない。勉強はそっちのけで好きなことだけに夢中になる自分と、店の経営は叔母さ

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穏やかに淡く

穏やかに淡く

光と影のコントラストと彩度が高く、くっきりした現代のデジタル的描写が苦手だ。かといって今やとても費用がかかるフィルム撮影を日常で興じるのは現実的ではないし、味わい深いオールドレンズも持ち合わせていない。明暗部の差が緩やかで、色味も淡い、どこか郷愁を誘う穏やかなスナップを楽しめないかとリサーチしていたらケンコートキナ社が開発したフィルター『ホワイトミストno.1』に眼が留まった。

オールドレンズ風

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GFパンツ

GFパンツ

ital lifeデザイナー竹下さんに『GF PANTS』をオーダーしたのは一カ月ほど前。約束通りの納期に仕上げてくれたので東逗子のアトリエへ受け取りに伺った。

鎌倉での植木仕事帰りに寄ったのだが、この晩はインスタでLIVE配信を行うための準備で竹下さんは気ぜわなはずなのに、笑顔で悠然と迎えてくれた。ぼくにはとうてい無理な心のゆとりをリスペクト。というか、訪ねるタイミングを配慮しなくちゃと自省。

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