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「蛭子の論語」 蛭子能収



「自分が嫌だと思うことは、他人にもしない」 ━ それはまさしく、僕が生きていくうえでの基本方針ですからね。」

   


「蛭子の論語」 蛭子能収



前に、テレビ東京の番組をよく見ていることを書きました。


とくに好きな番組が「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」


太川陽介さんと蛭子能収さんの名コンビにマドンナを迎えて、路線バスだけを乗り継いでゴールを目指す番組です。(現在、蛭子さんは卒業されましたが)


リアルなゲームを見ている感じで、テレビを見ているこちらもバスの路線が繋がらなくて絶望したり、一緒に奇跡の乗り継ぎに歓喜したり、まるで人生の縮図を見ているような気持ちになるのですね。


蛭子さんにとってもバス旅は、いろいろ考えさせられることが多かったのでしょう。この本の中でも折に触れて、バス旅のことが出てきます。


こんな深いことを、バス旅の中で考えていたんだという箇所がありました。


バス旅のリーダーは、太川陽介さん。基本的にマドンナと蛭子さんは太川さんの言うとおりに行動します。


その次の決定権が、マドンナなんですね。蛭子さん曰く。


蛭子さんはむしろ、自ら決定権を放棄しています。基本的に2人に任せている。

極力、「自己主張をしない」というのが、僕の基本方針のひとつです。


さらにもうひとつ気をつけているのが、太川さんがごくたまに責任感と疲れとストレスでマドンナとうまくいかなくて、愚痴を言いたくなるときがあるそうです。


そんなときも、蛭子さんは太川さんに同調しないようにしているのだと。

グループ内では、必ず多数派と少数派が生れて、その一方が一方を差別するような構図になりがちです。

3人というのは、僕ひとりでどの状況を防ぐことができるギリギリのラインなんですよ。

僕を含めた2対1の構図にならないよう、常に1対1の関係になるように調整する。そのためには、僕、つまり残されたひとりが一歩引いた立場から全体のバランスを見ていたほうがいいと考えているんです。


太川さんと蛭子さんの名コンビは、この信頼と安心があったのでしょう。このように、バス旅においての蛭子さんの「考え」が語られていました。


バス旅の話になってしまいましたが、蛭子さんがこの本を執筆するきっかけになったのが「ひとりぼっちを笑うな」という本を出版したことでした。その編集者さんにこう言われました。「蛭子さんの考えは、孔子の思想に通ずるものがあります」と。


そうして、訳してもらった論語を読み、自分の感想を綴ったものが本書、「蛭子の論語」なんです。

子曰く、三人行けば、必ず我が師有り。其の善なる者を択びて、之に従い、其の不善なる者は、之を改む。

【訳】 老先生の教え。自分を含めて三人が同行するとき、必ず自分にとって師となる人がいる。

善き人であれば、その善いところを選びとってまねよう。悪しき人であれば、そうならないようにと反省する。


この言葉からご自身を俯瞰してみて、バス旅での自分の役割のことなどを考えて述べられています。


蛭子さんの言葉は、とても深いものがたくさんありました。論語を読んで、ご自身に置き換え、自由に意見を述べられているのです。


その中から印象に残った、蛭子さんの哲学「蛭子の論語」を以下にご紹介します。

命を賭けて争うと言えばなんとなくカッコいいし美談に聞こえそうだけど、最終的には悲しみや暗い過去しか残りません。
自分にとっていちばん大切なもの    ━ それはやっぱり、「命」なんですよ。
〝義〟というものも、考えようによっては怖いものだと僕は思っています
仕事では協調性を発揮して、みんなで進める。でも、それが終わればみんなと別れて、自分の思うがまま好きなように過ごす。
人間って、「まわりが自分のことを理解してくれない」とか「本当の自分はこうじゃないはず」とか思いがちですよね。ただ、自分が本当に理解されることなんてあるのかな?
自分にウソをつくことの何が怖いかって、自分につくウソは、いつの間にか真実になってしまうんですよ。
「あなた自身のことなんて、そもそも誰も興味がありません。まずは、そこをわからなくてはいけないんじゃないかな?」
〝未来〟とか〝将来〟とか、そんな大きいことじゃなくていいんですよ。ちょっと先のことを見通す想像力だけで十分なんです。
『論語』の中でも、特に印象的だったのは、「己の欲せざる所は、人に施すこと勿れ」という箇所でした。「自分が嫌だと思うことは、他人にもしない」 ━ それはまさしく、僕が生きていくうえでの基本方針ですからね。


論語を読んで考えた蛭子さんの論語


上記の言葉の前後の語りにも、いろんな人生のヒントとなるような深い言葉がありました。


本の文体が、テレビの蛭子さんのやわらかい口調と同じですので、とても読みやすく感じますよ。


テレビでは感じることのない(失礼しました) 蛭子さんの深い言葉が、読んでいて考えさせられますし、印象的でありました。

その場限りの雑多な情報や煩雑な人間関係は切り捨てて、太古の昔から今に至るまで脈々と読み継がれてきた普遍的な「言葉」に耳を傾けながら、ブレない自分をひとりぼっちで作り出すこと。

ひょっとするとそれが、「自由に生きること」へのいちばんの近道なのかもしれません。


  

【出典】

「蛭子の論語」 蛭子能収  角川新書



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