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【キネマ旬報】1954年日本映画ベストテン

こんにちは。今回は新シリーズです。
海外の映画の指標としてはアカデミー賞、三大映画祭などがありますが、日本映画においては何でしょう?
そう考えたとき、やはり一番頼れるのはキネマ旬報ベストテンではないでしょうか。
日本の映画賞というとテレビ放映される「日本アカデミー賞」を思い浮かべるかもしれません。しかし日本アカデミー賞は1978年からのかなり新しいものです。
対してキネマ旬報ベストテンは1924年からある世界最古クラスの映画賞なんです。
特色としては近年になって一般投票で選ばれる読者選出ベストテンというのもできましたが、基本は批評家や評論家、ジャーナリストなどによって選出されるため玄人好みの映画が多いことでしょう。
ドキュメンタリー映画がベストテンに入る、はたまたベストワンに選ばれるということもままあります。

そんなキネマ旬報ベストテンを基に日本映画を観てきたのですが、先日1954年の日本映画ベストテンをコンプリートしました。

その所感、そして個人的ランキングを書いていきたいと思います。

1954年キネマ旬報日本映画ベストテン

  1. 二十四の瞳(木下惠介)

  2. 女の園(木下惠介)

  3. 七人の侍(黒澤明)

  4. 黒い潮(山村聰)

  5. 近松物語(溝口健二)

  6. 山の音(成瀬巳喜男)

  7. 晩菊(成瀬巳喜男)

  8. 勲章(渋谷実)

  9. 山椒大夫(溝口健二)

  10. 大阪の宿(五所平之助)

所感

 さて、この年は1、2位を木下惠介作品が独占しました。黒澤明の『七人の侍』が3位に甘んじたという意味で非常にレベルが高い年と言えるでしょう。
 配給収入を眺めると、3位に『七人の侍』、5位に『二十四の瞳』が入っています。1位は国民的メロドラマ『君の名は』第三部、2位は松竹製作で八代目松本幸四郎主演の『忠臣蔵』となっています。また、8位には『ゴジラ』が入っています。
 キネ旬ベストテン11位以下では11位に小林正樹『この広い空のどこかに』、13位に吉村公三郎『足摺岬』、14位に山本薩夫『太陽のない街』などがあります。
 さて、ベストテンでは木下惠介の活躍がまず一番に注目されるでしょう。今も名作として名高い1位『二十四の瞳』は小豆島を舞台に第二次大戦に翻弄される教師と生徒を叙情的に描いた作品です。大して2位『女の園』は全寮制の女子学校を舞台に封建社会の闇をドライに描いています。木下惠介の作風の広さを表す二作品と言えます。
 成瀬巳喜男と溝口健二も二作品ランクインさせています。成瀬は6位『山の音』7位『晩菊』です。どちらも原作が非常に有名で、成瀬らしい女性観で静謐に演出された文芸作品でした。溝口は5位『近松物語』9位『山椒大夫』です。どちらも海外で人気のある作品ですよね。『近松物語』は江戸時代、『山椒大夫』は平安時代を舞台にした時代劇で、溝口らしい静かで残酷な作品です。
 渋谷実も8位『勲章』で骨太な演出をみせ、監督二作目となる俳優・山村聰の4位『黒い潮』も井上靖の同名小説を原作に見事な脚色をみせました。ベテラン五所平之助も10位『大阪の宿』で安定感のある演出をみせました。
 このうちオリジナル脚本は『七人の侍』と『勲章』のみ。原作を持つ作品が多いのも特徴と言えるかもしれません。

個人的ランキング

 ここでは個人的ランキングをつけて記していくのですが、この年の10作品はハズレは一作もありませんでした。本当に名作揃い。全部観るべき名作だということを念頭に置いて読んでいただきたいです。

10位 『大阪の宿』(五所平之助)

 水上滝太郎の同名小説を原作とする作品で、東京から大阪へ左遷された男が逗留する酔月荘を中心に繰り広げられる人情ドラマ。
 佐野周二演じる男はある事情から左遷されたことが分かります。彼は人一倍正義感が強く、人間味の薄れた社会を嘆いているのです。乙羽信子演じる芸姑は佐野周二に惚れているようですが、決して口には出さず報われることもありません。彼女の気の強さが乙羽信子に合っていてとてもよかったですね。
 資本主義の波に呑み込まれ人情が薄れ何でも金になってしまった世の中でそれぞれがもがく様を流麗で美しい演出で紡いでいきます。キャラクターをおざなりにせず丁寧に描いているのが素晴らしいですね。
 ただ、大団円となるラストの宴会は少しとってつけたような印象を受けてしまい違和感が残りました。

