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小屋、再び

必要最小限の小さな空間に安らぎを覚えるのは東京佃島、月島の狭小住宅「長屋」に囲まれて育ったからだろうか。現在、葉山で生活する細長くコンパクトな家も一階が土間の京都町家や倉庫をイメージして鎌倉材木座の建築家、森ヒロシさんに設計してもらった。そんな嗜好の流れから無駄をそぎ落とした小屋に憧れを抱いている。粗野で使い勝手抜群。優れた道具みたいに機能的な小屋に住めたら。先日、世田谷羽根木のアトリエ&ギャラリーショップ「out of museum」を訪ね、アトリエの書棚に挿されたムック本『小屋の力』を眼にしたとき、再び熱情が呼び覚まされた気がした。

2001年発行の分厚い一冊。版元ワールドフォトプレス黄金期に編まれた入魂の小屋本決定版。その背表紙を久々に眺めていたら、じっくり読みこみたくなり古書を入手。年に数回酒を酌み交わしている先輩編集者Fさんが何ページにもわたって寄稿したテキストを興味深く読み、無性に近所の小屋を再訪したくなった。

日曜日の早朝、まず向かったのは鎌倉坂ノ下の漁師小屋。潮風で風化した杉板の味わいがたまらないが、見どころはそのそばにある。

海岸に打ち上がってた流木や竹を掘った作品、オブジェ群がずらっと独特な美意識を持ちつつ、豪放に並べられている。小林さんのインスタ投稿で存在を知り、たぶん由比ヶ浜なあのあたりだと見当つけて行ったら正解だった。

製作者はたぶん、しらす漁に従事する鎌倉のフィッシャーマンだろう。仕事の息抜きに打ち上げ物を選び拾い、造り、飾る。その一連の眼と手の動き、嗜好を想像しながら拝見していたらおのずと夢中になってスナップしていた。20数年前、ビーチコーミング専門書籍を企画、編集するほどの夢中ぶりを懐かしみつつ、野趣に満ちた力強いフォークアートに魅せられた。

次に向かったのは葉山マリーナ脇の諏訪町下海岸。

葉山の古い地層が露わになった穴場的ビーチには漁師の作業小屋が立っている。

ここもシラス漁が主軸の加工場なのだろう。海が荒れない限り毎日のように漁が繰り返されては塩茹でしたり天日干ししたり。活気あるシーンを映す作業小屋の景色である。機能本位の簡素な造りをしたテーブルの佇まいが佳い。

素材は流木などをアップサイクル。あたりにあるもの、打ち上がったものを豊富にストックし、用に活かす。その創意工夫に自然とともに生き抜くたくましさを感じ、姿勢をリスペクトしてしまう。鎌倉と葉山、漁師の小屋周辺を改めて訪ね、また大きな勇気を授かった。

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