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かきもの

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2022年9月の記事一覧

【詩】恋人。

【詩】恋人。

私は恋人に逢いたくてしかたがなかった
逢って抱きしめたかった
抱きしめられたかった
恋人のそばで何も考えず
ただ目を閉じて眠っていたかった

家族と抱き合うことが減ったのは
夏の暑さのせいだけではない

あの人と抱き合う時の感動を
感じることができないのが辛いから

けれども何年かたてば
私たちは今ほど、抱き合うことに重きを置かなくなる
それ以外のもので満たされるから
それはとても
幸せなことだ

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小説を書き直す作業。

小説を書き直す作業。

今日は昨日より、どこか憂うつで。

外に生えている木々が日に照らされ、窓のブラインドに陰をつくっている。時々風に吹かれ、陰がゆらゆら揺れていて、それを眺めていると、心が外を散歩しているような、そんな心持ちになる。

以前書いた小説「蝉しぐれ。」を書き直している。読み返すうちに、物足りなくなったというか、もっと作り込みたくなった。

梶井基次郎の「檸檬」などは、京都の街並みを見て歩き、そこで過ごした

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【小説】蝉しぐれ。

【小説】蝉しぐれ。

プールの次の授業が古文というのは、どうかしている。案の定、クラスの半数は寝こけていて、その他の人も普段ほどは集中できず、ゆるんだ空気が流れている。

初夏は好きだ。まださほど蒸し暑くなく、風が心地よい。ほんの少し湿った、新緑の空気をはこんでくる。木陰にすわって、本を読みながらまどろむのなんて、最高に違いない。

朱里はふと窓辺に目をやった。学は窓ぎわの、前から三番目の席。頬づえをついて、窓のそとを

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