9位 『晩菊』(成瀬巳喜男)

 林芙美子の同名小説の映画化で、杉村春子演じる元芸者の金貸しを中心とした女性映画です。
 杉村春子演じるおきんがとにかく小憎たらしくて笑ってしまいます。「私は元売れっ子芸者であなたたちとは違うんです」とでも言いたげな、人を小馬鹿にしたようなあの目!さすがは杉村春子ですね。
 元芸者の四人の女、そして望月優子演じるとみの娘幸子を含めた五人の庶民としての暮らしをユーモラスに、でもやはり鋭く描写しています。盛りを過ぎた女の悲哀、それでもなおしみったれた世の中で生きていくしかないという成瀬ならではの女性映画です。
 原作者の林芙美子と成瀬は『めし』『稲妻』『妻』に続く黄金コンビであり、安定感がありますね。非常にいい作品ですが、このラインナップの中では地味で大人しく感じるのも事実です。

8位 『勲章』(渋谷実)

 元軍人で、終戦後は一家で義弟の家に居候し疎まれている岡部を中心に繰り広げられる風刺劇です。戦前に囚われた旧世代と、自由な思想の新世代を対比させて描いています。勲章は戦前軍国主義の象徴です。
 元軍人の岡部が昔の部下に祭り上げられ勘違いしていく様を滑稽に描いています。しかしながら結末はなかなかにハードです。
 とにかく演出に勢いがあります。全体的に非常に端正ながらも、力強いストーリーテリングがなかなかよかったです。
 ただ、僕自身戦争を絡めた風刺劇があまり好きではないんですよね。とてもパワフルで面白かったですが、どちらかというと勢いに持っていかれた感が強かったです。
 本作は現在ソフト化されていないようで、アマプラのレンタルでしか観られませんでした。それは非常にもったいないのでソフト化してほしいです。

7位 『二十四の瞳』(木下惠介)

 キネ旬ベストテンでは『七人の侍』を抑えて1位に輝いた名作中の名作ですね。原作では特にどこの島という指定はないのですが、この作品が小豆島が舞台としたことで、それが定着したそうです。
 木下惠介は日本の映画監督の中で一番好きなんですが、本作はそこまででした。期待が大きすぎたというのもあると思いますが。
 説明的な描写が多く、長く感じられました。もう少しテンポアップしてほしかったというのが本音です。
 しかしながら木下惠介の映画づくりの上手さは疑いようがないですね。そもそも二時間半で女教師と12人の生徒を描ききるというのは驚異的!
 序盤が本当に素晴らしく、小豆島のある種閉鎖的な空気感もありつつ、自由な性格の先生と子どもたちの開放的な絆が悠々と描かれています。中盤は中だるみを感じましたが、終盤の自転車のシーンは泣いてしまったし、締め方も説明的でなくスマート、さすが木下恵介という感じです。

6位 『山の音』(成瀬巳喜男)

 川端康成の同名小説を映画化した作品で、原節子と山村聰が主演をつとめています。
 山村聰演じる老夫婦と、上原謙演じる息子と原節子演じる嫁の夫婦は同居しているが、息子の浮気を知ったことにより波紋が生じていく様を静謐に、美しく描いています。
 成瀬ならではのショットと構図の見事さは今回も冴え渡っています。注目してほしいのが、原節子がいつ初めて正面顔のアップになるかということです。ほとんどスリラー的にドキッとさせられる演出が見事です。
 成瀬作品は伝統とモダンのバランスが上品で上手いんですよね。能面とレコードといった小道具はもちろん、日本の伝統的な家制度に対して結末はそれに反するものという対比も面白いです。
 原作ファンとしては原作には及ばず、成瀬作品としては水準作かなとは思います。ただ冴え渡った鋭い演出は素晴らしく、このラインナップの中で題材は極めて地味ながら埋もれることのない傑作だと思います。

5位 『女の園』(木下惠介)

