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「本屋、はじめました」 辻山良雄

「この人は何かしらそれに捧げている」ということが暗黙裡にも見ている人に伝わらないと、見ている人のこころは動かせないし、ましてや足を運ばせることはないと思います。」




「本屋、はじめました」 辻山良雄


「本屋Title」のことは、本や雑誌で紹介されていたので知っていましたが、この本の著者・辻山良雄さんが「本屋Title」を開業するまで、書店の「リブロ」に勤めていたことを僕は知りませんでした。


2018年、アスピア明石というショッピングモールの中にある「リブロ明石店」に立ち寄ったときのことです。書店の中に入ってみると「リブロ明石店」が閉店することが書かれていました。


よく立ち寄っていた書店でしたが、その日は、なぜかひときわ目に入ってきた本がありました。その本が辻山さんの「本屋、はじめました」。


僕は「本屋」という仕事に憧れがありましたので、瞬発的に絡むように目についたのかもしれません。積まれていたこの本をザ~ッとめくったあと、そのままレジに直行しました。


「リブロ明石店閉店」
「本屋、はじめました」 


町の書店がひとつなくなって、新たに本屋をはじめる人がいる。頭の中が真空状態になり、カラダが勝手にこの本を手に取り、自動的にレジの方へ動かされたという感覚でありました。


家に帰ってこの本を読むと、辻山さんがリブロ書店に勤めていたことがわかりました。リブロ池袋本店・閉店のくだりを読んでいると、今日この本を買ったことが非常に感慨深く感じられました。


久しぶりに「本屋、はじめました」を手にしてみました。そうすると、あの日の書店の本が積まれていた場所、店員さんがブックカバーをしてくれたこと、地元明石の本の特集をしていたことなど、本を買ったあの日の記憶がよみがえってきました。


現在は「本屋、はじめました」の文庫本が出ているようですが、僕が持っているのは「苦楽堂」さんの単行本の方でして、この本の装丁が良くて、とても気に入っています。


表紙の絵やフォントが眉目麗しく、
はさんである栞が本を上質に彩っています。

栞は最後のページ(奥付と言うのでしょうか)に羊毛紙と書かれていて、他にも本文仕様や装丁仕様など、素人には皆目わかりませんが、なんだかすごくこだわって創られているのが伝わってきました。


栞の手触りが、和紙っぽくて羊の毛みたいにとてもあたたかく感じます。図柄は版画のようなデザインで趣深い。


あの日、あの時、瞬間的でしたが、「この本を買ってよかった」と栞の手触りのような満ち足りた気持ちになりました。

この本の第一章は、辻山さんが子どもの頃、いつも本が身近にあった話から、リブロ入社後の、福岡、広島、名古屋の店舗を経て、池袋本店の閉店までの話でありました。この稿を読んでいて、リアルに脳内に湧き上がってきたものがありました。


本屋の記憶は、年を経ても記憶のどこかに強烈に残っているということ。


「この本はあの本屋で買った」


「あの書店のあの棚にあったこの本を
見つけたときの感動を、未だに覚えている」


思い入れのある本と本屋の記憶は、強烈にひもづいていると感じたのです。


日頃、過去の記憶は忘れがちなんですけど、本屋だけは自分にとって特別な空間なのか、事細かに思い出されることがあります。そのときの店の照明や匂いまでいっしょに。


僕だけなのかもしれませんが、本が好きなあなたなら、きっと似たような感覚をお持ちではないでしょうか?


第2章からは辻山さんの書店への思い、こだわり、新刊書店開業までの道のりが体験的に語られています。


この本の中でも触れていますが、「Title」のホームページには「毎日のほん」というタイトルで毎日本の紹介をされています。


「毎日のほん」は的確でわかりやすく興味をそそられます。1分で読めて、1冊読んだ気分になるのでワクワクします。これは毎日欠かさずUPされているので、辻山さんの読書量の多さと本への情熱が感じられます。


そして


この言葉が本屋という仕事だけではなく、あらゆる仕事に共通する辻山さんからのメッセージであると。

これだけさまざまな情報に溢れている今、「この人は何かしらそれに捧げている」ということが暗黙裡にも見ている人に伝わらないと、見ている人のこころは動かせないし、ましてや足を運ばせることはないと思います。

「毎日のほん」は、「本を紹介するのが本屋のしごと」という、前から自分が思っていたことをかたちにしてくれました。

書店の店頭によくあるPOPもまったく同じことが言えます。

自分の思ったことを素直にそこに書くことがそれを見たお客様にいちばん伝わります。最初は下手でもいいから書いているうちに、自分なりの方法が見つかるのです。


この本に流れている辻山さんの哲学を読みながら、「いつか「Title」に行きたい!」「近くに「Title」があったら、何度も足を運ぶのに!」と夢想していました。


「Title」のような本屋を始めたい人には、とても参考になる詳しい解説が載っていますし、本屋を始めるまでと始まってからのLIVE感を楽しめます。


本とはなにか?


これは、新聞に載っていた辻山さんの記事を切り抜いて、この本の栞とともに挟んでいました。辻山さんの核が語られています。


この言葉を、心のどこか片隅に挟んでもらえたら幸いです。


「本ではおなかは膨れない。

でも人間らしく生きようと思うと最低限必要なものだと思います」



【出典】

「本屋、はじめました」 辻山良雄 苦楽堂


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