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永代バー

隅田川河口に浮かぶ佃島に帰ると、その水辺にあるテラスを決まって歩き、ときには川風に吹かれて水辺で外呑みする。

タイミングは日没直後のマジックアワーあたりがベストだ。陽の暖色が消え入り、あたりはブルー一色に染まっていく。ビルの間から水面をほのかに照らす残光がドラマティック。

高層マンションの室内灯や街灯がぽつりぽつりと点灯し、屋形舟が次々と往来してさまざまなLED光の色を濃紺の景色に差す。

日没以降みるみると闇に溶けいっていく葉山の静けさとはまるで異質の東京ならではの賑やかな光景である。

永代橋のライトアップが起動するころ、釣りに興じたり、ベンチでお喋りに夢中になっていた人たちの多くが家路につき始め、川辺は静まりかえっていく。

いよいよ、ぼくにとっての水際バーの開店だと心安らぐ。

セブンイレブンの買ってきたビールや安ワインを手に水の妖しい流れを見つめ、しばらく涼み、憩う。梅雨の湿気も祓われるが、夏になったら日中の熱射でコンクリートにこもった熱気が深夜から朝方までむんむんと放出され、こうまで快適に過ごせない。今がちょうどいい時季なのだ。実家まではほろ酔いで歩いて10分。父が元気なうちは世界一安全な水辺バーの快楽にこれからも溺れ続けるんだろうなぁ。

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