 厳しい規律のある女子学校において生徒たちがそれに反発し、民主化運動が巻き起こっていく様子を描いています。学生の自由、そして学園の理想が真っ向から対立していきます。
 木下らしい淀みないストーリーテリングと流麗な横移動のカメラワークが素晴らしい作品でした。
 『二十四の瞳』とは全く異なる作風となっているのが面白いところです。ここまで封建的社会への反発を直接的に示すのって木下恵介にしては珍しいのではないでしょうか。そういう意味では異色と言える気がします。そういう意味で近いのは『太陽とバラ』あたりでしょうか。
 演出の上手さも存分に味わえつつ、封建社会への反発をダイレクトに、鮮烈に描いていてそのバランスがすごくいいですね。

4位 『黒い潮』(山村聰)

 俳優・山村聰が1949年に実際に起きた下山事件をもとにした井上靖の同名小説を映画化した作品です。山村聰を筆頭に左幸子、滝沢修、東野英治郎といった渋い面々がキャスティングされています。
 記者の視点だけに絞ったのが上手く、山村聰演じる社会部デスクを通してメディアの公平性が揺るがされる様を骨太に描いています。
 事件の概要だけを表面的に描くことは避け、あくまで新聞記者としての立場から見た視点で一貫させています。また他殺、自殺という明言は避けてジャーナリズムの本質に迫った作品にもなっているという点でも山村聰の監督としての手腕が存分に窺われます。
 テンポがよく整理された演出も素晴らしく、ほとんど新聞社内で起こるのに全くダレないんですよね。主人公・速水というキャラクターに命を吹き込んだ山村聰がとにかく偉い!俳優としても監督としても完璧な一作です。

3位 『近松物語』(溝口健二)

 近松門左衛門作の人形浄瑠璃の演目『大経師昔暦』を下敷きにして川口松太郎が書いた戯曲『おさん茂兵衛』を映画化した作品です。
 これぞ溝口健二!という傑作ですね。もはやあまり言うことはないんですよね。溝口健二がとにかく大好きなので…
 丁寧に描写をしてるので破綻もなく、悪い意味でなく収まるべきところに収まる様式美がありますね。
 歌舞伎や浄瑠璃を基にした悲劇ってどこか自死して美化されるところあると感じているんですが、本作はそんな綺麗事には収まらないのがいいところだと思います。長谷川一夫と香川京子の演技も素晴らしく、最後の二人の表情に全てが詰まっていますよね。文句のつけようがないです。

2位 『七人の侍』(黒澤明)

 映画史上最高傑作にあげる人も多い黒澤明の代表作です。2億円以上の製作費をかけた超大作で、この映画から広まった手法なども数多いことで知られています。世界中の映画人に影響を与え、日本映画史上最も知られている作品ではないでしょうか。
 雨の中の決闘シーンや焼け落ちる家のシーンなど凄いシーンはたくさんあるんですが、僕的には斬られて倒れスローモーションになるシーンが…!息を呑むような神がかった演出ですよね。
 深い人間ドラマに迫力のアクションシーンの数々…全てにおいてスケールの大きな傑作です。黒澤明はそこまで大好きなわけではないのですが、本作に関してはもう「参りました」としか言えません。ここまでされたらもう降参です。

1位 『山椒大夫』(溝口健二)

 ヴェネツィア国際映画祭で監督賞を受賞した溝口健二の代表作ですね。これもまた日本映画史上最高傑作との呼び声が高いですよね。溝口は『西鶴一代女』『雨月物語』に次いで3年連続でヴェネツィア国際映画祭に入賞し、海外でもその地位を固めました。
 もとになった安寿・厨子王伝説はもうそれだけでこれ以上なく哀しい話なのに、それを溝口健二が手掛けたらもうね。
 全てのシーンが神がかっているとしか思えません。最も哀しく残酷で、そして最も美しい映画だと思います。ゴダール『気狂いピエロ』でもマネしている最後の長回しはもう唖然でした。感動という言葉では表しきれない感情の波が襲ってきて、その感覚は未だに忘れられません。溝口健二作品では圧倒的に好きですし、本当に日本映画最高傑作だと思います。ダントツ1位。


ということで今回はこれで終わります。
どれも名作すぎて順位をつけるのが苦しかったです。
またやる予定なのでお楽しみに!
お読みいただきありがとうございました。


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